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子どもたちの「自由な発想を広げる」ため、テーマは限定しない
――ナベ先生が今の学校に赴任し、図工の技術を生かして職員室をカフェにしたことで、他校からも話題になり、視察もたくさん来られたそうですね。子どもたちに対しては、どんな授業をしているのですか?
ナベ先生 僕は大学で芸術表現系美術コースを専攻し、教員としては19年目です。が、新任から12年はクラス担任として全科を担当、2年間は家庭科兼図工専科の教員を担当していました。今の学校に赴任したのは2022年。はじめて3年生から6年生までの図工専科になったので、いちから1年間の授業内容を計画することから始めました。
学習指導要領に沿った内容にするのはもちろんですが、学習のテーマはすべて教科書どおりにしなくてもいいんです。図工は材料や器具の使い方を学ぶことも大事で、たとえば5年生では電動のこぎりを使うので、それで何を作ったらみんながワクワクして、楽しみながら使い方を覚えることができるかなどを考えました。楽しいとたくさん使う、たくさん使うと技能が上がる、という感じですね。
どんな授業にしているかは、僕のInstagramにも上がっているんですが、たとえば、4年生で木版画をやるときも、「海の生き物」「動物」とか、限定しません。好きなテーマで彫ってもらっています。
下書きをせずにいきなり彫ってもOK。今年はいろんな色で刷って、違う色で刷った作品を2色になるように貼り付けたり、台紙の色画用紙をデコったりもして楽しんでもらいました。自分たちの発想をどんどん広げてほしいからです。

1枚の作品に色分けをして刷ったりすることで変化がつくことも学ぶ
自分の「将来の夢」をつくるのではなくて、もっと広がる題材を
――楽しそうですね。図工の時間、ワクワクしそうです。ほかの学年ではどんな作品を?
ナベ先生 図工専科になってはじめての年、2022年に「将来の夢」っていう題材に取り組みました。粘土を使ってみんなに将来の夢をどう表現するかって話をしたときに、喜んでいろんな夢を表現しようとする子が多いけれど、一部の子は「将来の夢なんかないよ」「僕はニートかな」って……。この題材は図工展にも出すことになるから、保護者も見に来るし、「ニートはまずいな」と感じました。このテーマにしたことで子どもを苦しめることになるのかなって悩みました。
「将来の夢」というテーマだと、職業選択みたいになって、なりたい職業の画像をタブレットで調べて、写真そっくりに看護師を作ったり警察官を作ったりしまいがちだけれど、その活動の中にはたして「発想」ってあるのかな、ワクワクする自分なりのアイデアって磨かれるのかなって。
それに、「先生、泥棒作っていい?」って言われると、「そりゃあかんやろ、親御さん見に来るんやで」って言いたくなってしまう。でも、大人が見に来るから変えなさいっていうのもよくない……。
それで、翌年の2023年は「人類、宇宙進出!」っていうテーマにしました。同じく粘土を使うんですが、無重力の世界だから警察官でも拳銃が浮いちゃう。パン屋さんはパンが全部浮いてレジが大変とか、おもしろくなってくるんです。そして、つくる対象を「自分」から「宇宙にいる誰か」に変えました。
「将来の夢」っていうから、「将来の自分」を見られるって意識してしまうし、こっちも泥棒あかん、ニートあかんってなるけれど、「宇宙にいる誰か」なら、いろいろ発想できる。たまたま隣同士の子が泥棒と警察官をつくっていたから、コラボして一緒に飾ったらおもしろくなる、とか。
題材が魅力的だったら先生が引っ張らなくていい。ひとりひとりの子に向き合う時間がつくれて、一緒に伴走できるって、自分自身も学びました。

ワクワクしていて楽しそう!
先生は「子どもに指示しない」で、いいところを褒めて伴走する
――図工って、自分でつくる時間がほとんどだと思うのですが、先生は何を教えるんですか?
ナベ先生 最初に「こういうテーマでこういう器具を使って……」と、見本を見せて説明します。今はタブレットで画像や文章、動画を保存ができるので、作り方の説明を最初の1時間でやれば、あとは自分でタブレットを見返して何度も確かめられるので、「あれ、なんだっけ?」とかいちいち思い返さなくてよくて、発想や制作の時間を十分にとることができます。
その後は、自分なりの学び方で自分の作品を作っていきます。教員は作業の様子を見ながら声をかけます。「こんなこともできるんだね」「いいね、このまま行ってみよう」と、作ったもののよいところを指摘して、モチベーションを上げます。そんな中で自分なりに考えて学習を進めていくと、ゴールが見えてきます。
教員が子どもに「濃いめの色で塗ってね」とか「2番目にこれを描くよ」「次は飾り付けだよ」って指示をして作ったとしたら、それが本当にやりたいことだったかというとそうじゃない。「みんながヘタに見えない」「このやり方だったら見栄えがいい」って思って先生主導で作らせても、それがその子らしさにはならないです。大きなテーマは決めるけれどやり方は自由でいい。題材設定、環境整備、その子らしい学び方、この3つが大事だと思っています。
子どもたちにいろんな材料を使ってもらいたい。「四次元アイデアボックス」を自作!
――自由に作品づくりをするためには、いろんな材料を使えるといいですよね。
ナベ先生 そうなんです。子どもが「これ使おうかな」と思うたびにいちいち準備室に取りに行くのは制作が分断される、と思って、材料ごとに収納できてさっと引き出せる棚がほしいな、と思いました。でも、棚を買おうとするとすごく高い。それで、夏休みの勤務時間を使って自分で棚を作りました。「四次元アイデアボックス」と名付けて、図工室の中に備えました。いろんな材料がすぐ引き出せるので、子どもたちも「どれを使おうかな?」って発想を広げやすくなりました。

