大人気韓国ドラマ、『愛の不時着(사랑의 불시착)』の世界にどっぷりと浸れる夢のような展覧会、『愛の不時着』展が世界に先駆け日本に上陸。今年1月8日から東京を皮切りに、全国4ヶ所(大阪・福岡・名古屋)で開催される予定だ。ドラマの名場面を忠実に再現したセット、およそ250点の未公開カットを含む、450点を超える写真や映像、ドラマの中で実際に使われた衣装や小道具などが展示された会場には、連日リピーターが通い詰めているという。
そこで本記事では、昨年日本でも大ブームを巻き起こした『愛の不時着』の魅力を改めて振り返りつつ、実際に『愛の不時着』展東京会場を訪れた様子をレポートしたい。
豪華役者による究極のラブストーリーにハマらないはずがない!
日本では、動画配信サービス「Netflix」で2020年2月から配信スタートした『愛の不時着』。韓国の財閥令嬢で実業家のユン・セリが、ある日パラグライダーの事故で北朝鮮に不時着し、偶然そこに居合わせた軍人リ・ジョンヒョクと、“南北の壁”を超えて展開する究極のラブストーリーである。バリキャリで男にも不自由しない生活を送りながら、実は心に孤独を抱えるユン・セリを演じるのは、『私の頭の中の消しゴム』(2004年)や、『荊棘の秘密』(2016年)などで主演を務めたソン・イェジン。ピアニストとしてスイスに留学するも、最愛の兄を事故で亡くし志半ばで軍人に転身した過去を持つリ・ジョンヒョクを、『私の名前はキム・サムスン』(2005年)や、『シークレット・ガーデン』(2010年)の主演で知られるヒョンビンが演じている。
韓国ではtvNにて、2019年12月から翌年2月にかけて放送され大ヒット。最終回の視聴率は、それまで最高だった『トッケビ ~君がくれた愛しい日々~』を抜いて21.7%を記録した。日本でも、Netflixが発表した「2020年 日本で最も話題になった作品 TOP10」の第1位に輝き、「ユーキャン 新語・流行語大賞」にもノミネートされるなど、社会現象を巻き起こしたのは記憶に新しい。その勢いは『梨泰院クラス』や『サイコだけど大丈夫』、『青春の記録』といった他の韓国ドラマにも飛び火し、“第4次韓流ブーム”を巻き起こした。
「不時着ロス」なる言葉がSNSを駆け巡り、それまで韓国カルチャーに興味がなかった人たちをも夢中にさせた『愛の不時着』。その魅力はどこにあるのか。まずなんといっても、主人公セリとジョンヒョクが繰り広げるラブストーリーだ。韓国と北朝鮮という、本来ならば絶対に出会うはずのない場所で暮らす2人が運命的に出会い、数々の障害を乗り越えながら愛を育んでいく。いつかは元の生活に戻らなければならない、そして一度別れたらもう二度と会うことが出来ないという「期限付きの日々」は、それが幸せであればあるほど切なさも倍増するのだ。
また本作は、ラブストーリーであると同時にセリの「成長物語」でもある。会社では部下から恐れられ、超セレブな暮らしに浸り切った強くて孤独な女性セリが、北朝鮮で暮らすジョンヒョクや、彼の周囲の人たちとの触れ合いの中で徐々に心を開いていく。地位や肩書きなどではなく、「ありのままの彼女」を受け入れてくれるジョンヒョクたちとの出会いによって、セリは自分自身を肯定し「世界」を愛することが出来るようになっていくのだ。
ジョンヒョクの、セリへの一途な愛情表現も見どころの一つ。セリに会うため、10キロもある狭い坑道を24時間かけて「匍匐前進」するエピソードには、思わず「『ショーシャンクの空に』のティム・ロビンスかよ!」とツッコミを入れてしまったが、身を挺してセリを守るジョンヒョクの凛々しい姿には、男性である筆者も惚れ惚れしたし、かと思えばセリの元カレに嫉妬している時の、“ギャップ萌え”な表情には思わず身悶えしてしまった。
また、2人の脇を固める脇役たちの魅力も、このドラマを味わい深く重層的なものにしている。ジョンヒョクが所属する第5中隊の仲間たちは、時にシリアスな展開を見せるストーリーの中で一種の清涼剤的な役割を担っているし、にっくき適役チョ・チョルガンの卑劣さ、執念深さがドラマを大いに盛り上げる。またジョンヒョクの許嫁で平壌のお嬢様ソ・ダンと、韓国の若き実業家ク・スンジュンの恋の行方もハラハラドキドキ目が離せない。
いわゆる名バイプレイヤーを発掘するのも韓国ドラマ鑑賞の醍醐味の一つだが、例えばダンの母と伯父を、昨年オスカーを受賞した映画『パラサイト 半地下の家族』でも重要な役どころを演じていたチャン・ヘジンとパク・ミョンフンが演じていたり、『冬のソナタ』世代なら知らぬ人はいないチェ・ジウがカメオ出演していたり、タクシー運転手役として『太王四神記』のパク・ソンウンが出演していたり。知れば知るほど、調べれば調べるほどズブズブと「沼」にハマってしまうようなトラップが、あちこちに仕掛けられているから油断ができないのだ。
脱北者からの聞き取りを元に再現したという、北朝鮮の知られざる暮らしぶりも興味深い。定期的に停電したり保衛部に監視されていたり、日本や韓国では想像もつかない現実に驚きつつ、とうもろこし粉を使った麺や蒸しイモ、網で焼いた貝に醤油を垂らしただけの素朴なフードを、セリが美味しそうに食べている様子に思わず舌鼓を打ったのは筆者だけではないはず。
さらに、そんなドラマを盛り立てる音楽の魅力も欠かせない要素だ。10cmことクォン・ジョンヨルの「偶然のような運命(But It’s Destiny)」や、ユン・ミレの「Flower」、ダビチの「Sunset」などセンチメンタルな楽曲の数々。ジョンヒョクが、亡き兄のために弾くピアノ協奏曲「兄のための歌」も、ショパンの「ノクターン」を彷彿とさせる美しさだ。
次のページではいよいよ、展覧会の全貌に迫る!