スポーツが苦手な子どもを「好き」に変える、目からウロコの教え方は?「声かけ」NG例も!

体育のある日が憂鬱。休み時間、みんなが大好きな鬼ごっこも、ドッジボールも本当は大嫌い…スポーツに苦手意識を持ち始めたお子さんに、親や大人ができることは? 年齢・性別・運動神経に関わらず、誰もが楽しめる新スポーツを考案している「世界ゆるスポーツ協会」事務局長の萩原拓也さんに、「運動が嫌いな子どもがスポーツを楽しむためのヒント」をお伺いしました。

答えてくれたのは…萩原拓也さん(一般社団法人世界ゆるスポーツ協会理事・事務局長)

「スポーツが苦手でも劣等感を与えないためにできることはたくさんあります」(萩原さん)

スポーツは「ゲーム性」が大事 50メートル走は「歩幅を少なくするゲーム」

−−スポーツの「苦手」を「好き」に変えるために、親はどんなことができるでしょうか?

親や周りの大人ができる働きかけとして、ひとつには運動やスポーツに「ゲーム性を持たせる」ということがあると思います。

たとえば、単純な50メートル走。足が早い子たちって、一歩一歩の歩幅が大きいんです。だから「歩幅が少なくなるように50メートルを走る」というルールのゲームみたいにするんです。

昨日は30歩で走れたね、じゃあ今日は29歩より少なくなるようにちょっと頑張ってみよう、というふうにやると、子どもたちの歩幅がちょっとずつ大きくなってくる。そうすると歩幅が大きくなって、結果的に足も早くなります。

「早く走れるように頑張ってみよう」と言われても、子どもはどう頑張ればいいかなんて分からない。でも「50メートルを何歩で走れるかやってみよう」だったら、分かりやすいですよね。早く走るのにつながる動きを目的化してあげて、結果としてうまくできるようになる状況を作ってあげるといいと思います。

「目的」を再設定する ボールを遠くに投げるのではなく「全身を使う」

−−「スポーツにゲーム性を持たせる」は面白い発想です。では、たとえばボール投げはどうでしょうか?

ボール投げもフォームが大事ですよね。ボールを投げるっていうのは実は全身運動で、体を使って投げる必要がある。うまく投げられる子は体を大きく使えるんだけど、うまく投げられない子は手だけを意識して投げてしまうんですね。

だから、大きなボールを投げるところから始めると、投げるのがうまくなる傾向があります。たとえば、バランスボールを思いっきり遠くまで投げてみる。バランスボールくらい大きなものを投げようとすると、必然的に全身を使うようになりますよね。体を使う感覚を覚えたら、そこから徐々にボールを小さくしていくんです。

考え方は先ほどの50メートル走と同じですね。ボールを遠くへ投げてみよう、ではなくて、ボールを遠くに投げるために必要なこと=「全身を使う」ことを目的化する。そうすることで、結果としてボール投げがうまくなることを狙っています。

時には「できないことを目の当たりにさせない」ことも大事

 

−−体育がうまくいかず、学校から落ち込んで帰ってきた子どもに対して、親ができることはありますか?

そこまで落ち込んでいる子どもに対しては、「できないことを目の当たりにさせない」という判断も、成長過程においてはすごく大事だと思います。

苦手なことに正面から向き合う必要は必ずしもないんです。仕事に関しても、「なんでこんなのもできないんだ」っていう怒り方について、よく議論されますよね。そういう言われ方をして頑張れるタイプの人もいるけれど、大多数はもう無理、と折れてしまう。

それと同じで、本人なりに頑張っているわけだし、できないことをできるようにするのは難しい。親が何かの声がけをしたり、無責任に「大丈夫だよ」と言ってみたところで、学校に行ったら同じことを経験するだろうから、根本的に解決はしない。せめて家庭という場では「掘り返さない」という選択肢もありだと思います。

子どもをコントロールしようとする声かけはNG

−−逆に、親や教育する側として「やってはいけない」ことはあるでしょうか。

子どもたちのサッカーのクラブチームに行ったりすると、熱心なコーチや親が、ボールを持った子に対して「ドリブルしろ」「右にパスだ」とか言っている光景をよく目にするんです。これ、本当は一番やってはいけないことですよね。

スポーツをするうえで「スポーツ・インテリジェンス(情報戦略)」はとても大切です。子どもたちはそれを、実践のなかで身につけていくべきなのに、親やコーチが局面局面で判断することを放棄させる言葉をかけてしまう。

そういう、テレビゲームのような感覚で、子どもをコントロールするような声がけは絶対にしてはいけないと思います。

「こんなときこうする」基準を教えて、自分で判断させる

大事なのは、子どもがある局面になった時に、どう判断するか、その基準を教えてあげること。たとえばサッカーなら、「目の前に相手がいなかったらドリブルしていい」「ゴールが見えたらシュートしていい」「ゴールが見えなくて相手がいる、そういうときはパスだね」といったようにです。ひとつひとつ基準を教えて、次にその状況になったときに、自分で判断できるようにしてあげるんです。

経験を重ねることで、子どもたちは、自分たちで判断する楽しさに気づいていく。あ、あの時シュートすることもできた、こっちのパスもあった、と後で振り返って、次はもっとこうやろうと思えるようになります。そうやって自分で考えることの楽しさに気づくことも、スポーツの醍醐味だと思います。

萩原さんは、運動が苦手な人でももっとスポーツを楽しんでもらいたいと、新しいスポーツづくりに取り組んでいます。その名も「ゆるスポーツ」。次回はそんな、魅力深い「ゆるスポーツ」の世界についてご紹介します。

お話を伺ったのは

一般社団法人世界ゆるスポーツ協会理事・事務局長
萩原拓也(はぎわら・たくや)

システム開発会社、スポーツIT会社を経て2018年スポーツマネジメント会社入社。 スポーツ専門のシステム開発やコンサルタントとして活動する傍ら、友人であり代表理事でもある澤田智洋さんと2015年に世界ゆるスポーツ協会を設立、普及に努めている。https://yurusports.com/

構成・文/五十嵐ミワ

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