上部の壁はプロジェクタで映像を映し出すのに使う
――図工って、すごく好きな子もいれば、苦手という子もいます。
ナベ先生 人はみんな、頭のなかに「アイデアポケット」があります。経験したりとか見たりしたものからアイデアがたまっていくんですが、苦手な子は経験が少なかったり、経験をアイデアに結びつける意識が少ないのかもしれません。
でも、苦手だって思いすぎなくてもいいんです。評価される作品を作ろうというのではなくて、その子なりに今持っているアイデアで作りあげて、アイデアを表現する経験を積み上げて、次の題材でよりアイデアを豊かにしていってもらえれば。ほかの子の作品を見て感じることも大事だと思います。
将来、画家やイラストレーターになる子は少ないですが、どんな職業についても、アイデアを形にするって大事だと思っています。だから、図工でその経験を1つ1つ積んでもらえるといいなと思っています。
――ナベ先生がInstagramで発信し始めたのも、そんな思いを伝えたいからですか?
まだ図工専科になって5年目ですけど、いろんな失敗から学び、改善していって、現在の自分スタイルの図工の授業になりました。
スタンダードな図工じゃないかもしれないけど、自由に学ぶことで、子どもの発想は驚くような表現になっていくことを保護者をはじめ、図工に関わる先生方にも知ってもらいたいというのが、Instagramを始めた理由です。先生の手順通りに進めていく従来型の授業から、発想が広がる題材を子どもが自分の学び方で表現する授業へと、自分が変わったように、いろんな学校でもこの考え方が広がることを願っています。
あと、僕自身が「図工を使ったらこんなことができるようになるよ!」という活動をたくさんしてきたので、「図工ってすごい」って楽しんでもらえたら嬉しいですね。
保護者は「子どもの発想に驚いて褒める」。保管する作品は子どもが決める
――保護者は子どもの図工作品をどう受け止めたらいいでしょうか。ともすると、「何を描いたのかわからない」なんて言ってしまいがちですが……。
ナベ先生 僕は子どもたちに「どんな作品にも価値があるよ」「がんばって表現したものだから、友達の作品にマイナスなことを言わずにいいところを見てあげてね」と指導しています。

学習のひとつ。ナベ先生がとても楽しそうにしているのが印象的
ナベ先生 家でも同じように声かけをしてほしいと思います。子どもは描けば描くほど表現力を上げていきます。何を描いているかわからないような子でも、どんどん技術は向上していきます。「おもしろいね!」「ここの色がいいね!」「こんなこと発想したんだね、なるほどー!」みたいにポジティブな言葉で語りかけてあげるとますます楽しくなって、向上していきます。
――子どもが学校から持ち帰る作品が多くなってくると、どう保管するかも悩みます。全部とっておくこともできないですし、捨てるのもためらいます。
ナベ先生 そうですよね。子ども用に、作品を保管するケースを用意したらどうでしょうか。そのケースに入れる作品を自分で決める。パンパンになるならどれを処分するか、それも子どもが決める。作品を無限にとっておくことはできないと理解させることはとても重要です。保護者の方は、「残念だよね……」と気持ちに寄り添ってあげてください。処分する作品は写真に撮っておくなどすると、お子さんの気持ちも収まるのではないでしょうか。これは図工専科の友人が実践している方法で、僕も自分の娘が大きくなったら、こうしようと思っています。
図工作品を通じて、人生に必要なアイデアを湧き起こしたりためたり、整理したり。そんなことができる子になればいいなと、僕も思います。
――図工は主要教科ではないからと、軽く考える保護者もいるかもしれません。でもその発想力や思考力、表現力は、AI時代にはますます重要な力になりそうです。お子さんの豊かな力を育てるために、絵画や工作の経験を大事にしたいですね!
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お話を聞いたのは
2008年、兵庫教育大学芸術表現系美術コース卒業、兵庫県明石市の小学校教員に。2022年から現在の小学校に図工専科として赴任。職員室をカフェ仕立てにした先生として話題に。
子どもたちの自由な発想や表現を大事にする授業を大事にしている。
この記事を書いたのは
インタビューを中心に教育、子育て、医療、介護、食などのテーマで WEB・雑誌・書籍などの記事を執筆。お話を伺う方にたくさんの学びをいただいています。社会福祉士、法定成年後見人、中学校・高等学校教諭一種免許状、生涯学習2級インストラクター(栄養と料理)