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「共同親権」は離婚後、父母がそれぞれに親権をもつこと

――新たに導入された「選択的共同親権制度」とは、どのような制度なのでしょうか? 「単独親権制度」との違いと共に教えてください。
親権は、子どもを適切に養育するための親の権利、かつ義務です。「単独親権」の場合は、子どもの生活に関するすべてのことを、どちらか一方の親が決めて、それを行使することができます。
例えば、食事や、学校行事への参加、病院の受診など日常的なことから、進学や、転居、手術が必要な医療行為など、子どもに重大な影響を与えることまで、子どもの養育に関するすべてを親権者が単独で決めて、それを実行することができます。
子どもに関することは、父母が話し合って共同して決定していく
他方、「共同親権」の場合は、離婚後も子どもの養育に関することは父母が話し合い、共同して意思決定をしてから実行することになります。原則として、どちらか一方の親が勝手にひとりで決めてはいけないのです。
例えば、離婚後、子どもはどこに住むのか、どこの学校へ通うのか、15歳未満の子どもの苗字をどちらするかなどを、父母双方の合意によって実行にすることになるわけです。この点が、「単独親権」と「共同親権」の大きな違いです。
「共同親権」を選んでも単独で決められる事項もあります
――離婚後の住む場所などは、両親の都合や希望もあると思うのですが。
ええ。その通りです。お父さんとお母さんにも人生があるわけですから、そういった事柄に関しては、意見がなかなか合わないことがあったりもすると思います。また、話し合っている時間がない場合もあるでしょう。そのため、今回の民法改正では、「共同親権」であっても、以下については、離婚の共同行使の例外として、父母の一方が単独で行えることが明記されています。
●監護および教育に関する日常の行為
●子の利益のため急迫の事情があるとき
「日常の行為」としては、子どもの日々の生活に関する行為で、子どもに重大な影響を与えないものが該当します。また、「急迫の事情」としては、緊急の場合の医療行為やDVや虐待からの避難などが該当します。子どもの養育に関する以上の事柄に関しては、父母の一方が単独で親権を行使できるとされています。
より詳しいことを知りたい方は、法務省がサイトを設けていて、今回の民法改正の解説とともに、一定のガイドラインを告示しています。Q&A方式で簡潔に示されている資料もありますので、以下のウェブサイトをチェックしてみてください。
法務省:民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕【https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00357.html】
DVや虐待が認められた場合は「単独親権」に

――そもそも離婚をするときというのは、両親が揉めているわけで、その最中に「共同親権」を選ぶのは大変な気がします。「単独親権」にするか、「共同親権」にするかで揉めた場合はどうなるのでしょうか?
「親権」の取り決めに関しては、これまでも大きな争点になりがちでした。「単独親権」と「共同親権」の選択で揉めた場合は、今までの民法下と同様に家庭裁判所で調停をして、それでも解決しない場合は、裁判をすることになります。そして、その判断も今までと同様に、子どもの利益の観点から下されます。
――離婚の原因がDVや虐待などで、「共同親権」を選択するのが難しい事例もあると思うのですが。
そうした場合を考慮して、今回の民法改正に際しては、「共同親権にすることにより、子どもの利益が害されると認めるときは、単独親権にしなければいけない」と定めています。
具体的には、「お父さん、またはお母さんが子どもの心身に害悪を及ぼすおそれがある場合」です。つまり子どもに対して虐待をどちらか一方の親がしている場合などは、家庭裁判所は「単独親権」を定めます。
また、家庭裁判所から見て、両親が共同して意思決定をすることが困難だと認識した場合も「単独親権」となります。例えば、父母間でDVが起こっているようなケースですね。DVに関しては、身体的な暴力だけでなく、精神的なものも含まれます。
