「天の羽衣」とは
「天の羽衣(あまのはごろも)」は、いつ誰が書いた物語なのでしょうか。登場人物やあらすじも合わせて見ていきましょう。
かぐや姫の昇天を指す「竹取物語」の一節
「天の羽衣」は、「竹取物語(たけとりものがたり)」の終盤の「かぐや姫昇天」に出てくる話です。「竹取物語」は日本最古の物語として知られ、後の日本文学にも大きな影響を与えました。
竹取物語は、主人公・かぐや姫の生い立ち・5人の貴族や帝からの求婚・昇天の3部で構成されています。作者は不詳ですが、紫式部が「源氏物語」で竹取物語を紹介していることから、平安時代の前半には存在したと考えられています。
「天の羽衣」の登場人物
「天の羽衣」は、下界に未練を残すかぐや姫が月の住人に戻る過程を描いた話です。主な人物と役柄は以下の通りです。
●かぐや姫:竹取の翁(たけとりのおきな)夫妻に育てられ、美しく成長した女性
●竹取の翁と媼(おうな):かぐや姫の育ての親
●帝(みかど):国でもっとも身分の高い男性で、かぐや姫と結婚したがっている
●兵士:かぐや姫の昇天を阻止するために帝が派遣した人々
●天人(「てんにん」または「あまびと」):月の都からかぐや姫を迎えにきた人々
「天の羽衣」のあらすじ
かぐや姫はもともと月の都の住人です。訳あって地上で過ごしていましたが、ついに月に帰る日がやってきました。姫から話を聞いた翁は、帝に相談します。帝は警護の兵を大勢派遣して、屋敷を守らせることにしました。
当日の夜、屋敷の上空が明るく輝き、雲に乗った天人たちが降りてきます。天人の不思議な力によって、兵も屋敷の住人も動けなくなってしまいました。
天人は翁や媼の嘆願も無視して、姫に不死の薬を渡し、天の羽衣を着せようとします。しかし、姫は羽衣を着ようとしません。天の羽衣をひとたび着ると、たちまち下界の記憶が消えてしまうからでした。
姫は天人を待たせたまま翁や媼に別れを告げ、帝には手紙と薬を形見として残します。その直後、天人に羽衣を着せられた姫は、すべてを忘れて月に帰っていきました。
昔話の「天の羽衣」もあり
「天の羽衣」には、かぐや姫とは別のお話もあります。おおまかな話の流れは、以下の通りです。
山を歩いていた男が、川で水浴びする天女を見かけました。男は、近くに置いてあった天女の羽衣を盗んでしまいます。羽衣をなくして天に帰れなくなった天女は男の妻となり、地上で暮らすことになります。ある日、男が留守の間に、隠してあった羽衣を天女が見つけて天に戻っていきました。
天女が天に戻った後のストーリーには、いくつかのバリエーションが存在します。天界でも夫婦になろうとした天女と男が、天女の父によって引き離されるといった、七夕伝説とリンクしたものもあります。いろいろな伝説を集めて、読み比べてみても面白いでしょう。
「天の羽衣」が書かれた時代は?
「竹取物語」が書かれたとされる平安初期とは、どのような時代だったのでしょうか? 当時の様子と、同時期の文学作品を見ていきましょう。
時代背景と他の文学作品
平安時代とは、794(延暦13)年に桓武天皇(かんむてんのう)が平安京に都を移してから、鎌倉幕府が成立するまでの約390年間を指します。
奈良時代までの日本は中国から文化を取り入れており、その影響を受けてきました。しかし、894(寛平6)年に遣唐使が廃止されると、日本の風土に合った独自の文化が花開きます。
特に大きく発達したのが、日本語の「文字」です。奈良時代に誕生した仮名文字は、平安時代に入るとより簡略化された片仮名や平仮名に変化します。
片仮名・平仮名の普及によって、漢文を書けない人でも簡単に文章を書けるようになり、さまざまな文学作品が誕生しました。日記や物語のような、日常の出来事や人物の感情を盛り込んだ作品も盛んに書かれ、現在まで読み継がれています。
「竹取物語」と同じ時代に書かれたとされる文学作品として、「伊勢物語(いせものがたり)」や「土佐日記(とさにっき)」などが知られています。
天の羽衣を書籍で楽しむ
「天の羽衣」を含め、「竹取物語」全体のストーリーを知りたい人は、現代語訳を読んでみるとよいでしょう。子ども向けも含めて、おすすめの書籍を紹介します。
竹取物語(全)ビギナーズ・クラシックス 日本の古典
「ビギナーズ・クラシックス 日本の古典」は、古典の教材を探している人にもおすすめのシリーズです。一節ごとに原文と現代語訳が並んでいて、それぞれの節に寸評や解説コラムが付いています。
たとえば、かぐや姫の成長ぶりを描く節では、平安女性の成人式の行われ方や衣裳、髪型などが紹介されていて、歴史的な知識も自然に頭に入ってきます。「昔の人はこんな風に暮らしていたのか」と想像でき、物語の世界に深く入り込めるでしょう。
「竹取物語」星新一
難解な古典を気軽に楽しみたい人には、SF小説の名手・星新一の作品をおすすめします。原作の内容を尊重しつつも、著者ならではの解釈が随所に盛り込まれており、現代文学のように楽しめます。
恋の駆け引きや宇宙へのあこがれなどが、現代的な表現で鮮やかに描かれていて、人のやることは昔も今も変わらないのだと実感できる内容です。原文や解説も掲載されているので、古典の入門書としても使えます。
「まんがで読む 竹取物語・宇治拾遺物語」谷口 孝介監修
「竹取物語」と鎌倉時代の「宇治拾遺物語(うじしゅういものがたり)」を収録した、小学生向けの書籍です。話の流れをつかみやすい漫画と補足説明用のコラムで構成されており、楽しみながら古典を学べます。
物語に出てくる和歌とその訳もしっかり掲載されているため、大人が読んでも十分楽しめるでしょう。
2つの話の共通点を楽しむのもおすすめ
ロケットも望遠鏡もない時代、人は空を見上げながら、さまざまな想像をめぐらせていました。雲の上や月に、天人が住む別世界があると信じる人も多かったと考えられます。
「天の羽衣」は、天界と地上を隔てるものの象徴として語られる話です。かぐや姫の昇天でも天女伝説でも、羽衣を身にまとった人は皆、地上に住む人にとって手の届かない存在となってしまいます。
二つの話を通して、天の羽衣にこめられた天界へのおそれやあこがれを、子どもと一緒に感じてみるとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部