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生徒がみんなの前で自己開示をする。約20年ぶりに訪れて、変わらない母校の良さを実感

──早川監督ご自身が、愛真高校の卒業生だそうですね。入学を決めたのは、どんな理由からだったのでしょう?
早川嗣監督(以下、早川監督):たまたまテレビのドキュメンタリーで、姉妹校を知ったんです。当時は早く家を出て、自分をまったく知らない人のところに行きたくて。僕は根が真面目で、先生から学級委員を頼まれるようなタイプだったんですよ。そういう見られ方を、一度まっさらにしたかった。愛真高校はキリスト教の全寮制で、そんな自分にちょうどいい環境だと思いました。
──学校のどんなところに惹かれたのでしょうか。
早川監督:全寮制で環境を変えられることが一番大きくて、あとは少人数なところです。ちなみにうちはクリスチャンの家庭ですが、愛真高校は「ここは教会にはしない」という方針で生徒に信仰を求める学校ではありません。実際、クリスチャンではない生徒もいました。

──今回、母校をテーマにしたドキュメンタリー映画を制作しようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
早川監督:約20年ぶりに母校を訪ねたことです。僕が在学中に礼拝として毎日行われていた「夕会」という集まりが、変わらず続いていたんですよ。礼拝といっても牧師の説教ではなく、生徒が一人、みんなの前で自分のことを語る、いわば自己開示の場です。「まだやってるんだ」と思ったのと同時に、「いいな」とも思いました。息子を連れていったこともあって、こういう場が子どもの学ぶ場の選択肢の一つとしてあるのは豊かだな、と感じたんですよね。
ただ、愛真高校はスマホを持ち込めないので、文化祭のようなイベントの記録はあっても、日常がまったく記録されていません。全校生徒は34名で、寄付にも支えられていて、ずっと続いてほしいですが、この先のことはわからない。だから、いつか息子が大きくなったとき「こんな学校だったんだよ」と見せられるものを残せたらと思って、カメラを向けることにしました。
SNSとは違う、まっすぐ自己開示をする場

──映画には授業の場面はなく、毎日の「夕会」や、寮生活について話し合う「全体会」の場面が中心でしたね。
早川監督:夕会で話す日は、話すことを事前にノートに書いておくんですけど、何を話してもいいし、逆に話さなくてもいい。讃美歌を一曲歌って「今日はノートが書けませんでした」で終わる日もあるし、溜まった悩みや普段言えない本音が語られる日もあります。
話す内容は自由ですが、誰かをやみくもにけなすことはしません。大勢が顔を向け合う場ですから、自然と言葉を選ぶんですよ。SNSとは違いますよね。ノートに書くという工程も大きくて、書きながら「これは言いすぎかな」と自分の言葉を見直せる。話す相手とは卒業まで一緒に暮らすので、一方的に言いたいことをぶつけて終わりにはできないですよね。
──寮生活のルールを話し合う全体会も、みんなが正面からぶつかる姿が印象的でした。
早川監督:実は過去には、寮にドライヤーを入れるかどうかが議題になったことがあるんです。「そんなことで?」と思うかもしれませんが、ドライヤーがあることで、髪をきれいに整えられる子とそうでない子の間に、“おしゃれ格差”が生まれてしまう。なければ、みんなフラットでいられるのに。便利になることが、必ずしも全員にとっていいとは限らない、そのことを生徒たちはよくわかっています。それに、自分の生活に直接かかわる問題だから、本音で話すし、本気の議論になるんです。
スマホも、今は持ち込めないことになっていますが、絶対に変えられないルールというわけでもなくて。この先「一台だけ置いて、時間を決めて調べ物に使おう」といった議題が出てくるかもしれません。生徒自身が話し合って決めていくんだろうなと思います。

