学校歯科検診とは?
学校歯科検診は学校保健法に基づき、毎年6月30日までに実施することが定められています。小中高の学校に通う生徒に対し、虫歯や歯ぐきの状態、汚れの付着具合、歯並び・噛み合わせ、顎関節など口の問題点を早期発見し、適切な処置を講ずるとともに、歯と口の健康づくりの正しい知識や生活習慣を身につけるように指導することを目的とします。
ただし、学校歯科検診はあくまでも健康であるかどうかをふるい分けする「スクリーニングテスト」であり、医学的な立場から確定診断を行うような精密な検査ではありません。
歯間にある虫歯やぐらつく乳歯の歯根の状態など、レントゲンで検査しないと正確な診断ができない部分は歯科医院を受診し、詳しく調べることをおすすめします。
歯科検診で用いられる記号について
検診用紙の様式は自治体や学校、施設などによって異なり、統一されたものは定まっていません。例として、私の病院で使用している検診用紙を示します(図1)。
歯の名前は真ん中(正中)から順番に数えて乳歯はA~Eで表しますが、永久歯は1~8で表します。
ところで、検診で「斜線」「丸」「C」などという言葉を耳にしたことはないでしょうか? これらは臨床の現場で用いる正式な学術用語ではありませんが、検診用の用語として活用されています。
では、主な検診用語について解説します。
・斜線・横線:永久歯、乳歯ともに異常のない健全歯を意味します。
・C(シー):Caries(カリエス、う蝕)の略で処置が必要な歯。いわゆる虫歯で、治療中の歯や治療して虫歯が再発したものも含みます。
・△(サンカク):喪失歯を表し、虫歯が原因で喪失した永久歯のこと。
・〇(マル):すでに治療を完了した処置歯のこと。虫歯を削って詰め物や被せ物を入れ、歯の機能を営むことができると認められる歯。
・CO(シーオー):要観察歯のこと。虫歯になりかけの状態で、虫歯の初期病変の兆候(表面の白濁や茶色い変色など)があり、そのまま放置すると虫歯になる恐れがある歯。
・×(バツ):要注意乳歯のこと。抜くか、そのまま様子を見るかを慎重に判断する必要がある乳歯のこと。
・GO(ジーオー):歯周疾患要観察者。歯肉の炎症はあるが歯石沈着を認めず、生活習慣の改善や適切なブラッシング等の保健指導で改善が望まれる者。
・G(ジー):歯周疾患要処置者。歯科医院で精密検査や治療が必要な者。
・その他:虫歯の進行を抑制するサホライドを塗布した歯を表す㋚や、虫歯になりやすい奥歯の溝を樹脂で埋めて虫歯予防するシーラント処置した歯を表す㋛といった記号が〇(処置歯)の代わりに記入されることもあり、さまざまなパターンがあります。
用紙の歯の絵(大きな+で示されることが多い)は、顔を正面から向き合った位置関係を表します。つまり、図1の右に示した歯の絵では、×(要注意乳歯)は右上C(乳歯)ですが、歯の絵では左上に位置します。同様に〇(処置歯)は左上Eと左下Dですが、歯の絵では右上、右下に位置します。
斜線や〇は問題ないですが、その他の用語を記入された場合、歯科医院を受診して精密な検査(レントゲン撮影など)を行い、正しい診断や治療を受ける必要があります。
虫歯の進行段階
虫歯について、C1やC4という言葉を聞いたことはありませんか?
これは虫歯の進行度合いを示す用語で、数字が大きいほど進行した虫歯を表します。
歯の最表層のエナメル質に限局するような初期虫歯は無症状ですが(C1)、進行して穴が深くなり、さらに内部の象牙質まで虫歯が及ぶと次第に冷たい水がしみるようになり(C2)、さらに進むと温熱痛、そして歯の中央部の歯髄組織(いわゆる歯の神経)が強く刺激され、何もしなくてもズキズキと激しく痛む自発痛を感じるようになります(C3)。
さらに進行すると、歯髄は腐敗して失活するため痛みは和らぎますが、歯根だけが残った残根歯になります(C4)(図2)。
検診後に歯医者に行かない子どもは少なくない
学校検診で虫歯を指摘されても受診しない「未受診率」について2019年に報告された全国保険医団体連合会の調査では、全国の5000を超える小・中学校、高校の統計データをまとめています。
その結果によると、図3のように未受診率は学年が上がるごとに上昇する傾向が認められましたが、その背景として医療費の助成が小学6年や中学3年の節目で打ち切られてしまうことも要因の一つであると言われます。
子どもの医療費助成制度は自治体により金額や期間が異なりますが、特に生活保護を受けないけれども医療費が免除されない「相対的貧困」の家庭が歯科受診を渋る傾向です。
また、受診を妨げる要素として「自己負担金が払えない」という経済的な理由に加えて、「多忙」つまりシングルの親が働き詰めで子どもを歯科医院に連れていく時間を作ることができないことも挙げられます。
経済的な事情を抱える家庭では時間的な余裕もなく、虫歯の予防に対する正しい知識を得る機会も失われています。子どもの口の中を注意深く観察できないまま、虫歯になっても放置状態になることが懸念されます。
歯や口腔ケアに関する正しい知識や方法を普及・啓蒙する講演会や講習会は歯科医師会などの主導により各地で開催されていますが、「もともと意識が高めの人しか来ない」というのが実情であり、本当に知ってほしい親たちに必要な情報が行き届かない状況があると言われています。
都市圏では土・日・祝日や夜間に診療や口腔衛生指導をしている歯科医院も少なくないので、うまく活用して定期的に通院できる時間を作りだしてほしいものです。
学校における歯科保健指導の問題
家庭での保健指導に限界があるならば、学校歯科医や養護教諭が中心となって学校で改善プログラムを実行する必要があります。
しかし、現状としてはどのようなものなのか、兵庫県を例に挙げて見てみましょう。
2017年に兵庫県保険医協会の歯科部会が兵庫県内における小中高の学校・特別支援学校を対象に実施した学校歯科治療調査では、回答のあった274校において歯科受診が必要な子どものうち65%が未治療の状態であることが明らかになりました。
しかも、口腔崩壊(虫歯が10本以上ある、または歯根しか残らない未処置の虫歯が何本もあるなど咀嚼が困難な状態)の子どもがいる学校は35.4%にも及ぶことが判明しました。
さらにこの調査では、274校のうちの46校、つまり約16.8%の学校で歯科保健指導を実施していないことも明らかになりました。
都道府県により対応の違いがあるとはいえ、家庭でも学校でも子どもの歯の健康がないがしろにされる環境にあるならば、非常に遺憾です。
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学校検診は、あくまでも大まかなチェックに過ぎません。虫歯の有無等に関わらず、学校検診を一つのきっかけとして歯科医院で定期的なチェックを受けるようにしましょう。
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記事執筆
島谷浩幸
参考資料:
・全国保険医団体連合会地域医療対策部・歯科:学校歯科治療調査 2018年報告.2019年7月9日.
・兵庫保険医新聞:2017年5月25日(1846号)ピックアップニュース「学校歯科治療調査 結果詳細」.