コロナ禍以降も続くマスクスタイルが私たちの暮らしに定着し、学校や職場でもお互いに素顔を見る機会が減ったのではないでしょうか? しかし、食事の時はもちろん、人と人との大切なコミュニケーションの場では、やはりマスクは不要。白い歯を見せた笑顔は、場を和ませる魅力があります。
歯を白くすることすべてが、ホワイトニングではない
歯の美白と聞いて興味のある方は少なくないでしょう。白い歯は健康的なイメージの象徴であり、顔の見た目にも好印象を与えます。
しかし、「歯を白くすること=ホワイトニング」とは限らないのをご存じでしょうか? 広い意味では歯を白くする施術全般を指し、下のリストのようにいくつか挙げられます。
【広義のホワイトニングの種類】
・ブラッシング:歯磨き
・PMTC:プロ(歯科医師・歯科衛生士)による機械的クリーニング
・レジン充填:歯に白い樹脂を埋める。
・デンタルマニキュア:塗料を歯にコーティーングして白く見せる。
・ラミネートべニア:歯の表面を削り、セラミックなどで作られた薄い板を張り付けて白く見せる。
・クラウン:歯の全周を削り、白いかぶせ物(冠)をかぶせる。
※ブリーチ:薬剤を使って歯自体を漂白する。→狭義のホワイトニング
例えば、カレーやコーヒー、緑茶、タバコなどで歯に付着した茶色い着色(ステイン)を除去して歯面を白くする方法(図1)や、前歯の虫歯治療で歯を削った後に白い樹脂(レジン)を埋める方法があります(図2)。
さらに、歯の全体を覆う冠(クラウン)をかぶせる方法(図3)もありますが、いずれも狭義の(一般的にいうところの)ホワイトニングではありません。
つまり、ホワイトニングとは「歯自体を削ったりすることなく、薬剤の力により色を白く(漂白=ブリーチ)すること」なのです。
ホワイトニングに関する統計データ
ホワイトニングの関心度や、実際に行った人の割合はどれくらいなのでしょうか?
2022年に株式会社GCが18~69歳の10000名に対して実施したアンケート調査では、約7割の方がホワイトニングに興味はあるものの、実際に経験したのは1割程度にとどまりました(図4)。
つまり、関心を持ちながらも実際に行うのを迷っている人が多いことを表しています。
年代別では20歳~40歳代が多く若い人が中心ですが、ためらう理由として推測される項目を挙げてみましょう。
ホワイトニングに関するQ&A
Q,ホワイトニングは手間がかかる?
ホワイトニングは大別して歯科医院で行う「オフィスホワイトニング」と自宅で行う「ホームホワイトニング」の2つがあります。
オフィスホワイトニングは歯科医院で特殊な機械を使って実施しますので、より短時間で効果的ですが、価格が高くなりがちです。
しかし、ホームホワイトニングは自分のペースで自由な時間で行え、価格も比較的安価ですが、効果に時間がかかる不利な点もあります。歯を漂白する薬液をためるためのマウスピースを作製し、就寝時などに装着して自分自身で漂白を行います(図5)。
いずれもシェードガイドという色見本を用い、歯の色調の現状と目標を歯科スタッフと確認した上で進めていきます(図5)。
どちらを選択するかは、長く継続して実施するためにも、皆さんのライフスタイルなどに合わせることが大切です。
Q,ホワイトニングは値段が高い?
ホワイトニングは基本的に健康保険が適用されない自費診療になりますので、価格は歯科医院により異なります。
1本の歯だけであれば2千円程度から可能ですが、目立つ前歯のみ、あるいは奥歯も含むなど範囲が広いと、およそ2万円~数万円かかります。
ホワイトニングを選ぶか、歯を削って白くするかは悩む点だと思いますが、ホワイトニングは歯を削らない、セラミックの冠(クラウン)をかぶせるより一般的に安価で済む、といった利点がある反面、色の逆戻りや願い通りの色にならないこともあるなどの欠点もあります。施術前のカウンセリングの際、歯科医師に十分確認するようにしましょう。
Q,ホワイトニングは痛い?