──本音で語るのは勇気がいることだと思います。映画を観ていて、私はあそこまで自分をさらけ出せるだろうかと感じました。早川監督は、濃密な寮生活で何を得たと思いますか。
早川監督:一番は、自分をさらけ出しても大丈夫だ、という実感ですね。入学した頃の僕は、受け止めてもらいたくて、自分を少しコーティングして見せていました。でも24時間一緒に暮らしていると、隠しきれない。思い切ってさらけ出してみたら、周りがそれを受け止めてくれたんです。
愛真高校で能動的に自己開示をしてきた経験には、大人になってからも助けられています。たとえば職場の関係がこじれたとき、まずは自分から、「正直、こう思い悩んでいて、どうしたらいいかわからない」と先に打ち明けてみると、相手も「ごめん、気づかなかった」と言ってくれて関係がふっとほぐれることがある。
もちろん大人になって、会う人みんなに自己開示をしていたら大変なので、「この人とは」と思える相手にだけ、少し本音を出してみるのがよいのではないでしょうか。誰にも心を開かないでいると、傷つかないかわりに、活力も湧いてこないですから。
自分の意見を言えることが、子どもの自立につながる

──ご自身のお子さんの子育てで、大切にしていることはありますか。
早川監督:特別なことはないのですが……。子育てって、結局は自立させるためのもので、その自立を最も邪魔するのは何かというと、自分の意見を言えないことだと思うんです。
意見を言えないのは、言えない空気が集団のなかにあるからなんですよね。家族も集団ですから家のなかに言えない空気を作らないように、まずは僕自身が意見を言うことを心がけています。
あとは夫婦の意見は一致していなくていいと思っているので、妻が子どもを叱っているとき、「その言い方だと伝わらないんじゃない?」と妻に言うこともあるし、逆に言われることもあります。3人家族なので、両親が結託していると、むしろ子どもは何も言えなくなってしまうかなと。
先日息子に「お父さんが来ると緊張するから、今日はサッカーに来ないでほしい」と言われたんです。しかも「言いにくいんだけど」と前置きして。あれはうれしかったですね。自分の気持ちを、相手に配慮しながらちゃんと言えるというのは、まさに願っていたことなので。
──最後に、この映画を観る人へメッセージをお願いします。
早川監督:登場人物や学校への誹謗中傷は避けてほしいですが、それ以外は、自由に感想を持ってもらえたらと思います。この映画で描いたのは、誰もが自由に発言する姿なので。観た人にもぜひ自分の心に起きたことを、そのまま言葉にしてもらえたらうれしいです。
映画『聴く隣人のいるところ』
島根県江津市、浅利富士の中腹に建つ全寮制のキリスト教愛真高校。全校生徒34名が親元を離れ、スマートフォンもインターネットもない環境で3年間の共同生活を送ります。少し不便な暮らしのなかで身近にあるのは、対話する仲間や先生、そして音楽。生徒たちは意見を述べるだけでなく、聞き、受け止め、ときに反論しながら、自分の声を見つけ、他者の声と向き合います。
国内外から集まった生徒と教職員がともに暮らす、山あいの小さな学校の一年のドキュメンタリー。あらゆる声があふれる現代ですが、その声は本当にお互いに届いているのだろうか、と思わず考えてしまう一作です。

監督・撮影・編集:早川嗣
共同プロデューサー:本橋成一、大槻貴宏
出演:キリスト教愛真高校 2024年度在籍者
2026年/111分/DCP/カラー/ステレオ
6月6日(土)よりポレポレ東中野にてロードショーほか、全国順次公開
製作・配給:ポレポレタイムス社
公式サイト:www.kikurinjin.com 公式X:@kikurinjin
(C)ポレポレタイムス社
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お話を聞いたのは
愛真高校、和光大学卒業後、東京ビジュアルアーツ映画学科に進学。在学中にトリウッドスタジオプロジェクトで劇映画『金星』(2011)の脚本・監督を務める。テレビニュースの技術職を経て、2018年3月から本橋成一が主宰するポレポレタイムス社に勤務。本橋成一監督の記録映像『人間の汚した土地だろう、どこへ行けというのか』(2021)の撮影・編集・配給を、岡野晃子監督のドキュメンタリー映画『手でふれてみる世界』(2022)の編集・配給を手がける。
この記事を書いたのは
通信会社に約6年間勤務した後、ライターに転身。旅行、IT、インタビューなどを中心に執筆。一児の母で、子どもとのおでかけや子連れ旅行の経験も記事づくりに生かしています。出身地・山梨県の「やまなし大使」。現在は川崎市在住。
