幾田りら、あのという2大アーティストが思春期の少女役を熱演
浅野いにおによる少女たちのディストピア青春物語が遂にスクリーンに登場!『デデデデ』こと『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』は、東京上空に巨大な宇宙船、通称“母艦”が襲来した日本が舞台のSF映画です。
原作コミックは第66回小学館漫画賞一般向け部門、第25回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した話題作だけに、アニメ映画化の一報が出た時、大きな反響を呼びました。実際に完成した映画は、まさに映画館で観るに値するビッグスケールの映画に仕上がっています。
アニメーションディレクターに「PSYCHO-PASSサイコパス」シリーズの演出を手掛けた黒川智之、脚本に「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」シリーズの吉田玲子といった、気合十分のスタッフ陣を迎えた本作。声優は、主人公の小山門出役に幾田りら、その親友である“おんたん”こと中川凰蘭役にあのと、絶妙なキャスティングもSNSを賑わせました。
いきなり非日常の物体である“母艦”がやってきて、ずっと空に“居座っている”というなんとも異常な構図は、考えただけで恐ろしいですよね。とはいえ平和ボケしていた時代も終わり、折しも世界規模のパンデミックを体験した上に、地震や災害が起こり、他国が戦争中である今、本作の捉え方は以前と全く変わりました。本作では、私たちが今欲しいメッセージが、ドカーンとバズーカのようにぶちかまされます。
ファンタジーというよりは地続きで描かれる“非常時”のリアル
国民的まんが「イソベやん」を溺愛し、担任教師の渡良瀬に思いを寄せる小山門出(声:幾田りら)と、その親友で戦争ゲームオタクの“おんたん”こと中川凰蘭(声:あの)。親友同士の2人は、受験勉強に追われながらも、毎晩オンラインゲームに精を出す女子中学生です。
この2人に加え、自ら告白してリア充の高校ライフを送ろうとする栗原キホ、5人の弟たちの面倒もみている出元亜衣、無口で実はBL好きな平間凛ら同級生らが、ハイテンションなスクールライフを楽しく過ごしていました。でも、現実には3年前の8月31日、彼女たちが暮らす街の上空に突如宇宙から出現した巨大な母艦が浮かんでいます。
侵略者の恐怖におびえながらも、いつしか非日常が日常に溶け込んでしまった東京。そんな中、“8.31“で行方不明になったアイドルと同じ姿をした謎の少年・大葉圭太との出会いが、門出とおんたんの運命を変えていきます。
キホと交際していた小比類巻健一は、久々に再会したら、過激なネット情報や陰謀論に影響を受け、別人のようになっていました。また、大学進学で上京し、門出たちと出会った竹本ふたばは、正義感の強さゆえに侵略者保護団体「SHIP」に入団してしまいます。
そしてふたばの中学時代からの同級生で「誰よりも愛される可愛い存在になりたい」という田井沼マコトは、門出たちと友情を深めていき、おんたんの兄・中川ひろしは、ニートでありながら自称“名誉自宅警備員”として、門出とおんたんを見守っていきます。地球滅亡の危機が迫る中、門出たちの運命やいかに!?
本作で描かれるのは、当たり前の日常が当たり前でなくなってしまった現代の恐ろしさです。今を生きる私たちにとってのそれは、なんとなく地続きに感じられ、“ファンタジー”という他人事では済まされない気がしました。例えば、母艦到来の日が“8.31”として記号化されていますが、それはアメリカ同時多発テロ事件の“9.11”や東日本大震災の“3.11”と同様に生々しく耳に響きます。
そんな中でも、ごく普通の学園ライフを楽しく送ろうとする門出たち。劇中である登場人物が「夢くらい見たっていいじゃない。未来がどうなるかなんてどれもわからないんだから」と言う台詞が非常に胸を打ちます。
若者たちは、そういった非常時でも、青春を謳歌しつつ、きちんと問題定義をして課題に立ち向かっていきますが、いろんな壁にぶち当たっていきます。浅野作品は、常にそういう若者のヒリヒリしたメンタルを生々しく切り取ってきましたが、本作でもしかり。少女たちの鬱屈した想いや焦燥感は、若さというエネルギーと相まって、観る者の心を大いに揺さぶります。
友情や初恋から社会問題までを盛り込んだ厚みのある人間ドラマ
門出役の幾田さん、おんたん役のあのさんのキャスティングは、予想以上にハマっています。二人のかけがえのない友情の絆を、いろんな時間軸を使って重ねて見せていくというトリッキーな展開で、観る者の共感がどんどん深まっていくという“技”も秀逸。
また、思春期ならではの心の揺らぎやほろ苦い初恋をはじめ、荒んだ家庭環境やいじめ、ネット社会への警鐘など、様々な問題が織り込まれた厚みのあるストーリーも、浅野作品ならでは。劇中の力強い台詞では、よくぞ、それを言ってくれた!と膝を打つような、弱者の叫びを代弁したものもありますが、音楽や映像がそれらをより雄弁に語っていて、これぞ映画としての面目躍如だなと思いました。
個人的には、これまで実写映画化された『ソラニン』、『うみべの女の子』、『零落』はどれも“浅野いにおイズム”を表現されているクオリティーだなと思っていました。それはおそらく、浅野さんご自身が目を光らせた中で制作されたんだろうと、勝手に想像していましたが、本作もきっとそうに違いないです。特に『デデデデ』は “アニメ映画”という広い間口の作品なので、いろいろな世代の方に観ていただきたいです。
『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章』は3月22日(金)より公開
原作:浅野いにお「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
アニメーションディレクター:黒川智之 脚本:吉田玲子
声の出演:幾田りら、あの、種崎敦美、島袋美由利、大木咲絵子、和氣あず未、白石涼子、入野自由、内山昂輝、坂泰斗、諏訪部順一、津田健次郎…ほか
公式HP: dededede.jp
文/山崎伸子
©浅野いにお/小学館/DeDeDeDe Committee