学習障害(LD)は発達障害の中の一つで、読み書き計算などに特異的な苦手さがある場合に診断されます。知的な発達に問題がないため、就学後に保護者が気づいて相談し、診断されることが多いとのこと。「放課後デイサービスLuce」を運営し、発達障害児のサポートに関わる藤原美保さんに、診断方法や具体的な支援のアドバイスを伺いました。
学習障害とは?
学習障害(LD)は発達障害の中の一つで読み書き計算などに特異的な苦手さがある場合に診断されます。学習障害の中核となる、読字に限定した症状を示すタイプ「読み」が苦手な音韻処理の困難さを持つ場合は「発達性ディスレクシア」と言い、読みが苦手な場合、書く事も苦手なため「読み書き障害」ともいわれます。
最近は教育的な立場と医学的な立場と言う2つの考え方が主流のようです。
文部科学省の定義では知的発達に遅れはないものの、聞いたり、話したり推論する力など学習面で広い能力の障害を指し、医学的には「読み書き」「計算、算数技能の獲得」における特異的な障害を指します。
つまり知的能力から期待される算数的な概念や書字・読字能力、読む、書く、聞く、話す、推論、計算が身につきにくい状態ということです。
どうして「学習障害」が起こるのか
発達性ディスレクシアの「読み」については音韻処理の困難さが問題となっています。しかし、学習障害の原因は様々です。
学習障害の症状の種類と表れ方
子どもは自分の感覚情報をもとに外の世界の様々な事を学んでいきます。つまり感覚は、様々な運動機能や学習機能の基礎になります。人間の感覚は、ご存じの「視覚」「触覚」「嗅覚」「味覚」「触覚」の5つの感覚意外に、「固有覚」「前庭覚」があります。
視覚や聴覚が学習に影響するのは想像しやすいと思いますが、実は自分の体の傾き方やスピード、回転を感じる「前庭覚(ぜんていかく)」や、自分の体の位置や動き、力の入れ具合を感じる「固有覚」、皮膚を通じて痛みや、温度を感じる「触覚」に問題がある場合、以下の部分に問題が生じます。
・姿勢やバランスのとり方
・身体図式(触覚、前庭感覚、固有覚などの感覚によって無意識に作られる身体の枠組み。例えば、ある姿勢をとるのに、無意識に行っている関節と筋肉を協調させて使うプロセス)
・前後/左右/上下などの方向や距離感や空間認知
・肩/肘/手首/指など各関節の操り方
このような自分の体の使い方に不器用さがあれば、運動面や学習面の発達にでこぼこが生じる場合があります。
それが図形や文字、数、時計の理解などにも影響するのです。
見たものを頭の中でイメージすることができないため、その数を頭の中で増やしたり減らしたり(繰り上げ、繰り下げ)ができない事があります。図形なども頭の中で回転させたり移動させたりすることが難しく、系統だてたり類推する力も弱いことがあります。
書写や漢字なども、形をそのまま記憶することが難しく、偏(へん)や旁(つくり)の配置などが判らなくなる子も多くいます。
・見る(読む)ことに問題がある→情報収集力に問題がある
・判別はできるが、意味理解が難しい→言語理解が困難
・意味理解はできるが覚えることが難しい→情報整理、記憶の問題
・覚えることはできるが表出することが難しい→目と手の協調や運動機能に問題がある
など理由も一つではありません。
脳の働きの偏りが原因、遺伝との関係は?