「選択的共同親権制度」を導入したことで、「共同親権にすることが原則になった」と誤解されている方が多いのですが、「単独親権」も「共同親権」も、各家庭の事情に応じて、どちらも選ぶことができるのが、今回の民法改正の特徴です。
「共同親権」でも、子どもの世話をする権利「監護権」を父母のどちらかにすることができる

――例えば、「共同親権」を選んだとしても、両親の住む場所が遠く離れていたり、仕事などの関係で話し合う機会が乏しいなど、各家庭でさまざまな事情がありますよね。
はい、そうした事情に配慮して、「共同親権」の内容を各家庭の事情に適した形で選択することもできます。
例えば、「共同親権」にして、「監護者」を父母のどちらかに決めておくことができます。「監護者」が有する「監護権」とは、親権者の権利として規定されているもののひとつで、子どもの日常的な生活や教育、健康管理といった世話をするだけでなく、子どもに関する重要な意思決定を単独で行うことができる権利です。法律上では「身上監護権」といいます。
父母の一方を監護者と定めた場合、監護者は、他方の親権者から干渉されることなく、子どもの利益のために、子どもの身上監護を行うことができます。
――監護者を指定するとしたら、「共同親権制度」を導入しても、あまり意味がない気がしますが……。
親権者の権利には、「身上監護権」以外にも、「財産管理権」などがあります。また、監護者を決めた場合でも、監護者でない親権者が、子どもの身上監護に関する権利自体を失うわけではありません。監護者による身上監護を「妨げてはならない」と民法が定めているように、監護者である親の権利行使が優先されるという関係になります。
子どもの世話の役割分担ができる「監護の分掌」が新しく導入
また、今回の民法改正では、「監護の分掌」といって、監護者の指定だけでなく、子どもの監護に関しての役割分担を細かく設定することもできるようになりました。
例えば、子どもの世話をする期間を平日と週末で分けたり、教育や医療など子どもに関する事柄ごとに、父母のどちらが決定するのかを決めておくことができるのです。要するに、家庭の事情に応じて、離婚後の子どもの養育を柔軟に設計することができるわけです。
「監護の分掌」は、父母の話し合いにより決めることができますが、父母の意見が対立した場合には、家庭裁判所が定めます。「監護の分掌」は新しい制度ですから、今後どのように運用されるかが注目されます。
「共同親権制度」の導入に関しては、法律の制定過程でいろいろな意見があって、「共同親権」に賛成される立場の方もいれば、DVの問題を取り扱っている支援者や弁護士の中には、この制度の導入に非常に警戒心を抱いている方もいます。「共同親権」にすることで、DVを受けていた親に、離婚後も他方親からの精神的な抑圧が続くことを懸念しているからです。
このようにさまざまな意見が交錯していたため、法改正への合意形成は容易ではありませんでした。しかし、改正された法律により、単独・共同どちらの親権も選択できるようになり、共同親権下で監護者を決めることもできるようになったのです。
社会の変化に伴い、親子の関係や子どもの養育のあり方も多様化しています。さまざまな選択肢が設けられたことは、子どもの利益を確保するために重要な意義を有すると思います。
共同親権で子どものことで双方の意見が合わない場合、親子交流はどうなる?
――ところで、「共同親権」を選んだ場合でも、意見が合わないことがあると思うのですが、そんなときにはどうしたらいいのでしょうか?
父母が子どもの養育に関する事項について、どうしても合意に至らない場合は、家庭裁判所に「親権行使者の指定」という申し立てをして、どちらの親がその事柄を決めていいのかを判断してもらうことになります。家庭裁判所は、子どもの利益のため必要があると認めた場合に、それまでの親子関係や養育環境、子どもにとってどちらが利益をもたらすか、また、子どもの気持ちなどを考慮して、判断を下すことになります。
例えば、子どもが通う学校選びの問題で揉めている場合、裁判所はその子が通う学校を指定するのではなく、どちらの親が子の進路を決めるのがよいかという判断を下すわけです。
「面会交流」から「親子交流」へ呼称の変化も
――なるほど。あと、気になっているのが「面会交流」に関してです。「共同親権」を選んだ場合、子どもとの面会交流も増えたりするのでしょうか?
