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今、むし歯は減っている!その理由は?
実は、子どものむし歯はここ30年で5分の1程度に激減しています。その理由のひとつに、おうちの人の意識の変化があります。子沢山だった時代に比べてひとりの子どもに関わる時間が増え、仕上げみがきを習慣化する人が増えました。
また、乳幼児の健診で早くからかかりつけの歯科医をみつけるよう指導が入ることもあって、治療のためでなく予防のために歯科にかかる人も増えています。おうちの人が正しい知識を知り、ポイントを押さえた仕上げみがきを習慣化させることで、幼児期におけるむし歯は予防できるのです。
3歳までにむし歯にならない子はその後もむし歯になりづらい!?
3歳までにむし歯にならなかった子は、その後もむし歯になりづらいというデータがあります。
むし歯になる原因のひとつが、食習慣です。甘いものを頻繁に食べると、その分だけむし歯になるリスクが高まります。味覚は食べるものによって徐々に形成されていき、15歳くらいで完成します。3歳未満のうちに砂糖で強い甘さを覚えてしまうと、より強い甘みを求めてしまうようになります。
3歳までの間におうちの人が味覚の形成や歯みがき習慣においてリードできると、その後もむし歯になりにくい生活を自然と続けることができるのです。
乳歯の生え方
❶~❼は乳歯が生える順番を示しています。
歯の生える時期や順番には個人差があります。
最初の乳歯は6~7か月ごろ、下の前歯❶から生え始めます。その後、上の前歯❷も生え始め、1歳を迎えるころには上下の8本の前歯❶~❹が生えそろいます。
1歳過ぎから手前の奥歯❺も生え始め、1歳半ごろには4本の奥歯がかみ合うようになります。
1歳6~7か月ごろに乳犬歯❻が上下に生え始めます。最後の乳歯である奥の奥歯❼は2歳3か月ごろに下あごから、2歳5か月ごろに上あごから生え始めます。これで全20本の乳歯が生えそろいます。
仕上げみがきのコツとポイント
まだ自分できれいにみがくことができない幼児期は、おうちの人による仕上げみがきがとても重要です。コツとポイントを押さえて、ピカピカのお口を目指しましょう!
小学2年生までは仕上げみがき
早いうちから自分で歯ブラシを持って歯をみがく習慣をつけることは大切ですが、子どもの歯みがきは、みがき残しが多いので、おうちの人が必ず仕上げみがきをしてあげてください。
仕上げみがきが必要な目安は、小学2年生まで。3年生ごろになると物事を観察する力が育ってくるので、鏡を見ながら自分でみがけるようになります。それまでは、おうちの人がきちんとみがいてあげましょう。
むし歯になりやすい部位をしっかりと
授乳期にむし歯になりやすいのは、乳首が当たる上の前歯の裏側です。奥歯が生えてきたら、奥歯の溝もむし歯になりやすいポイントです。また、歯ブラシを歯ぐきに当てないでみがくと、歯の生え際も汚れが残りやすいので要注意。歯と歯の間も、1日1回、デンタルフロスを利用して仕上げると安心です。
下の図を参考に、みがき方を確認してみましょう。
明るいところでよく見ながらみがく
仕上げみがきの際、口の中が見えないまま、なんとなく済ませていませんか? 仕上げみがきは、汚れが残っていないかどうかを確認できるよう、明るいところで行うことが大切です。
昼間なら窓際で行ったり、LED のスタンドライトなどで口の中を照らしながら行ったりしてもいいでしょう。ライトで口の中を照らすと、おうちでも歯医者さんごっこのようで楽しいですね。
仕上げみがきを嫌がるときはどうしたらいい?
最初から仕上げみがきが好きな子は、50人に1人いるかどうか。口の中はとても敏感なので、触られるのを嫌がるのが通常の反応です。
まずはお子さんの機嫌がいいときに、仕上げみがきの姿勢になって指で口の周りをタッチして遊ぶことから始めましょう。慣れてきたら口の中に指を入れ、次に歯ブラシを使って、と少しずつステップアップすると、嫌がらなくなるはずです。親子のスキンシップの時間のつもりで楽しくできるといいですね。
仕上げみがきの姿勢
歯ブラシはペンを持つような握り方で軽く持ち、力を入れすぎないように小刻みに動かしましょう。頭を安定させると素早くみがけます。
慣れてきたら、おうちの人が正座をし、子どもの頭をひざの上にのせて行いましょう。
おうちの人ができること1|むし歯にさせない食習
むし歯は、「口内細菌」「歯の形や質」「口内に残された糖類」という3つの要因が重なり合う時間が長く経過することで発生します。重なり合う時間を減らすためには、仕上げみがき以外にも、食習慣の見直しや専門家の助けも重要です。
「ダラダラ食べ」をしないで飲食の間隔をあける
口の中がキレイな状態である時間をなるべく長く保つことが大切です。そのためには、食事のリズムを整えて、食事間隔をなるべくあけるよう心がけましょう。
「ダラダラ食べ」をしないよう、朝昼晩の食事以外のおやつ(補食)は時間と量を決め、ジュースなどを飲む場合はおやつのタイミングで一緒に飲むこと。それ以外の飲み物は水かお茶にしましょう。
バランスのとれた食事が歯を強くする
健康な歯のためには、歯そのものを強く育てることも大切です。
歯にはカルシウムというイメージがありますが、カルシウムだけとっても体に吸収されません。カルシウムの吸収を高めるビタミンDのほかにも、強い歯を育てるためにたんぱく質、ビタミンA、ビタミンCなどいろんな栄養素をバランスよくとることが大切です。
3歳までは天然の甘みを活用し「甘いもの好き」にしない
人間を含めたすべての動物は、元来甘いものが大好き。気をつけないと、どんどん糖濃度の高い「強い甘さ」を好きになってしまいます。
果物の糖濃度は10~20%。一方でチョコレートは40~50%、キャンディは80~90%です。味わう体験を始めたばかりの幼児期は、ふかし芋やバナナなど、糖濃度の低い自然のもので甘さを覚えましょう。
おうちの人ができること2|かかりつけの歯医者さんを活用
かかりつけ歯科医に定期的に診てもらおう
4~6か月に1回を目安に歯科医に診てもらいましょう。歯の成長や状態に合わせたケアを相談できます。
新型コロナウイルスの影響で受診を躊躇する方もいるかもしれませんが、歯科は診察時にマスク・手袋を着用するなど、コロナ禍以前から感染予防対策が行われている形態であり、むし歯や歯周病の原因菌が、新型コロナウイルスに感染した場合に重篤化するひとつの因子であることがわかっています。重篤化のリスクを下げるためにも、子どもも大人も定期的に受診するといいでしょう。
活用術1 フッ化物塗布
フッ化物(フッ素)を歯の表面に塗布することで、歯そのものが強くなります。歯が生えたらすぐにでも行うことが可能で、4~6か月に1度の間隔で行うのが目安となっています。
活用術2 シーラント
シーラントとは、奥歯の溝に歯科用の樹脂を埋める予防処置です。むし歯になりやすい溝の部分を物理的にふさぐので、確実性があります。1本につき5~10分程度口をあける必要があるので、それが可能な3歳を過ぎてから行うといいでしょう。
記事監修
1978年開業の小児歯科治療専門の歯科医院、医療法人アリスバンビーニ小児歯科理事長。子どもや親とのコミュニケーションを重視した治療を行う。全国小児歯科開業医会監事、品川学校歯科医会会長。
『ベビーブック』2021年6月号別冊 イラスト/秋野純子 文/洪 愛舜 構成/童夢