ホワイトニングは歯を削りませんし、麻酔も使わないため、痛みなどの不快感が少ないと言われています。
しかし、ホワイトニングは、言わば化学薬品の漂白剤で歯を白くしますので、化学的な刺激が歯の神経に伝わることがあります。
歯を白くする主な成分として、過酸化水素や過酸化尿素などが用いられます。
これをクリーニングした歯面に塗布・浸透させて特殊な光を照射したり薬剤を一定時間放置したりすると、化学反応が起きます。その結果、エナメル質内部に含有されている着色の有機成分が分解され、漂白効果を発揮するというメカニズムです。
分解された部分は、組織に空隙ができるため温度刺激などが伝わりやすくなり、水がしみる等の不快症状が出ることがあります。
Q,ホワイトニングは年齢や体質に関係なく誰でもできる?
ホワイトニング効果に影響を及ぼす因子として、年齢や歯の色調が挙げられます。
若年者で色調が濃い場合はホワイトニング効果が高くなりますが、年齢とともにその効果は減弱します。
その理由として、加齢に伴い歯質の有機質量が減少することや、ハイドロキシアパタイトの結晶が成長・緊密化し薬剤の浸透が妨げられることなどがあります。
ですから、より美白効果を期待するならば、年齢の若い時に始めるのがよいでしょう。
ただし、ホワイトニング剤に含まれる過酸化水素を分解する酵素を持たない、あるいは著しく不足している「無カタラーゼ症」という遺伝性疾患があれば施術により悪影響が出るため、ホワイトニングは不適応です。
ホワイトニングは子どもでもできる?
およそ3歳以降の子どもを対象に、「キッズホワイトニング」を実施している歯科医院もあります。
しかし、実際には大人に対して使用する薬剤とは異なり、歯を白くするより歯に汚れがつきにくくする効果を重視したものが多いようです。
乳歯や幼若永久歯(生えたばかりの永久歯)は歯質が未成熟で有機成分が多いため、歯を強くするフッ素が取り込まれやすい反面、ホワイトニングの薬剤も浸透しやすく、水がしみる知覚過敏などの症状が出やすくなります。
ですから、ホワイトニングができるのは、乳歯がすべて永久歯に生えかわったおよそ14歳以上が安全ですが、生えかわりの完了は個人差も大きいため、中高生は行わないほうが無難でしょう。
また、歯列に合わせたオーダーメイドの専用トレーを使用する点でも、顎骨の成長が終わったおよそ18歳以降が、ホワイトニングの適用年齢だと考えられます。
美白効果のある歯磨剤って、本当に効果があるの?
市販される歯磨剤の大半は、歯の着色を除去しやすくするための研磨剤(無水ケイ酸、炭酸カルシウムなど)を含んでいます。
また、美白効果が期待できる歯磨剤の主な成分として、ステインを除去して再付着を防ぐポリリン酸ナトリウム、ポリエチレングリコールや歯の再石灰化を促進して歯の表面の小さな傷を修復したり、歯質を硬くして歯垢や着色が付着するのを防いだりするハイドロキシアパタイトなどがあり、ある程度の効果は期待できると思います。
しかし、日本では薬機法という法律で過酸化水素などの漂白成分を歯磨剤に入れることが禁止されているため、歯磨剤ができるのは、あくまでも「歯の表面の着色を取り除く、着色を付きにくくすること」に限られます。
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ホワイトニングの効果が長く続くためには、食生活や歯磨き習慣なども気を付けなければなりません。このようなことも考慮しながら、自分のライフスタイルに合った無理のない歯の美白方法を選ぶようにしてくださいね。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・株式会社GC:歯のホワイトニングに関する意識調査.2022.
・辻本暁正ほか:ホワイトニングの最新トレンドとエビデンス.歯界展望(別刷),135(5),1031-1037,2020.