楽をすることは「相手を幸せにする」
――7人のお子さんをシングルマザーとして育てていた頃から、うまく休めていたのですか。
トレオレル美智子さん(以下、同):全く休めていなかったです、バカンス大国・フランスに住んでいながら(笑)。
当時の夫が急に家を出て行ったこともあり、「母親の責任として、私が養わなきゃ」「やれるときにやらなきゃ」って思い込んでいて、休むことに猛烈な罪悪感がありました。
だから限界まで動き続けて、がんばっている姿を見せて「これだけやってるから、許してもらえるかな……」と思って支援団体に行ったんです。

そしたら、マダムたちにめちゃくちゃ怒られて(笑)。
――がんばっているのに怒られた……。
「もっと休みなさい! 楽をしなさい!」と。大量の缶詰や、冷凍食品をドサッと渡されたんです。それまで冷凍食品なんて使ったことがなくて、野菜の皮をむくところから全部やっていましたから。
でも、言われた通りに冷凍食品を使ってみたら、料理が終わっても、時計の針が進んでいない。はじめて「時間が空く」という経験をしました。
時間が空いたから子どもと話したり、いつも早歩きでやっていた洗濯などの家事も、ていねいにできるようになりました。
――冷凍食品などで楽をすることに、罪悪感はありませんでしたか?
ありました。でも、支援団体に「おかげで楽ができました」と報告したら、マダムたちが「よかったね」ととても喜んでくれたんです。
そこで、私は「助けて」と言ったことで、この人たちを幸せにできたんだ、と気づきました。日本にいた頃は「助けてもらう手前、ずっと不幸な姿を見せていないと助けてもらえない」と思っていたけど、違うんです。
「私が助けたから、ミチコは幸せになった」という喜びを、相手に与えている。あれから、楽することを堂々とできるようになりました。
でも、いちばん変わったのは、今の夫と出会ってからです。
休むとは、動いて「頭を空っぽにすること」
――どのように変わっていったのでしょうか。
実は、休む=寝ること、ベッドでゴロゴロすることと考えがちなのは、完全に日本人の発想なんです。フランス人の彼と出会って、休む=何もしないことではない、という考えに変わりました。
夫いわく、じっとして動かないでいると、頭の中に悩み事とかがモヤモヤと浮かんできて、逆に休まらない。だからフランス人は、あえて身体を動かすそうです。動くことで、頭を空っぽにする状態を作っているんだとか。
だから彼や、彼の友だちにとって、最高の休息はスポーツです。場所を借りる大がかりなものだけじゃなくて、友だちの家に集まって庭で遊んでいますね。これはうちが田舎だからかもしれないけど……。
あとは、話し続けることも、彼らにとっては「休むこと」です。昼に集まって、翌朝までダラダラ話していますよ。

――そんなに話し続けていると疲れませんか?
あんまり親しくない友だちや仕事関係の人だったりすると、「楽しませなきゃ」という目的になってしまい、疲れちゃうかもしれませんね。
でも、それとは少し違って、どうでもいい話をひたすらする感じです。たとえば、お盆に地元に帰って、小学校の友だちと「あの子は今何してる」と話すような感覚ですね(笑)。
――土曜の朝からフルで楽しいことをしていたら、月曜日に疲れてしまう気がします。
都会の遊び方って、テーマパークに行ったり、一泊二日で旅行に出かけたり、環境にお金を払って、楽しませてもらうものが多いですから。「楽しみを買っている」状態なんです。
もちろんそれは悪いことではないけれど、「楽しい」と同時に気疲れもしてしまう。
一方、「自分から作り出した楽しみ」は、身体は疲れるけれど、心は疲れないんです。そのため、その日の夜はいつもより深く眠れます。
全部終わってなくても休むのは「効率がいい」
――他にも、日本人とフランス人で休み方の違いを感じたことはありますか。
フランス人は、やるべきことが全部終わっていなくても、平気で休みます。 日本人は「やることが全部終わってから、やっと休める」と考えがちですよね。でも、悩み事があったり調子が悪かったりするときに仕事をすると、ダラダラしちゃっていつもの倍の時間がかかりますよね。
やることがあっても、ちょっとアペロ(お酒とおしゃべり)をして、心をルンルンにしてからやれば、30分で終わる。ダラダラやって2時間かかるものを、先に30分休んで、後の1時間で終わらせちゃうんです。

