目次 [hide]
テーマは最も身近な存在「お母さん」。あふれる愛情を恥ずかしがらず素直に表現

小学6年生の岩崎拓真さんが自学ノートに取り上げたテーマはなんと「ぼくのお母さん」。「3日間のうちにお母さんに何回怒られたか」、「お母さんにストレスを与える行動は何か」などを、お母さんへの取材も交えて細かくまとめています。「思春期になると、なぜ親を嫌いになるのか」といったところも調査。審査員からは、研究の固定概念に縛られないユニークな題材がおもしろいとのコメントが多数あがりました。
――いろいろなテーマが考えられるなか、自学ノートのテーマをお母さんにしたのはなぜですか?
拓真さん:先生が自学ノートの書き方を説明してくれたとき、テーマの例に動物をあげていました。それで人間はどうかなと思って、お母さんが一番身近だったので決めました。
――動物から人間を連想したんですね。身近な人のなかでもお母さんを選んだ理由はありますか?
拓真さん:近くにいたし、優しいところもいっぱいあって紹介できるなと思ったからです。
――「3日のうちで何をして何回怒られたか」、「お母さんにあたえるストレスランキング」などの項目は自分で考えたんですか?
拓真さん:はい、自分で考えました。
なにをして怒られたかとか、ストレスとかの項目にしたのは、兄弟がいる人は共感するだろうし、ストレスランキングで面白さを出せばもっと読んでもらえると思いました。
――見られることも意識したんですね。お母さんに直接取材もしましたか?また工夫したことも教えてください。
拓真さん:ランキングのところで、お母さんに「なにがストレスを与えているか」を聞きました。
工夫したところは、タイトル部分のお母さんの“お”や“母”という文字のところにハートを入れたところです。

――番外編というコーナーでは作者視点でなく読者視点になっているのも面白いです。メインと番外編では書き方を変えてみたんですね?
拓真さん:そうです。空いていたスペースに、ちょっと違う視点で見た番外編があったら面白そうだなと思って書きました。
お母さんへの想いを隠したら申し訳ない
――お母さんへの想いがストレートに伝わる内容でしたが、恥ずかしさはなかったですか?
拓真さん:恥ずかしさっていうよりは、隠したら申し訳ないような気持ちです。最近は「ありがとう」とか「大好きだよ」という気持ちも伝えるようにしています。
――自学ノートをやってみて、お母さんに対する想いは変わりましたか?
拓真さん:変わりました。こんなにもお母さんにストレスを与えていたんだなと思って、お母さんに対する態度がちょっと変わりました。ストレスになるようなことはやめようと思っています。

この春から中学生になる拓真さん。「中学校では部活や勉強を頑張っていきたいです。部活は英語部に入って、英語について勉強したいです」と教えてくれました。世界に興味があるそうで、過去の自学ノートでは世界のミステリースポットについてまとめたことも。

調べることが好き!家族旅行は拓真さんがホテルや飛行機をリサーチ
自学ノートというと、テーマに沿って調べるところまではできても、上手にまとめられずそのまま写したり、ましてやそこに取材を入れ込むことは簡単にはできないように思います。そしてなにより、年頃の男の子が、ここまでストレートに愛情を伝えられるとは、どんな親子関係なのか、お母さんにもお話を聞きました。
――拓真さんはどんなお子さんですか?好きなことや得意なことはどんなことですか?
拓真さんのお母さん:どちらかと言えばインドア派で、いろいろなことを詳しく調べるのが好き。家族旅行のホテルや飛行機は全部拓真が調べてくれます。
――それはすごい!調べることになったきっかけはありましたか?
拓真さんのお母さん:本人の行きたいところや希望があって、その土地はいつ頃だと台風が来ない、雨が少ない、というところから始まり、いつぐらいに予約を取ったら安いとか、こんな楽しいところがあるからこのあたりにしようというところまで、自分で楽しんで調べていますね。
最近は東京に行きましたが、次は沖縄へと言っていて。来年くらいの話ですが、今からホテルや飛行機を調べて、楽しそうにリストアップしています。
――東京ではなにかやりたいことがあったんですか?
拓真さんのお母さん:一度首都の東京に行ってみたいと。東京タワーや浅草の雷門など、いかにも観光地という場所をめぐりました。次の旅行ではローカルなところにも行きたいそうで、調べているところです。
本人は、楽しい予定があると頑張ることができると言っていて、時間があったら次々と調べていますね。
――それはインターネットで調べるんですか?
拓真さんのお母さん:親のスマホを借りて調べたり、弟と図書館で旅行の本を借りたりして、一緒に調べています。楽しそうにしていますね。

