「声を荒らげる」にはふたつの読み方があるって知ってる?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴44年。日本語のエキスパートが教える〝知ってるようで知らなかった〟言葉のウンチクをお伝えします。

「あらげる?」それとも「あららげる?」

「声を荒らげる」というとき、皆さんはこの「荒らげる」をどう言っていますか?

「あららげる」でしょうか?「あらげる」でしょうか?

正解は、実はどちらもありなのです。NHKでは「あららげる」「あらげる」の両形を認めています。ただ新聞は「あらげる」は使わないとしています。

文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」では、2010年度と2021年度の2回、「あららげる」「あらげる」のどちらを使うかという調査を行っています。それによりますと、

2010年度は「あららげる」11.4パーセント、「あらげる」79.9パーセント

2021年度は「あららげる」12.2パーセント、「あらげる」79.7パーセント

という結果が出ています。

本来の言い方は「あららげる」

いずれの調査も「あらげる」と答えた人の方が圧倒的に多いのですが、実は「あららげる」の方が本来の言い方で、「あらげる」の方はその変化した言い方だと考えられています。新聞は保守的な立場をとっているといえそうです。

「あららげる」が本来の言い方ですが、では「あらげる」が誤りかというとそのようなことはありません。詳しいことは省略しますが、言語学的には、「あららげる」の2つある「ら」の1つが脱落して、「あらげる」となることは説明が可能です。また「あららげる」「あらげる」ともに江戸時代からそれぞれの使用例が見られ、かなり早い段階からどちらも使われていたことがわかります。

たとえば『日本国語大辞典』では「あらげる」の江戸時代の例として、近松門左衛門作の浄瑠璃『山崎与次兵衛寿の門松(やまざきよじべえねびきのかどまつ)』(1718年初演)の「声あらけても泣顔はかべより外にもれにけり」という例を引用しています。

「あらげる」は容認される傾向

小型の国語辞典では、「あららげる」「あらげる」をどのように扱っているのでしょうか。

少し前までは「あらげる」を誤用としているものがけっこうありました。ただここ数年の間に、「あらげる」を誤用とはせずに、見出し語として載せるものが増えてきました。ここ10年近く改訂をしていない辞典にはまだ「誤用」としているものもありますが、それらも改訂の際には扱いが変わっていくと思われます。

余談ですが、このようなこともありますので、辞典はなるべく新しいものを買っていただきたいと思います。ちなみに、「あららげる」の送り仮名は「荒らげる」で、「荒ららげる」とは書きませんのでご注意ください。

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記事監修

神永 曉|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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