――時間で見ても、フランス式の方が効率がいいですね。
夫が夜寝る前、テーブルの上にお皿が山ほど残っているのに、「もう寝ちゃおう」って言ったことがありました。
「今日のものは今日のうちに片付けるのが基本じゃん」「ダメママだ、だらしない」って思いながら、とりあえずフランス人の生き方を真似しようと思って、そのまま寝てみたんです。
そしたら、朝起きたら睡眠バッチリでめちゃくちゃ元気になりました。
――元気でも、お皿が置かれている状況は変わらないのでは……。
精神が元気だと、散らかったテーブルを見たときに光景の見え方が全然違います。 夜に「私を苦しめる怨念」に見えていたものが(笑)、睡眠バッチリで見ると、ただ「モノがいくつか乗っているだけ」に見えた。
片付けじゃなくて、ただの物体の移動だと考えることができましたし、何より元気だから一瞬で終わりました。
――自分は後回しにしたくても、パートナーから「まだ終わってないのに休むの?」と言われるのが怖くて、休めない人もいそうです。
日本人って「こう言われるから、こうやっておこう」「こう思われるから、こうしよう」って、我慢したり先回りしたりしがちですよね。それで、ひとりで抱え込む。でも、夫とはちゃんと話していなかったりします。
日本の夫婦の多くは、コミュニケーション不足。家事育児でかかる時間や大変さを、数字やデータで説明して理解をもらうための努力を、私も過去の結婚ではしてきませんでした。
習慣を変えたいときは、声に出して冷静に説明してみるのがおすすめですね。
「何食べたい?」と聞くのをやめて、ママの自分軸を取り戻す

――著書の中で、旦那様をはじめ、周りのフランス人の大人たちが「公園で子どもを遊ばせながら、自分たちも全力でトランプをして休む・楽しむ」というお話が印象的でした。
日本にいた頃は、公園が怖くてたまらなかったんです。「周りからどう思われるだろう?」「ちゃんと見てない親って思われるのが嫌」って、ずっと子どもの手を繋いで、べったりくっついていました。
でも今は「目の見える範囲にいる」だけで、何かトラブルになったら見に行きます。
――お子さんは、どう変わりましたか。
親がべったりついているときと、1メートル、2メートル、3メートルと距離を置いたときで、子どものやることって全然変わるんです。わが子のいろんな姿を見たいですよね? 距離をおいて大丈夫になっていく成長が、きっとうれしいはずです。
親子は、ほどよい距離を保つのが大事。親が先回りして失敗を防ぐんじゃなくて、子どもが自分で切り開く力を育てるのがいいですね。

――「今日、この瞬間からできるフランス流の休み方」として、まず何から始めるのがおすすめですか?
「今日の夜何食べたい?」って子どもに聞くのをやめましょう(笑)。
子どもの食べたいものを作ってあげる優しさはいいけれど、それを続けていると、ママ自身が「自分が食べたいものが何か」わからなくなっちゃいます。まずはママが自分が食べたいものを食べて、「これ美味しいから食べな」って言えばいいんです。
自分軸を持っているママの方が、子どもも何かあったときに相談しやすいんです。自分に寄り添ってばっかりだと、「ママに心配かけちゃうから言えない」って逆に相談しにくい。
食べなくたっていい、子育てはうまくいかないときがあってもいい。失敗したなら、それは必ず後から身になります。楽をして、休んで、しっかり自分の軸を持っていてください。
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著書をチェック
本書では、在仏14年以上、8人の子どもを育てる日本人著者が、フランス人の働き方や休み方、生き方の考え方をユーモアあふれる実体験とともに紹介。仕事での失敗を人生そのものの失敗と捉えず、休日は「今この瞬間」を楽しむために全力で過ごすなど、日本人とは異なる価値観をわかりやすく解説しています。
仕事に追われて毎日が慌ただしい人、自分の時間をもっと大切にしたい人、人生をより豊かに楽しみたい人におすすめの一冊。フランス流の習慣や考え方から、自分らしく軽やかに生きるためのヒントが見つかります。
お話を聞いたのは
フランス在住14年。日本での重度のうつ病、日本でのシングルマザー、そしてフランスでフランス語が話せない状態で7人の子を抱えてのシングルマザー経験など波乱万丈人生を送る。それらの経験から、フランス人の幸せのみの人生で、全てを達成する生き方を探求し、体現化。現在はフランス人夫と8人の子どもを育てながらの、ワーキングマザー生活を満喫中。オンラインやリアル(東京)で、大学への講義、各地での講演、企業向けセミナー等を多数行っている。
この記事を書いたのは
三菱UFJ銀行の法人営業、ユーザベースのセールス&マーケティングを経て独立。ビジネスやマネーの取材記事から、恋愛小説まで幅広く執筆。2025年よりフランスに拠点を移し、フランス企業の日本進出支援(ローカライズ)やフィクションの翻訳にも携わる。3児の母。
X:@yel_ranunclus
Instagram:@ayabemato
取材・文/綾部まと 写真提供:トレオレル美智子さん