昨年までは反抗期でピリピリしていた時期も
――今回、この自学のテーマを聞いたときどんなふうに思いましたか?
拓真さんのお母さん:ちょうど晩ご飯を作っているときに聞いたので、「え?」って思いましたね。料理をしている最中に、色々質問されているなぁと思っていましたが、仕上がるまで見ておらず、完成したものを見てびっくりしました。短い会話がこうなっていたとは思わなかったです。
思春期の子どもなので(このテーマは)ちょっとからかわれたりとかしないかな、大丈夫?って聞いたら、「みんな心のなかでは思ってるから大丈夫だよ」って言われて。そうか、じゃあありがとう、嬉しいなって。
昨年までは反抗期でピリピリしていたので、(その時期は)抜けたんだなーと思いました。こうやって「感謝や大好きという気持ちを伝えたい…」そんな風に思っていてくれたのがすごく嬉しいですね。
――そうだったんですね。では親子の会話は昨年より増えましたか?
拓真さんのお母さん:会話自体は昨年もたくさんしてたんですけど、ピリついた雰囲気があって喧嘩をしたり。今は落ち着いて穏やかになって…成長ですね。
――まだ小学6年生なのに反抗期を抜けたのは早いですね。
拓真さんのお母さん:もしかしたらもう1回あったりするんですかね(笑)。今は大好きとかごめんなさいとかそういう会話は多いです。
――反抗期はどんなふうに対応をしていましたか?
拓真さんのお母さん:ひたすら話を聞いていたんですけど、長くなるとだんだん私もイライラして結局喧嘩をしていましたね(笑)。
でもちょっと落ち着くと、「さっきは言い過ぎた。ごめん」と言いに来るので、私もあやまって仲直りして。その繰り返しでした。
喧嘩をすることがあってもこれを見たら頑張れる!一生の宝物
――改めて完成した作品を見た感想を聞かせてください。
拓真さんのお母さん:一生の宝物になりました。こんな風に思ってくれていたんだなっていうのを思い出せるようで。また喧嘩をすることがあっても頑張れると思いましたね。
人生のなかで、手紙のように“こんな想いだよって”って伝えてくれたものが残ったことがすごく嬉しかったです。
担任の先生も「アンケートを取り、それをまとめる力があるのがすごい!」と絶賛
最後に、今回の取材に立ち会ってくれた、拓真さんの担任、楠瀬先生にも学校での自学ノートの取り組みについて、そして拓真さんの自学ノートについてお話を聞きました。

楠瀬先生:自学ノートは、やり方は自由ですが、内容にもこだわってほしいというところがきっかけで始まりました。子ども同士がお互いに見せ合うことでレベルが上がっていくなか、今回の作品を見たときは衝撃を受けました。家族がテーマの作品はこれまでにもありましたが、年頃の子がお母さんへの愛を前面に出して作品を作ってくるのが驚きで。
クラス全体として、何かを調べてまとめる力は上がってきていますが、そこからもう一歩発展して、アンケートをとる、そしてそれをまとめる力は、シンプルにすごいなと思いました。
クラス内の自学コンテストでは、子ども同士で投票し合うんですが、今回の「僕のお母さんについて」は、子どもたちからも「めっちゃいいやん」「すごい!」との声があがり、断トツで票を集めていました。
これまでの拓真さんの自学ノート



1枚目の「世界遺産について」も子どもたちから票を集めた作品だそう。並べて見るとそれぞれのテーマに合わせたページ作りをしていることもわかります。
「お母さんへの想いを隠したら申し訳ない」とストレートに表す言葉に感動
自由度が高いだけにどうやって構成すればいいか悩んでしまうことが多い自学ノートですが、拓真さんのノートは一目で読んでみたくなるオリジナリティあふれる構成が見事。
タイトル、構成、イラスト、色使い、調べた内容もどれも丁寧で、前向きに楽しんで取り組んでいる様子が伝わり、普段から調べることが好きだという、彼の魅力が活きていると感じました。
そして今作のテーマが、お母さんへの愛を伝える内容になっているのにも引き込まれました。タイトル周りなどにさらっと書いてある「こんなにいいお母さんいる?」「みんな心のなかでは思ってる。おかあさん大好きって」という言葉も素敵。恥ずかしさが先行しがちな年ごろでありながら、「お母さんへの想いを隠したら申し訳ない」とストレートに表現している言葉に心を打たれます。
今回のインタビュー中、拓真さんが話をしているときは隣にいたお母さんが口を挟まず、ニコニコと笑って聞いていらした姿も印象的でした。子どもが話すときは口を出さず、どっしり見守る。そんな親子関係も、こんなあたたかな自学ノートを生んだ背景にあるのだなと感じました。
自由研究コンクール結果発表はこちら!

最優秀賞のインタビューはこちら


取材・文/長南真理恵