
「さようなら」「じゃあね」は接続詞だった
人と別れるときの挨拶のことば、皆さんはふだん何と言っていますか?
「さようなら」「じゃあね」「バイバイ」などなど、そのときの気分や相手によっていろいろでしょう。
「バイバイ」はもちろん英語ですので異なりますが、「さようなら」「じゃあね」にはちょっとした共通点があります。ある事柄を説き起こしたり、説き終わったりするときなどに使われる接続詞から生まれた語なのです。つまり本来は単独で使われていたわけではなく、下に続く文章があったことです。
「さようなら」は「さようならば」の変化した語で、もともとは、そうであるならば、それならばという意味の接続詞です。これが、「ごきげんよう」「のちほど」などのほかの別れの表現と結びついた形で用いられるようになり、江戸時代後期に独立した別れのことばとして一般化したと考えられています。たとえば、江戸後期の遊里の風俗を描いた小説である洒落本の『曾我糠袋(そがぬかぶくろ)』(1788)には、
「『さやうなら、御きげんよふ』『行ってまゐりやせう』」
などとあります。興味深いのは「さようなら」が独立した別れのことばになるのと同様、「ごきげんよう」ものちに別れのことばとして独立したことです。一部の女子校で使われる語として、話題にもなりました。
「じゃあね」は1960年代後半から使われるように
「じゃあね」は比較的新しい言い方です。と言っても、1986年に発売されたおニャン子クラブが歌った同名の曲が最初ではありません。大正時代ころ、別れのときにそれではという意味で「じゃ」が使われるようになり、さらに「じゃあ」の形でも使われるようになります。そもそも「じゃ」は接続詞「では」のくだけたいい方で、「じゃ」「じゃあ」も当初は、接続詞そのものに限りなく近い使われ方をしていました。やがて「じゃ」「じゃあ」も別れのことばとして独立して使われるようになり、「じゃあね」は1960年代後半に使われるようになったようです。
江戸時代によく使われた「おさらば」「しからば」

別れのことばはけっこういろいろあり、江戸時代には「さようなら」のほかに、打ちとけた間柄で用いる町人ことばとして「おさらば」が使われました。「おさらば」も接続詞の「さらば」に接頭語「お」がついたものです。
本来は丁寧な言い方でしたが、近代以降は文語的な表現として「さらば」が用いられました。武士階級はどうだったかというと、「しからば」が用いられていたようです。これもまた接続詞から生まれた語です。
記事監修

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。