【空飛ぶ夢を叶えた写真家・山本直洋さん】空で大やけどをしたことも…夫婦間で何を“共有”する?夢実現と家族の時間の両立に欠かせないこと

モーターパラグライダーで鳥のように自由に空を飛び、地球の生きた姿を空撮している、写真家・山本直洋さん。だれもやったことのない世界七大陸最高峰を生身で飛んで空撮するプロジェクトに挑戦中です。その姿からは破天荒な冒険者を想像しますが、じつは、「娘と過ごす時間が何より幸せ」とまっすぐ口にする優しく穏やかなパパさんです。
夢を追うこと叶えることと、子育てや家族を大切にすること、その2つをどのように両立しているのかを伺いました。

南米大陸最高峰のアコンカグア空撮に挑戦。これまでにない危険性

僕がこれまでにモーターパラグライダーで空を飛んだ最高高度は6000mです。高度が上がると空気は薄くなりますが、6000mまでは人間用の酸素ボンベをつけずに行くことができました。でもそれより高いところを飛ぶには酸素ボンベが必要だと体感しています。空気が薄くなって酸素が足りなくなると、ふわふわした感覚になって、めまいのような症状が出て、空を飛びながら意識も飛んでしまう危険性があるからです。2026年1月に空撮に行く南米最高峰のアコンカグアは標高6959mです。僕が飛んだことのない未知の世界ですので、今回は酸素システムをつけて飛ぶことを計画しています。

空から見る生きた地球は、いつも僕を感動させてくれます。アコンカグアでどんな感動が待っているかと思うと楽しみで仕方ありませんが、高高度の空を飛びながら感動してつい大声で叫ぶと、体内の酸素が足りなくなって気を失ってしまうかもしれないので、十分気をつけないといけないですし、そうならないように準備万端で臨みたいと思います。

そのほかにも、高高度でも飛べる機材の開発やテスト、輸送の問題、それから現地の許可取りなど、やることはたくさんありました。ひとつひとつ課題をクリアして、アコンカグアで地球を感じる写真を撮って、無事に帰ってきたいと思います。

出典/『空飛ぶ写真家の地球旅』(著・山本直洋)

空を飛びながら大やけど。地獄の苦しみを経験

モーターパラグライダーで2500mくらいの高さまで上がったときに、エンジンが燃え出したことがありました。それは、空撮プロジェクト第1弾のキリマンジャロに挑戦するため、日本でエンジンテストをしたときのことでした。モーターパラグライダーは、プロペラのついたモーターエンジンを背中に背負って上空まで上がるのですが、高高度用に改造したそのエンジンがうまく働かなくなって、燃えだしてしまったのです。空を飛びながら、火を消そうと暴れれば暴れるほど背中の炎が大きくなって、自分の服にも燃え移ってきました。熱くて、痛くて、これまでに経験したことのない苦しさでした。緊急パラシュートを使おうともがいているうちに、その緊急パラシュートも無情にも燃え落ちてしまい、「ああ、もうだめだ、僕は燃えて死ぬんだな」と思いました。燃えて死ぬ苦しさから逃れるために、体を固定しているハーネスを外そうとしたのですが、これもなかなか外れない。めちゃくちゃにもがいているうちに、幸運にも火が消えて、命からがら不時着することができたのです。

そのまま救急車で病院に運ばれました。第三度熱傷という、やけどの中では一番重度の熱傷でした。2回の皮膚移植手術と、2か月のリハビリ生活は地獄の苦しみでした。家族や関係者の皆さんに、たくさん心配や迷惑をかけてしまったと反省しています。

出典/『空飛ぶ写真家の地球旅』(著・山本直洋)

空撮プロジェクトを続けるなら離婚する、と妻に告げられた

病院に娘が見舞いにきてくれたときは、もう泣いちゃいましたね。心配かけてごめんね、と。娘は当時6歳でした。正直な話、妻とは別れ話になりました。僕が入院したことで、仕事関係の人とのやり取りや手続きを全部妻がやってくれて、物理的にすごく大変だったと思います。精神的にも、この心配が今後も続くのは耐えられない、という思いが妻の中でふくらんで、この世界七大陸最高峰空撮プロジェクトをやり続けるなら、もう無理、別れるしかない、と思ったらしいんですね。でも僕は、何があってもたとえ別れても、このプロジェクトをやることは決めていたので、変わらなかったんです。だからそこは最終的に妻があきらめました。・・・と言いますか、子どもがいたのが一番大きいです。

夫婦ゲンカになりましたが、そのときにいろいろ話しました。僕はそれまで、プロジェクトについては全部自分一人で決めてやってきたんです。妻に何も相談しないでやっていた。だから妻は僕が何をやっているのかまったく把握できていなかった。妻はそれが嫌だったみたいで。今後何かやるときはちゃんと私に共有することを約束してくれ、と言われたんです。たしかにその気持ちは理解できました。

