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功罪あるものは、“功”があるぶん認めるべき
ラジオやテレビが発明され一般化してきたときも言われたように、SNSやAI、タブレットなどのデジタル機器も“功罪あるもの”としていろいろな意見がありますよね。でも、親御さんご自身も便利だと感じていませんか? 今や欠かせないアイテムの一つになっているのではないでしょうか。

このような時代において、“功”の部分があるものに関しては、使わせないという状況は不可能に近いと思います。デジタル機器を使わせるのか、使わせないのかというゼロヒャク思考ではなく、「どう使うか」というルールを決めて使うことが大切です。
日常生活の中に浸透してしまっているものなので、“使わせない”ことを考えるよりも、“どう使わせるのか”を考えた方が賢明だと思います。

デジタル機器でのショートカット勉強を防ぎたい? トレンドは“原点回帰”の中学受験
2026年2月の中学入試や大学入試の問題を見ていると、テクニックを使いこなして解く問題よりも、経験値の深さを問われる問題が増えてきていると感じました。例えば、「絶対に公式を知っていないと解けないような問題」よりも「よく見てみると何度も解いたことがある問題」だったり、理科や社会でも実物の野菜の写真が出てきたり、時事問題が出題されたりなど。
このような状況から読み解けることとしては、デジタル機器を使ってのショートカット勉強を防ぎたいのかな? ということが挙げられます。

デジタルコンテンツを使った学習は、短期間で伸びる学力があるのは事実です。しかし、中学受験の塾はほとんどが対面です。そうでないと、上位校の入試問題に対応するのは難しい。
デジタルコンテンツも、AIなどをフルに使いこなしていけば、深い学びはできるようになるのかもしれません。ただし、そこまで学ぶには相当AIに詳しくなる必要があり、プログラミングなどを使いこなさないとまだまだ難しいと思います。
僕は“原点回帰の中学受験”とよく表現するのですが、自分の気持ちを作文で書くとか、実際の昆虫の写真を問題に使うとか、表やグラフをその場で読み取って自分なりの考えを書くなどの問題が増えてきています。そういう問題が出題されるということは、デジタルばかりに頼らずに、「実際に手を動かして自分の頭で考えてください」という学校側からのメッセージが込められていると思っています。
実際に学んだその先で、デジタル学習を!
デジタル機器での学習が手軽にできるようになったことで、子どもたちは主に3つの層に分かれているのではないかと考えます。
①デジタル機器すら使わずに、勉強の効率化ができない層。
…デジタル学習に否定的な考え方が多いと思います。
②デジタル機器を使ってショートカットの勉強で成績を維持している層。
…この層の方が注意しなければならないのは、やはり学習の大部分をデジタルに頼ってショートカット勉強ばかりになってしまうことです。
③知的好奇心を満たすために、実際に手を動かして学んだことの先でデジタル機器を使い、どんどん突き進んでいく層。
…言うまでもなく、知的好奇心を持っている子がデジタル機器を手にすると最強ですよね!
以前は、塾でわからなかった問題について調べたり解説を聞いたりすることはなかなかハードルが高いことでした。今はタブレットやパソコンで、すぐに解説動画を見ることができたりしますよね。デジタル機器さえあれば、“調べる”という行為が安易にできるようになっているのです。だからこそ、使わせずに伸び悩むよりは、使わせて伸ばしてあげる方が結果は出しやすいんです。

しかし、昨今の中学受験はなるべくそうはさせたくないと考えているようなので、先ほどもお話しした通り、「星を見てる?」「植物を観察してる?」「野菜を触ってる?」というような、実際に子ども自身が体験を通して学んでいるかを問う、原点回帰の問題を出しているなと感じています。
タブレットの中にある答えを求めているのではなく、家の中や身の回りに答えがある問題を出しているのはそのためだと考えます。結局タブレットで調べても答えは出てくるので、イタチごっこだとは思うのですが、自分で体験して得た知識は五感を使って記憶に残ります。その子の確かな学力になってくれるのです。

時代が変われば学び方も変わってくるかもしれませんが、今の中学受験の試験の問題は紙です。そして、答案用紙には自分で文字を書いて答えていきます。まずは自分の頭で考え、手を動かし、その先にデジタルを取り入れてみてください。
デジタルコンテンツでたくさんの“好き”を発見しよう
最近は、直接的には学問に結びつかないものへの価値を、きちんと見出してくれる世の中になってきているのを感じています。例えば、散歩を突き詰めた結果、地元の商店街が潰れていっていることに気がつき、その商店街が活性化するようにするにはどうしたらいいのか論文を書いて東大に合格された方もいます。“好き”が評価されるようになったのです。
ただし、そこまで大好きなことが見つかる子はほんの一握り。ほとんどのお子さんはそうじゃないことが多いです。でも、それならば100の“好き”が一つあるよりも、30の“好き”を3つ見つけて90にする生き方もあるんじゃないの? と思っています。例えるなら、部活の兼部みたいなものですよね。
今までは何かを成し遂げた人が、「すごい!」とフォーカスされがちでした。ですが、30の好きが3つある人には、それぞれの好きからしか得られないものを身につけられることもあるでしょう。

