正月の風物詩「十日戎」とは?
正月になると、全国各地でさまざまな新年行事や祭礼が行われます。「十日戎(とおかえびす)」もその一つで、関西地方を中心とした西日本では、商売繁盛を祈願する多くの人々で盛り上がります。
財福の神に商売繁盛を祈願する行事
十日戎は、財福の神である「えびす様」に商売繁盛を祈願する行事です。
えびす様とは七福神の一柱で、昔から漁業の神や市場の神(市神)として庶民に大切にされてきました。風折烏帽子(かざおりえぼし)をかぶり、右手には釣り竿、左手には鯛を抱えているのが特徴です。
十日戎は、えびす様を祭る神社の境内や門前町で行われるのが一般的です。神社によっても異なりますが、開催日は毎年1月9~11日の3日間で、9日を宵戎(よいえびす)、10日を本戎(ほんえびす)、11日を残り福(のこりふく)と呼ぶところもあります。
「えびす講」の一種
十日戎は、関西地方を中心とする西日本で行われている行事であり、関西以北に住んでいる人にとってはあまりなじみがないかもしれません。ただし、豊漁や商売繁盛を祈願する民間行事「えびす講(えびすこう)」は、日本全国で行われており、十日戎もえびす講の一種といえます。
関東以北では、10月20日(月遅れは11月20日)または、1月20日に「二十日戎(はつかえびす)」を行うことが多いようです。例えば、東京都中央区にある「寶田恵比寿神社(たからだえびすじんじゃ)」では、10月20日頃に商売繁盛を祈願する「べったら市」が開催されます。
長野県長野市の「西宮神社(にしのみやじんじゃ)」では、11月18~20日にかけて「長野えびす講」が行われ、県内外から多くの人が訪れます。
十日戎では何をする?
豊漁や商売繁盛のお祭りだけあって、十日戎はひときわ華やかです。御利益にあやかろうと、えびす様を祭る神社には、多くの参拝客が訪れます。十日戎に集まった人々は、どのようなことをするのでしょうか。
縁起物の購入
神社の境内などでは、十日戎で奉仕する「福娘」と呼ばれる女性たちが、「福笹(ふくざさ・ふくささ)」を配ります。福笹は、孟宗竹(もうそうちく)の枝先にさまざまな縁起物を付けたものです。
竹は日本人にとってなじみの深い植物で、昔から生命力や若々しさ、力強さの象徴とされてきました。飾りは「吉兆」や「小宝(子宝)」と呼ばれ、野の幸・山の幸・海の幸がモチーフとなっています。
十日戎で飛び交う「商売繁盛、笹持ってこい!」のかけ声は、「笹を持ってきたら商売繁盛させるよ」という意味です。なお、笹自体は無料で授与される場合もあります。
飾る場所と処分方法
福笹や熊手は、自宅の神棚に飾るのがよいでしょう。神棚がない場合は、目線よりも高い場所に飾ります。リビングや玄関・オフィスに飾っても構いませんが、トイレやごみ箱の近くなど、汚れている場所や人が通り抜ける場所は避けるのが基本です。
縁起物は、小正月に神社の境内や地域で行われる「どんど焼き」で処分するか、神社の納札所を利用しましょう。処分に困ったら、購入した神社に問い合わせてみるのも一つの方法です。
商売繁盛の祈祷・イベントへの参加
多くの神社では商売繁盛の祈祷を行っており、境内は「今年も商売がうまくいきますように」と願う人々であふれます。祈祷とは、願いを神仏に伝える儀式です。自分でお願いごとをする「祈願」と違い、神主や祈祷師が祈りを捧げます。祈祷料の目安は、数千円~1万円前後です。
福餅まき・神楽神事・駕籠(かご)行列・マグロ奉納などを行うところもあり、十日戎の行事は神社によってさまざまです。大抵は3日間にわたるため、神社の公式サイトなどで行事の日程を確認しておきましょう。
十日戎で有名な神社を紹介
大阪や兵庫など、昔から商業の中心地として栄えてきた地域では、十日戎の行事が盛大に行われます。十日戎で有名な神社をピックアップして紹介します。
兵庫県「西宮神社」
兵庫県西宮市の「西宮神社(にしのみやじんじゃ)」は、えびす様を祭る神社の総本社です。1月9日の宵戎は、有馬温泉の芸者による献湯式(けんとうしき)や宵宮祭(よいみやさい)が行われ、深夜0時に全ての神門が閉ざされます。
「十日えびす大祭」の当日は午前6時に神門を開き、「開門神事福男選び」を行うのが恒例です。約230m離れた本殿へ走り参りをし、1~3番目に到着した人がその年の「福男」となります。
境内には縁起物を扱う吉兆店や露店が軒を連ね、3日間の参拝者数は100万人を上回るといわれています。
大阪府「今宮戎神社」
大阪市浪速区にある「今宮戎神社(いまみやえびすじんじゃ)」は、「えべっさん」の愛称で親しまれる神社です。平安後期、四天王寺の西門に浜の市が開かれ、市神としてえびす様が祭られるようになったといわれています。
江戸時代より、宵戎に「雑喉場(ざこば)魚市場」の人々が大鯛を奉献するのが恒例で、明治から昭和前期にかけては、盛大な献鯛行列が行われていました。現在は大阪木津市場の人々が「十日戎献鯛神事」を奉納しています。
1月10日の本戎は、有名人などを乗せた「宝恵駕行列(ほえかごぎょうれつ)」の一行が街を練り歩きます。
京都府「京都ゑびす神社」
京都市東山区にある「京都ゑびす神社」は、1202年(建仁2年)に建立された歴史のある神社です。えびす信仰の象徴ともいえる笹は、京都ゑびす神社の御札の形態が広まったものといわれています。
「十日ゑびす大祭(通称・初ゑびす)」は、1月8~12日の5日間です。8日の招福祭と9日の宵ゑびす祭は、東映の女優が宝恵駕に乗り込み、太秦(うずまさ)にある映画村から神社へと参拝します。10日・11日は、東映女優や舞妓による福笹の授与が行われ、福を求める多くの人でにぎわいます。
十日戎でえびす様の神徳を授かろう
十日戎は、商売繁盛を祈願する新年の行事です。関東以北に住む人にとっては、あまりなじみがないかもしれませんが、関西では新春を告げる一大イベントです。
えびす様を祭る神社では、さまざまな神事や行事が執り行われ、あちこちで「商売繁盛、笹持ってこい!」のおはやしが鳴り響きます。
福男選びや宝恵駕行列といった独自のイベントもあり、一口に十日戎といっても神社ごとの個性が際立ちます。商売繁盛や好景気を願って、新年は家族で十日戎に足を運んでみるとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部