それ以来、僕もなるべく妻に状況を共有するようにしました。専門的な細かいことは妻もそんなに興味はないようですが、プロジェクトが今こうなっているという報告をしたり、資金が足りないときにはどうしたらいいかアドバイスを求めたり。そのうちテレビの仕事があったり、新しいスポンサーがついたりして、少しずつ僕の実績も増えていって、妻もだんだんと認めてくれるようになりました。今でも、「このプロジェクトをやってほしい」とまでは言わないですが、応援してくれるようにはなりました。

出典/『空飛ぶ写真家の地球旅』(著・山本直洋)

夢を追うことと、家族を大切にすることの両立

僕の場合は、家にいるときはとにかく家族との時間を大事にしています。そして娘には常に「大好きだよ」と言葉に出して伝えています。僕は子育てについてはまったくこだわりがないし、いい子育てをしてきたと思っていないんですけど、ただひとつだけ、「娘が大好きだ」というのは常日頃から伝えるようにしているので、娘もそれを分かっていて、パパは私のことが大好きなんだと感じてくれています。これはとても大事なこと。娘にとって、学校でちょっと嫌なことがあっても、自分の居場所は家にあるから大丈夫、と思ってくれているのがいいなと思います。

妻とは、家のことはちゃんとやったうえで夢に挑戦すると約束しています。例えば、家事を分担して掃除や洗濯、料理当番もしますし、家にお金を入れることもしっかりやったうえで、自分の夢を追う時間を作るようにしています。

出典/『空飛ぶ写真家の地球旅』(著・山本直洋)

僕は空を飛びたい、地球を感じたい

大やけどを負った事故のあとも、「空を飛ぶのが怖い」「もう空を飛びたくない」などとは一切思わなかった。「空を飛びたい」という気持ちはまったく衰えず、「こんど飛ぶときは、やり方を変えて飛ばなきゃいけない」としか思わなかったです。「空を飛んだから、燃えてやけどしてしまった」のではなくて、自分の判断ミスでこうなってしまったわけなので、同じことをやらなければいいだけのことですから。

なぜそれほどまでに空を飛びたいかというと、僕の場合は「地球を感じることができる」というのが一番の理由です。その感覚というのは、幸せの感覚とは違うものです。幸せというのは、人間社会で感じる幸福感だと思っていて、僕の場合は娘といっしょにいるときに人間社会で感じられる最上級の幸せを感じています。

その幸せとはまったく別次元の感覚が空を飛んでいるときにあるのです。それはひとことで言えば「地球とつながっている」という感覚。人間としてではなくて、生物としての充足感に浸れる。自分は地球から生まれたひとつの生命体だと感じ、地球と一体になるような感覚です。それを感じたくて、僕は空を飛んでいます。

僕は冒険家ではなくて写真家なので、そうやって空を飛んで「地球を感じる写真」を撮りたいと思っています。それはドローンや飛行機での空撮とはまた違うものだと思います。自分の体で空を飛んで、五感で地球を感じて、心が震えるくらい感動して撮った写真が、たくさんの人の心をまた震わすことができるなら、これほどうれしいことはありません。

子どもの頃からずっと空を飛ぶことを夢見ていました。いろんな方法で空を飛んでもみました。そして今は、モーターパラグライダーで空を飛んで写真を撮ることを仕事にしています。いろいろな壁をどう飛びこえてきたか、僕のこれまでの七転び八起きの体験を『空飛ぶ写真家の地球旅』という本にまとめました。僕が撮った空撮写真や、空飛ぶ仕組みの図解も収録しています。ぜひご覧ください。

山本直洋/著 小学館 定価1760円(税込)

「雲より高く、空をのぼれば、”生きた地球”があらわれる。
地球を感じる風景に心を震わせながら撮った写真は、多くの人々を感動させることができる」
生死をさまよう大事故、心の支えだった師匠の急逝を経験してもなお、「本当にやりたいこと」をブレずに見つめ、どんなことがあっても諦めずに飛びこえていく山本氏が語る、夢の見つけ方、かなえ方。

プロフィール

山本直洋(やまもとなおひろ) 写真家

1978年東京生まれ。ニューヨークのフォトスタジオに勤務後ファッションフォトグラファー、風景写真家に師事。2008年に独立し、フリーランスフォトグラファーとして活動する。モーターパラグライダーによる空撮を得意とし「Earthscape」と題して“地球を感じる写真”をテーマに作品制作を行う。現在、世界七大陸最高峰をモーターパラグライダーで飛行しながら空撮するプロジェクトに挑戦している。2026年1月より、プロジェクト第4弾として南米最高峰のアコンカグアの空撮に挑戦。

取材/小学館・児童創作編集室

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