原因についてもよく質問を受けますが学習障害も遺伝的要素は否定できないとはいえ、立証されたエビデンスはありません。発達障害は遺伝的要因と環境的要因とが影響し合い神経発達障害となるとされており、養育者の育て方の問題ではないとされています。そして学習障害も確立された治療法はありません。環境調整などで対応していくのが現実的です。
学習障害の診断方法
学習障害の診断は発達障害同様に児童精神科や心療内科で受けることができます。医療機関での診断は、米国精神医学界が作成したDSM-5の診断基準や日常生活の聞き取りによって医師により診断されます。(16歳以上になるとWAIS-Ⅲという成人知能検査の対象となる)知能に問題がなければ、標準化された読字、書字検査に基づいて行われることになっています。KABC-II習得度検査などにより読字、書字到達度を測る事ができます。
発達性ディスレクシアの場合、特異的発達障害診断・治療のための実践ガイドラインの中で音読に対しては4つのチェック項目が検査として挙げられています。
① 単音連続読み検査:ひらがな 50 文字を連続して音読する課題
② 単語速読検査 :有意味語 30 個,無意味語 30 個それぞれ連続音読課題
③ 単文音読検査 :Token test に採用されている3つの文章の音読課題
④ それぞれの音読に要する時間(音読時間)と読み誤りなどのエラー
を検査しています。必要に応じて視覚認知機能検査(Rey複雑図形模写、視知覚発達検査)や音韻認識機能検査(しりとり、単語逆唱、非語の復唱)、言葉の記銘力検査(auditory verbal learning test; AVLT)なども行われています。
現在は「国立障害者リハビリテーションセンター 発達障害情報・支援センター」のサイトで5-6歳の保育所・幼稚園の段階で読み書き障害のリスクをスクリーニングする観察シートも作成されています。
学習障害は他の発達障害と重複している場合が多い
学習障害の診断のお子さんは知的には問題ない子が多く、就学前は気が付かれず、小学生になってから本を読むことや板書が困難だと解り、就学後に気になった保護者が医療機関を受診することが多いです。
発達障害やグレーゾーンと言われるケースが多く、低年齢で「学習障害」だけで診断が下りることはあまり耳にしたことがありません。
私の知る限り、学習障害は、小学校高学年になってから診断されるケースが多い印象です。
低学年のうちは課題もやさしいため記憶力やほかの能力でカバーするお子さんもいますし、周囲にうまく手伝ってもらいながら何となく過ごせてしまう子もいます。
しかし、高学年になると算数なども類推する力や、イメージ力を必要とされる課題が増え、さらに全体的な学習量が増えると情報処理が難しくなり苦手さが表面化し診断に結び付く場合が一般的に多く聞かれます。
「できない」理由は一人ひとり違うのに、周囲は「できない」ことだけに注目しがち
高学年の時期に注意が必要なのは、自尊感情を低くしないようにすることです。大人はつい「どうしてできないんだ」という目で子どもに接してしまいがちですが、できない理由は子どもによって様々です。
「板書」が難しいお子さんの場合を例にご説明しましょう。
・運動機能的に書く事が難しい
・ゆっくりなら書けるけどスピードについていけない
・先生の話していることを聞いていると書く事ができなくなる(情報処理が難しい)
など「板書ができない」理由に対しても実はその子その子の背景があります。しかし、周囲は漠然と「できない」部分だけを見てしまいます。
実は「なぜできない」かが一番わからないのは子ども自身です。周囲との差を感じ、何故自分はできないのかを一番不安に感じているのです。親御さんには、その背景を理解し、どのようにしたら本人の「できる」を満たしてあげられるのかを考えてほしいのです。
苦手への具体的対処方を考えましょう。アプリを活用するのもおすすめです
書くことが苦手な子には
書く事が苦手なお子さんの場合はたくさん書かせても、「書く」こと自体の負担が大きく、記憶の定着に結びつきづらいため、1回大きく書き、意味付け、関連付けなどで覚える方法を考えましょう。個人的にはICTなどを活用することで「書く」ことは無理にさせる必要はないと考えています。写真に撮る事や情報整理の支援が必要ならデータとして渡すなど、望ましいのはその子に合った支援です。
算数は、具体物を使って考える方法を
算数はスピードを求めるのではなく、ゆっくりと具体物を使い考える力を養うことに重きをおき学習に取り組ませることがお勧めです。日常生活の中ですり合わせを行い「量」や「かさ」が解りやすい料理などの中で計量、計測などから始めてみるのも一つの手です。
また、ICTを活用した学習なども視野に入れ、苦手を支援する様々なアプリを活用していくこともお勧めします。
教えていただいたのは
発達障害のお子さんの運動指導の担当をきっかけに、彼らの身体使いの不器用さを目の当たりにし、何か手助けができないかと、感覚統合やコーディネーショントレーニングを学ぶ。その後、親の会から姿勢矯正指導を依頼され、定期的にクラスを開催。周囲の助けを受け、放課後等デイサービス施設「ルーチェ」を愛知県名古屋市に立ち上げ現在に至る。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めにしっておきたい47のルール』(健康ジャーナル社)『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。
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