裁判の要約
実際にあった裁判を解説します。要約すると、
・DV夫が妻の顔面を殴り鼻骨骨折を負わせる
・そんなDV夫から逃げたかった妻
・妻が職場の上司と恋に落ちる(不貞行為)
・DV夫が上司に対して慰謝料請求
結果、DV夫の勝訴です…
「上司はDV夫に慰謝料40万円払え」
腑に落ちない事件でしたが、裁判所は「夫婦関係が破綻していたのか?」を綿密に検討します。
事件を分かりやすく解説します(東京地裁 R4.12.15)
※ 争いを一部抜粋して簡略化
※ 判決の本質を損なわないよう一部フランクな会話に変換
当事者の関係性
■DV夫 年齢不明
■妻 年齢不明
(H16に結婚 → R2に離婚)
■子ども
・長男 H18生 14歳
・長女 H22生 10歳
■妻の不倫相手(以下「Y男」)
年齢不明
DVによる別居、そして不倫・・・離婚訴訟からの慰謝料訴訟
コトの経緯は以下のとおり。離婚訴訟を起こし成立した後に、さらにDV夫が不倫相手Y男へ慰謝料訴訟を起こしています。
妻とY男の出逢い
2015年、妻がパートで働き始めた会社で上司のY男と知り合いました。はじめは社内の数人のグループでLINEをしたり食事をしたりするくらいの関係でしたが、妻が夫と別居を開始してからは2人きりで食事に行くような関係になりました。
妻は、夫との離婚についてY男に相談していました。
夫のDV
別居の原因は夫のDVです。
ーー いつから暴力を受けていたんですか?
働き始めて1年後くらいです。外食先で口論になり、帰宅した際に夫から首をつかまれ投げ飛ばされたのが初めて受けた暴力です
それから約2年後のある日、夫は、妻の顔面を殴り、頭を壁に打ちつけ、鼻骨骨折および頚椎捻挫の傷害を負わせました。
その1週間後、妻はDVセンターを訪問して、夫からの暴力や離婚について相談しました。それから約3週間後には、妻は2人の子どもを連れて家を出て別居を始めました(妻とY男の距離が急接近しはじめたのは、この時期くらいからです)
別居後の話し合い 2018.3.10
その翌日、話し合いの場がもたれました。夫婦2人のほかには、夫の母、妻の両親も同席しました。その場で夫は以下の発言をしています。
【判決文より引用 】
「この間ね、手を上げたってことに関しては、それは」
「こっちがね、悪いということで、それは、もう、本当に申し訳なかったと」
「それに関しては僕も悪かったなと思っている」
「そのときは、もう『出ていけよ』くらいのことを言ってたと思います」
「この間の暴力は、それはこっちが悪いから」
「お酒を飲んで手を出した訳じゃないと思います。朝だったから」
「そんなに、しょっちゅう暴力しているわけじゃないのよ」
話し合いの中で夫は「離婚したくない」と言い出したため、当面の間、別居を続けることになりました。
妻の不貞現場を押さえる
それからおよそ1ヶ月後のこと。夫が妻の不貞現場を押さえました。
夫は知人から「2人がホテルに入りました」という連絡を受けて、ホテル付近に車を止めて待機していました。5時間くらい経過して、妻とY男がホテルから出てきたところを、夫が直撃しました。
そして夫は、妻とY男を車に乗せて、3人で話し合いをしました。Y男は夫に謝罪しました。
妻が保護命令の申し立て
その約2ヶ月後、妻が裁判所に【保護命令の申立て】をしました。「夫から暴力を振るわれた」ことなどを理由とする申立てです。裁判所は、夫に対して接近禁止命令、電話等禁止命令を出しました。
妻が離婚訴訟を提起
その後、妻は離婚訴訟を提起しました。裁判は高裁まで進み、和解によって離婚が成立しました。
和解内容は、「親権者は妻」「養育費の支払い」などです。
夫がY男を訴える
今回の事件はコレです。妻を寝とられたと感じた夫は、腹わたが煮えくり返っていたのでしょう。Y男に対して慰謝料請求訴訟を起こしました。
裁判所のジャッジ
DV夫の勝訴でした…。
裁判所は「Y男は夫に慰謝料40万円払え」と命じました。理由は、「夫が妻にDVをしていたが、妻とY男がホテルに行った時点では夫婦関係が完全に破綻してたとは認められない」というものです。
Y男は「ホテルに行った時期にはすでにこの夫婦関係は破綻していた」と主張したのですが、裁判所は認めませんでした。
というのも、不貞行為の約2ヶ月前に、妻がDVセンターに行った時に「夫が変わってくれるのであればこのままでいいという思いもある」という発言をしていたからです。
裁判所はこの発言などから「離婚について迷いがあっものとうかがわれ、夫婦関係が修復不可能なほどまでに完全に破綻していたとは認められない」と認定しました。
妻を殴って骨折させておきながら、夫が勝訴…となった腑に落ちない事件でした。
DVされた際の相談先
これは個人的見解ですが【女性に暴力を振るう男はゼッタイに治りません】。そういう遺伝子が組み込まれているのだと思います。なので、さっさと別れたほうが懸命だと思います。
もし他にお付き合いしたい男性がいるなら、相談した際、今回の妻のように「夫が変わってくれるなら…」などと発言するのは控えておきましょう。万が一、裁判になった際に「相談時点で夫婦関係は破綻していた」と認定してもらうためです。
DVされた時は>>内閣府「DV相談+(プラス)」へ
DVとは
おもなDVは以下のとおりです。
■ 心理的攻撃
- ▪大声でどなる、ののしる、物を壊す。
▪何を言っても長時間無視し続ける。
▪ドアを蹴ったり、壁に物を投げつけたりして脅す。
▪人格を否定するような暴言を吐く。
▪こどもに危害を加えるといって脅す。
▪SNSなどで誹謗中傷する。
▪交友関係や電話・メールを監視する、制限する。
▪行動や服装などを細かくチェックしたり、指示したりする。
▪他の異性との会話を許さない。
■ 経済的圧迫
- ▪生活費を渡さない。
▪デート費用など、いつもパートナーにお金を払わせる。
▪お金を借りたまま返さない。
▪パートナーに無理やり物を買わせる
■ 性的強要
- ▪無理やり性的な行為を強要する。
- ▪見たくないのに、ポルノビデオやポルノ雑誌を見せる。
- ▪避妊に協力しない。
- ▪中絶を強要する。
少しでもツラければ内閣府「DV相談+(プラス)」に相談してみましょう。
今回は以上です。「ほかにもこんな解説してほしいな〜」があれば下の公式HPからポストして下さいね。これからもママパパに向けて知恵をお届けします。