まず、これまで「面会交流」と呼ばれていたものは、今回の民法改正により「親子交流」と表現されるようになりました。「単独親権」においても「共同親権」においても、これまで同様に子どもの気持ちや利益を尊重して親子交流の回数や方法を取り決めます。ですから、「共同親権」にしたからといって、交流する回数や時間が増えるといったことはありません。
しかし、子どもに対する責任を父母が共同して果たす「共同親権」という立場をとった場合、親子の交流も親の責任だと考えられますので、父母の一方が、親子交流のルールを守らなかった場合や、親子交流に関する協議を一方的に拒否した場合などは、親権者としてふさわしくないのではないかという評価が下される場合もあるでしょう。このような意味において「選択的共同親権制度」の導入は、親子交流に影響を及ぼす可能性があるかもしれません。
「法定養育費」により、一定額の養育費を請求できるようになりました

――今回の民法改正において、ほかに知っておくべき点はありますか?
ぜひ、頭に留めておいていただきたいのが、「法定養育費」の新設です。
これまでは、父母間において養育費を発生させる合意や裁判所の調書や審判等がないと、養育費を具体的に請求することができなかったのですが、「法定養育費」の新設により、離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う親は、離婚した日から正式に養育費の合意等に至るまでの間、子どもひとりにつき月額2万円の養育費を請求できるようになりました。
「一般先取特権」で、養育費を不払いにされた場合、財産の差し押さえの対象に
また、養育費に「一般先取特権」が与えられた点も大きな改正ポイントです。
「一般先取特権」とは、預貯金や給料など相手の財産を差し押さえ、他の債権者よりも優先的に支払ってもらえる効力のことを言います。これまで「一般先取特権」は、労働債権や葬儀費用には与えられていたのですが、今回の民法改正によって養育費も対象になりました。
相手の財産を差し押さえるためには、原則として裁判所が作った調書や審判書等、あるいは公正証書といった法的に強制力のある書面が必要なのですが、「一般先取特権」の場合は、そうした書面がなくても、相手の財産を差し押さえることができるのです。ただし、先取特権が与えられる額は限定されていて、子どもひとりにつき、月額8万円までとなります。
さらに、強制力のある書面がある場合であっても、これまでは相手の財産を差し押さえたい場合、①相手に財産を開示させる手続き、②相手の給料に関する情報を取得する手続き、③相手の給料を差し押さえる手続きを、それぞれ家庭裁判所に申し立てなければなりませんでした。
しかし、法改正後は、一度の申し立てで、①から③までの手続きがワンストップでできるようになりました。これにより、手続きの負担が軽減されることになります。
日本には養育費の不払いによって、お金がなくて学校へ行けなかったり、好きなことができない子どもたちがいるのですが、この改正によって、養育費が確保され、子どもたちが安心して暮らせるようになることを願わずにいられません。
――後編では、民法改正前に離婚が成立した家庭において、今回の民法改正がどのような影響があるか、今後の課題について伺いました。
記事監修
京都大学法学部卒業後、会社勤務を経て2000年に弁護士登録。以来25年間、離婚事件を中心とした家事事件に取り組む。その豊富な経験と依頼者一人ひとりに寄り添う温かな人柄で多くの信頼を集めている。子の養育に注力しつつ、国際案件にも対応し、数多くのセミナーも開催。日本弁護士連合会では、ハーグ条約事件対応弁護士紹介名簿登録、家事法制委員会副委員長、司法制度調査会委員長、ADRセンター委員などと、多くの役職にて責務を果たしている。国際私法学会、仲裁ADR法学会、日本離婚・再婚家族と子ども研究学会に所属。
この記事を書いたのは
大学卒業後、出版社勤務を経てフリーランスに。主に子育て、食・旅・美術関連の取材記事を担当。これまで手がけた小学館での単行本には、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(佐々木正美:著)『自分の番を生きるということ』(佐々木正美:著、相田みつを:書)、『池波正太郎の愛した味』(佐藤隆介:著)、『楽しく脳活 クイズで学ぶ浮世絵入門』(監修:藤澤紫)などがある。