【春風亭一之輔さん】家族にも内緒だった「新メンバー」入り。初回放送後、長男からは厳しいひと言が…

日曜日の夕方、テレビから流れるテーマソングもお馴染みの『笑点』。実に57年の歴史を持つ、老舗の演芸番組です。2023年2月、この人気番組の新メンバーになったのが、落語家の春風亭一之輔師匠。新メンバー発表の日には、Twitterのトレンドワードにも上がるほど話題になり、そのニュースが賑やかに駆け巡りました。
一躍時の人となった一之輔師匠は、落語界では人気と実力を兼ね備え、“チケットの取れない落語家”と称されることも多く、ラジオや執筆でもご活躍です。 実生活では3人のお子さんを持つパパで、子ども向けの落語の本も多数出版されています。
世代を超えて落語を広めていきたいという、一之輔師匠に子どもと一緒に落語を楽しむポイントを教えていただきました。

お話の最後がちょっと笑っちゃう「落ち」になっているのが「落語」

落語とは、着物を着た人が、座布団の上に座って、一人で物語を語る、昔からの話芸のことをいいます。

そのお話の最後は、必ず「落ち」といって、ちょっと笑っちゃうような結末になっているのも、特徴のひとつでしょうか。 

落語は、江戸時代ごろからあるといわれています。お坊さんの法話がその起源だとか、大名に面白い話を聞かせるお伽衆が始まりだとか、いろいろな説がありますが、本当のところはどうなんでしょう。正確なことは誰にもわかっていないようです。だから、私にもわかりません(笑)。 

でも、何百年たった今でも、ほぼ毎日、一年三百六十五日、寄席やホールなどで落語を聴くことができるんですよ。 

家族にも内緒だった「笑点」出演。初回放送後、長男からは厳しいひと言が…

落語の噺に入る前の導入の部分を「マクラ」というんですが、私は、子どもたちのことを割とマクラで話すことが多いんです。自分でも、なんだか野暮だなと思っていましたけど、子どもを見ていると面白い!ですから、こんな面白いネタを話さない手はないな、と(笑)

今回の笑点レギュラー決定については、厳しい緘口令が敷かれていたので、放送直前まで家族の誰にも知らせていませんでした。

放送後に帰宅すると、次男と長女は「わあ、すごいね」と言ってくれたものの、長男からは「浮足立たないように。お父さんと僕たちは別だから」とクールなひと言がありまして…。でも、番組を見た後に「あんがい適任じゃね?」と言ってくれましたけど(笑)。

「落語」は子どもと一緒に楽しめるエンタテイメントです!

江戸時代から続いている伝統芸能と聞くと、なんだか難しくて子どもには早いのでは? と構えてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。基本、日本語がわかれば大丈夫(笑)。子どもが楽しめて笑える噺もたくさんあります。 

 実際、学校寄席といって、保育園、幼稚園、小中高の学校へ噺家がうかがって落語をやることも多いです。

私も、保育園に呼ばれて落語をやったことがありますが、生後6カ月の赤ちゃんから6歳までの“お客さん”に、楽しんでいただけたと思います。ほとんどの子が最後まで飽きずに聞いてくれました。泣き出して途中退場しちゃった子どももいましたが、それはそれでいいんです。 

子どもたちに向けた学校寄席では、まず落語とは何かという話をして、手ぬぐいと扇子を使って、お蕎麦を食べたり、本を読んだりする「しぐさ」を披露します。 それから、子どもや動物などが主人公の短め(15分くらい)の噺をやります。

扇子や手ぬぐいなどの道具と、目線、顔の向き(右を向いたり、左を向いたりして、人物を演じ分ける)と、言葉だけで、物語を描き出すのが落語です。 

 

子どもたちにおすすめの噺は、『子ほめ』、『初天神』、『寿限無(じゅげむ)』、『狸の札』、『転失気(てんしき)』、『桃太郎』、『平林(ひらばやし)』など。 子ども向けに書いた本でも紹介していますので、是非、読んでみてください。(『春風亭一之輔のおもしろ落語入門』『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり』)

 落語は子どもの想像力を育てるのにうってつけ

落語は、私のようなオジさんが女の人をやったり、狸になったり、いろいろな役になっておしゃべりをします。それも、着物のままでお化粧をするわけでもなく、必要以上に声色を変えることもしません。

聞き手であるお客さんは、そんな一人のおしゃべりから想像をふくらませて笑いへと繋げていくわけですから、想像力を育むことにとても役立つと思います。一人のおしゃべりをみんなで一緒に聞くという経験は、日常ではあまりありませんよね。

でも、落語会や寄席なら、大きな声を出してみんなで一緒に笑えます。この、「声に出して笑ってもいいんだ」「みんなで一緒に笑ってもいいんだ」という経験は、子どもの心の成長にとって大切なことだと思います。 

 親子で楽しめるエンタテイメントを、是非、ライブで体験してください

定番の登場人物で、いつもぼ~んやりしていて、なんとかラクに生きようとする「与太郎」という人物が、噺によくでてきます。他にも、だらしのない人、失敗ばかりしている人、間抜けな人、慌て者、そそっかしい人など、実にいろいろな人が登場してきます。でも、それがダメということでなく、笑い話にしていきます。

どんな人も排除せずに、「こんな人がいたっていいじゃない」という懐の深さがベースにあり、それが落語の魅力のひとつ。そのあたりを、親子で笑い合いながら感じていただければ、いいんじゃないでしょうか。 

寄席に足を運んで、生の落語を見ていただくのがいちばんですが、まずは、本を読んだり、DVDやテレビを見たりして、好きな落語家を見つければ、落語の世界がグッと身近なものになると思いますよ。 

私も寄席に出ていますので、いつでも会いに来てください。お待ちしています!

春風亭一之輔
2001年日本大学芸術学部卒業。同年、春風亭一朝に入門。04年二つ目昇進、12年真打昇進。古典落語に現代的な笑いを巧みに取り入れながら、聴き手を落語の世界へと連れて行ってくれる、今大人気の若手真打。滑稽噺から人情噺まで持ちネタは200を越える。年間900席以上の高座に上がり、テレビやラジオでも活躍。2023年2月より、日本テレビ『笑点』のレギュラーメンバーとなる。3人の子ども(高校生の長男、中学生の次男、小学生の長女)のパパ。公式ウェブサイト「いちのすけえん」http://www.ichinosuke-en.com 

構成/神﨑典子 画/山口晃(『春風亭一之輔のおもしろ落語入門』より)写真/キッチンミノル

*Hugkumの過去記事を元に再構成

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