いなりずしと太巻きの詰め合わせ。なんで「助六」って言うの?【知って得する日本語ウンチク塾】

国語辞典編集者歴44年。日本語のエキスパートが教える〝知ってるようで知らなかった〟言葉のウンチクをお伝えします。

「助六」は、歌舞伎の演目「助六由縁江戸桜」の登場人物

いなりずしと巻きずしを取り合わせたものを「助六(すけろく)」と言います。人の名前のようですが、なぜ「助六」と言うのかご存じですか?

実はちょっとレベルの高い(?)しゃれから生まれた語なのです。もとになったのは浄瑠璃、歌舞伎の「助六物(すけろくもの)」と呼ばれる一連の作品です。「助六物」は、江戸時代に大坂千日寺(せんにちでら)であったという、町人の萬屋(よろずや)助六と京都島原の遊女揚巻(あげまき)の心中情話をもとにした一連の作品群のことです。

上方ではこの事件をもとに事実に沿った情話として脚色し、いくつかの歌舞伎や人形浄瑠璃の作品が生まれました。やがてこれが江戸に伝わり、「侠客 (きょうかく) 物」として生まれ変わるのです。その代表作が歌舞伎十八番の一つ『助六由縁江戸桜 (すけろくゆかりのえどざくら) 』です。

『助六由縁江戸桜』はこんな筋です。花川戸 (はなかわど)の助六、実は曽我 (そが) 五郎は、源氏重代の宝刀友切丸 (ともきりまる)を探すために吉原へ入り込みます。そして、愛人の三浦屋揚巻 (あげまき) に横恋慕する金持ちの武士髭 (ひげ) の意休 (いきゅう) の持つ刀こそ友切丸と知り、意休を討って刀を取り返すのです。

油揚げ+巻きずしで「あげまき」

豐原國周/画『江戸櫻』大判錦繪三枚續物(明治二十九年五月東京歌舞伎座上演)。左が揚巻、中央が助六

歌舞伎の「助六」のことはこれでおわかりだと思いますが、ではなぜ、すしの「助六」と歌舞伎の「助六」が関係あるのでしょうか。登場人物の遊女「揚巻」の名前がしゃれになっているのです。勘のいい方ならもうおわかりですね。いなりずしの油揚げと巻きずしの巻きが、遊女・揚巻(あげまき)に通じるからなのです。

現在お店で売っている助六ずしは、煮つけた油揚げの中にすし飯を詰めた「いなりずし」と、具の取り合わせが楽しめる「太巻き」のセットが多いようです。いなりずしは稲荷神の使者とされるキツネが油揚げを好むとされたことからの呼び名です。また、太巻きの具材は東京地方と関西では少し違います。東京地方では中心に卵焼きの入ったものが多いのですが、関西では凍り豆腐の煮たものが入ることが多いようです。

いなりずしが好きな私は「助六」も時々買いますが、けっこうウンチク満載の食べ物だったのです。

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教えてくれたのは

神永 曉|辞書編集者、エッセイスト

辞書編集者、エッセイスト。元小学館辞書編集部編集長。長年、辞典編集に携わり、辞書に関する著作、「日本語」「言葉の使い方」などの講演も多い。文化審議会国語分科会委員。著書に『悩ましい国語辞典』(時事通信社/角川ソフィア文庫)『さらに悩ましい国語辞典』(時事通信社)、『微妙におかしな日本語』『辞書編集、三十七年』(いずれも草思社)、『一生ものの語彙力』(ナツメ社)、『辞典編集者が選ぶ 美しい日本語101』(時事通信社)。監修に『こどもたちと楽しむ 知れば知るほどお相撲ことば』(ベースボール・マガジン社)。NHKの人気番組『チコちゃんに叱られる』にも、日本語のエキスパートとして登場。新刊の『やっぱり悩ましい国語辞典』(時事通信社)が好評発売中。

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