ゼロ・ウェイストとは、どうしたらゴミを減らせるかをまずは考えて、できることをやってみることです。
暮らしの中で、誰もが向き合うことになる“環境問題”の一つに、ゴミがあります。それは、どこか遠い国の知らない人たちの話ではなくて、今、目の前に展開していること…。今号は、翻訳家で「ゼロ・ウェイスト」実践者の服部雄一郎さんに、親子でできる家庭ゴミとの向き合い方を教えていただきます。
──まず、ゼロ・ウェイストとは、どのような意味で、どのようなことなのかを教えてください。
服部雄一郎さん(以下、服部)ウェイストがムダやゴミという意味で、それをゼロにするというのが直訳です。けれども、ゴミをゼロにするというのは非現実的ですよね。でも、減らすことは可能だし、そもそも僕たちは「ゴミは出るのが当たり前」と思い込んでいる節がある。なので、まずは「ゴミについて考えてみる」、そして「できることをやってみる」ことが、ゼロ・ウェイストだと考えています。
──いつからゼロ・ウェイスト生活を始めているのですか?
服部 僕はもともと、ある町役場でゴミ担当として働いていました。なので、分別もやっていたし、コンポストで生ゴミ処理もしていました。でも、個人的にできるのはそのくらいで、ゼロ・ウェイストは政策として進めることだと思っていたのですが…。役場を辞めてから、世界のゼロ・ウェイストをこの目で見たいと思い、家族とともに、アメリカやインドを巡りました。そんな流れの中、ある一冊の本と出合い翻訳することになったのです。
──それが『ゼロ・ウェイスト・ホーム』ですね?
服部 はい。アメリカのカリフォルニア州在住の著者ベア・ジョンソンさんは、暮らしの中でゼロ・ウェイストを実践していて、4人家族が1年間に出すゴミの量がわずか1リットル! しかも、その暮らしぶりは優雅でシンプル。個人がここまでできるんだと刺激を受け、翻訳者である自分もゼロ・ウェイストな暮らしの実践をスタートしました。
緩衝材をカットしたおしゃれな簡易包装
通販の梱包に使われる緩衝材などをできるだけ減らすため、オーダーをする際、備考欄に「簡易包装のリクエスト」をしているという服部さん。奥様は、「天才的な簡易包装家」で、お祝いのケーキの緩衝材に庭のハーブや花を活用。また、近所のパン屋さんにはマイ籠を持参して買い物をしています。
──なにから着手したのですか?
服部 まずは、ゴミ箱をひっくり返して燃やせるゴミを並べ、我が家のゴミを検証しました。宅配便の伝票、ティッシュ、綿棒など、まあいろいろ出てきます。そこで、量の多いものから手をつけました。我が家の場合は、紙オムツだったので、思い切って布オムツへ切り替えました。
生活用品もできるだけ土に還る素材をセレクト
日々の暮らしに必要な台所用品や生活用品も、土に還る自然素材のものを選んでいます。「びわこふきん」は、洗剤を使わずに食器洗いができるコットン100%の優れもの。スポンジから出るマイクロプラスチックの心配も、これならありません。歯ブラシは、竹と豚毛の完全生分解性も使用。
──それは、ちょっと勇気がいりますね(苦笑)。
服部 確かに、苦渋の決断です。でも、洗濯の面倒さとゴミ箱の中に紙オムツが入っているストレスを比べたら、前者の方がまだましだった。ゼロ・ウェイストは、我慢してゴミの量を減らす競争ではないので、それをやったら気持ちがいいと思うことから始めるのがおすすめです。
──子育て中だと、なかなかゴミ問題に対峙できないのが現実です…。
服部 我が家も、高校1年生、小学5年生、小学2年生の子どもがいますので、そのお気持ちはよくわかります。今の子どものゴミにフォーカスするとストレスが溜まるばかりなので、僕は10年後に焦点を合わせています。ゴミを減らす意識のできる大人になってもらいたいなと。そのために、家族ではゴミの話をよくします。ゴミを減らす工夫を一緒に考えたり、プラスチック製品ではない素材のものを選択肢として提案して、選ばせたりしています。
情報をきちんと伝えて子どもが自分で選択する環境を
新たに買う子ども用品は、できるだけ子どもに選択権を与えている服部さん。エコロジカルな選択肢を示した上で、最終決定は子どもに任せます。長靴は天然ゴムのものを選びました。また、ゴミのことを考える前に大切なのが、ものを減らすこと。子どもには、整理整頓をしてものを減らし、大切に管理することを伝えています。息子さんも小学 1 年生の時から衣装ケースを自己管理。
──まずは、ゴミを意識するだけでも、生活が変わりそうですね。
服部 我慢や義務感からではなく、「おもしろそう」から始めると、できることがたくさんあります。ゴミが少ない環境は、居心地がいいと誰もが思うはずです。ぜひ、みんなが笑顔になれるゼロ・ウェイストを発見してみてください。
親子で体験! 自由研究のテーマは「ゴミ」で決まりだ!
夏休みの自由研究にもぴったりな、「ゼロ・ウェイスト」をテーマにした実験・実践を服部さんに教えてもらいました。ぜひ親子でチャレンジしてみてください。
① 生ゴミを土に還してみる
家庭で出る野菜くずなどの生ゴミは、本当に土に還るのか?庭やプランターの土に少しの生ゴミを埋めて、その後の様子を観察しよう。まずは実験をしてから、コンポストの導入などを家族で話し合ってみましょう。
② 自分の出すゴミを分別してみる
毎日、どんなゴミをどれくらい出しているのか? 分別の箱を作って、ゴミを分別し、どんなゴミがどのくらいの量になったかを測定。その後、ゴミを減らす工夫をしてから、再度分別してゴミをチェック。重さを量って減った量を「見える化」してもOK。
③飲んだペットボトルをカウントする
まずは、毎日出るペットボトルの数を1週間ほどカウント。家族の分も記録しよう。その後、水筒を持ち歩くなどの工夫をし、ペットボトルの本数を再度カウント。 1 週間でどれだけ減らせたか、あるいは減らなかったかを検証してみよう。
記事監修
服部 雄一郎
翻訳家。1976年生まれ。東京大学総合文化研究科修士課程修了(翻訳論)。神奈川県葉山町役場のゴミ担当職員としてゼロ・ウェイスト政策に携わる。その後、UCバークレー公共政策大学院に留学。廃棄物NGOスタッフとして南インドに滞在し、帰国。2014年に高知に移住。翻訳本に『ゼロ・ウェイスト・ホーム』(アノニマ・スタジオ)、『プラスチック・フリー生活』(NHK出版)、絵本の翻訳に『エイドリアンはぜったいウソをついている』(岩波書店)がある。http://sustainably.jp
ブログ:http://www.sustainably.jp インスタグラム:https://www.instagram.com/sustainably.jp/
『小学一年生』2021年7月号 別冊『HugKum』 構成・文/神﨑典子 写真/服部雄一郎
1925年創刊の児童学習雑誌『小学一年生』。コンセプトは「未来をつくる“好き”を育む」。毎号、各界の第一線で活躍する有識者・クリエイターとともに、子ども達各々が自身の無限の可能性を伸ばす誌面作りを心掛けています。時代に即した上質な知育学習記事・付録を掲載し、HugKumの監修もつとめています。