デジタル機器を使えば、SNSや動画などでたくさんの情報に触れることができます。そこで1つの“好き”が見つかる子もいれば、“好き”がいくつも見つかる子もいる。そういうきっかけを与えてくれるものと思えば、子どもが使うことに神経質になる必要はないのではないかと思います。
3つの“好き”がある人は、一つのことがダメになっても、自分までダメだと思わずに済むこともできます。変化が激しく、どこにリスクが潜んでいるかわからない時代ですから、たくさんの“好き”があってもいいのではないでしょうか。
保護者もSNSやゲームの世界に触れてみて。「前提と思い込みを捨てる!」が子育ての成功
親御さん世代が社会に出た頃に、年上の人たちがパソコンを使えないことに対して、「あれ?」と思った感覚が、これからの子どもたちが私たち親世代に感じることです。だからこそ、最初にお話ししたように、デジタル機器を「使わない」「使わせない」のではなくて、どう使っていくかということを親子で話し合ってほしいと思います。
それでも心配のあまり、子どもに自分の考えを押し付けてしまうという親御さんは、子どもが興味があるものを、一緒になってやってみてください。ゲームでもSNSでも一緒に。
SNSやゲームの世界は玉石混交なのは間違いありません。でも、そこを一度保護者が触れてみるということが必要だと考えています。実験動画や『桃太郎電鉄』などのゲームは、理科や地理の勉強を楽しく学ぶことができます。歴史動画も素晴らしいものがたくさんあります。まずは自分の頭で考えた上で、ぜひこれらのコンテンツを有効に使ってください。

保護者に求められるものは、自分で情報を取りに行く姿勢
保護者世代は関東大震災が大昔の災害でしたよね? でも、今の子たちにとっては阪神大震災が関東大震災のようなものです。3.11で生まれていない子が、中学生の時代です。今の子どもたちにとっては、僕ら親世代の明治時代が昭和の感覚なんです。カルチャーや教育は目まぐるしく変化してきました。
頭ではわかっていても実際に踏み切れない保護者の方が多いので、時代の流れに乗ってみて、SNSや動画、AIに触れる機会を作ってみてください。学校や塾は、危険な橋を渡ることをすすめることはできません。だからこそ、自分で情報を取りに行くという姿勢が保護者に求められると思います。
自分たちが学生だったとき、「いい学校」とされていた学校が、今もなお「いい学校」ですか? 就職活動をする際に、人気だった企業が今も人気のままですか? そう考えると親御さん世代の正解が、今の正解ではないことが理解できると思います。
これは、何かが悪くなったのではなくて、新しいものが出てきて順番が変わっただけなのです。前提と思い込みを捨てることが子育ての成功だと僕は思っています。
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お話を伺ったのは
進学塾VAMOS(バモス)代表。幼少期の10年を過ごしたスペインのマドリッドでサッカーに出合う。帰国後、日本の中学校・高校を経て京都大学経済学部に入学。大学卒業後、東京・吉祥寺で「進学塾VAMOS」を設立。現在は東京都内で5教室を展開。先着順で子どもを受け入れるスタイルでありながら、毎年首都圏トップクラスの、志望校への高い合格率を誇り、日本屈指の“成績が伸びる塾”として「プレジデントファミリー」「週刊ダイヤモンド」などに登場。子どもの主体性や個性に着目した論理的な授業で生徒の成績を伸ばし、圧倒的な支持を集めている。また全国各地で教育や子育て等に関する講演を多数行っている。自身のサッカー経験を活かし、現在は塾経営と合わせて、サッカー選手を中心としたスポーツ選手のマネジメントも行っている。
主な著書『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)、『「急激に伸びる子」「伸び続ける子」には共通点があった!』(朝日新聞出版)、『男の子の学力の伸ばし方』『女の子の学力の伸ばし方』『ひとりっ子の学力の伸ばし方』(ダイヤモンド社)、『AIに潰されない「頭のいい子」の育て方』(幻冬舎新書)など。
取材・文/鬼石有紀
