目次
幼児期に「四角はこの形」といった固定概念を植え付けないで
正方形だけが四角ではない
子どもに「三角形や四角形の形」をはじめて教えるとき、積み木やパズル、箱などの正方形や長方形、正三角形の面を指さしたりしながら
「これが四角だよ」
「三角ってこういう形だよ」
などと教えていませんか?
親はつい、子どもに早く図形を覚えてほしい気持ちもあって、このような声掛けをしがちです。もちろん間違いではありませんが、大迫先生は「そう言われると、子どもはその形〝だけ〟を四角形、三角形と認識してしまう危険があります」と言います。
例えば、大迫先生の教室で幼児が挑戦している下の問題を見てみましょう。
教室に通い始めたばかりの子は、この問題を見て「長方形」だけに色をぬって自信満々な子が意外に多いとか。「ひし形」と「台形」も四角形であることに気づかないのです。そのような子に「ひし形」や「台形」について「これはどんな形?」と聞いても黙ってしまうといいます。「三角形ではないけど、四角形でもないし……」と思ってしまうからです。
「これはなんの形かな?」と聞いてみよう
四角形とは「4本の直線で囲まれた平面上の図形である」というのが算数での定義です。ただ幼児期の子どもにこの定義を教える必要はまったくありません。
それよりも、
「これは何の形かな?」「これはこの形と似ているね」
などと話しながら、さまざな図形を見せてほしいと言います。
そして子どもが「身の回りにはいろんな形がある」ことを十分知ったあとで、四角形、三角形を集めて、
「まっすぐなところが4つ(3つ)あるね」などと「辺」の数に注目させてから
「このグループは全部四角形、こっちのグループは全部三角形っていうんだよ」
などと教えてあげるといいのです。
同じ四角形でも色々な形や向きがあることを伝えて
最初に正方形を指して「これが四角形」のように教えられると、それが固定概念になって、子どもはそれ以外は四角形じゃないと理解してしまう可能性があります。世の中には正方形、長方形以外にも「いろんな四角形」があることを知らないと、小学生の図形の学習に入って「ひし形」「平行四辺形」「台形」が出てきても、ピンとこないのです。だから「図形の問題がわからない→苦手」になってしまうのです。
「幼児期に、このような固定概念を植え付けないようにして、柔軟な頭を作っておくことはとても大事です」と大迫先生は強調します。
見えない線が見えるようになる「折り紙パズル」
折り紙を自由に切って「元に戻す」だけ
平面図形の問題は「補助線(見えない線)がきちんと引ければ解ける」と言われます。補助線を引くことで、「こことここの辺の長さ(または角度、面積)は同じ」ということが分かると、問題を解く手がかりが見えてくるからです。しかし、これがとても難しく、小学校高学年の平面図形でつまずく子どもがたくさんいます。この原因について大迫先生は次のように話します。
「見えない線をイメージしたことがなければ、いきなり高学年で『補助線を引けばわかる』と言われても急には思いつかないですね。特に中学受験算数や中学校数学では補助線をイメージしながら解く問題が多く『どこに線を引けばいいの?』とずっと悩むことになってしまいます」
この補助線を見えるようにするには、幼児期に「折り紙パズル」をするのが一番だと大迫先生は言います。
遊び方は簡単。「子どもが好きなように折り紙を切って、バラバラにしたら、また元の正方形に戻す」だけ。
最初は2つに切る(2ピースにする)でいいのです。好きなように(辺と辺をきっちり合わせなくてもいいという意味で)2つ折りにして開き、その折り目の線に沿ってハサミで切ります。子どもに切らせれば、ハサミを使う練習にもなるでしょう。
そして一度バラバラにしてから、「もとの折り紙の四角形に戻してごらん」と言って、もとの正方形になるように組み合わせさせます。
慣れてきたら4ピース、6ピース……と増やしていきましょう。
見えない線が見えてくる!
遊んでみるとわかりますが、子どもには4ピースでも元の正方形に戻すのは意外と難しいことがわかります。5枚以上になると大人も苦労するかもしれません。
元に戻せなくてイライラするのが嫌なら、切る前に写真を撮っておくといいでしょう。
直線で切り分けるということは、さまざまな形や大きさの「三角形」や「四角形」で切り分けるということになります。折り紙を折るのでも、鉛筆と定規で線を引くのでもいいのですが、この直線がまさに補助線(見えない線)として使うようになっていく線になります。
この図形パズルで遊ぶことで、子どもは「正方形はこんなにいろんな三角形や四角形が集まってできている」ことに気づきます。三角形を「もとの形」にすれば「大きな三角形は、小さな四角形や三角形が集まってできている」ことにも気づけます。つまり、補助線があることで、単なる折り紙が「さまざまな図形の集合体」という見方ができるようになるのです。
この「さまざまな図形の集合体であることが分かる」ことは、図形問題を考える手がかりになります。補助線を引いてできる三角形は図形の最小単位。だから図形の補助線は三角形に区切ることで考えやすくする「ヒントの線」となることが多いのです。そういう意味でも折り紙で作るパズルは「見えない線」をイメージするのにとてもいい体験になりますね。
自然と三角形の「合同・相似」の概念に触れられる
折り紙なので、いろんな補助線のパターンのパズルを作れますし、間違えたら気軽にやり直せるのもいいところ。
慣れてきたら、ランダムな補助線ではなく、辺と辺、または角と角をピッタリそろえて折り目をつけていきましょう。開いたときに左右対称に補助線ができて、似たような形のピースが多くなるので、切って元に戻すのが「難しいけどおもしろい」パズルになります。
こうなると、大人でもかなり頭を使わなくてはいけません。親子で熱中しすぎないように注意!
このパズルを繰り返すことで、子どもは補助線同士が平行だったり、交わっていたり(さらに直角で交わる、鋭角・鈍角で交わる)ということを視覚的に理解していきます。
さらに「この三角形とこの三角形は全く同じ形」とか、「形は同じだけど大きさが違う」といった、合同・相似の考え方にも気づくでしょう。
「平行」「直角」「合同・相似」という言葉やその意味を教えなくても、小学校高学年以降の算数・数学で登場する図形の考え方に自然と触れられるのです。こうして少しずつ平面図形のセンスが育まれていきます。
切ったピースをつなげて「見立て遊び」から始めてもいい
パズル遊びも楽しめる
もし、切ったピースをもとの正方形に戻すのが難しければ、いくつかのピースを組み合わせて何かを作る「見立て遊び」から始めてもかまいません。先の折り紙を曲線で切ってパズル遊びをするのもおすすめです。
「とくに未就学児でしたら、最初は紙の上にいくつかのピースを置いて、‶何に見える?〟と聞くのでもいいでしょう。三角形や四角形で何かを作るという遊びを通して図形に興味を持てるといいですね」と大迫先生は言います。
「答えがひとつではない問題」に立ち向かう力は、今後必須に
今回は折り紙の図形パズルで簡単に親子で図形センスを育む遊びを紹介しました。このパズルを使って育まれる力は、じつは「図形センス」だけではありません。
「見立て遊びにしても正方形に戻すパズルにしても、答えは一通りではない、ということがわかるでしょう。これが図形パズルのおもしろいところなのです。算数の問題のなかでも数に関するものは答えがひとつに決まるものが多いなか、図形問題は答えが何通りもあるものが多いのが特徴です。答えがひとつではない問題に立ち向かう力もこれからの社会で求められる大切な力。このような図形パズルで遊びながら‶答えは何通りもある〟という考え方に子どもたちが慣れてくれるといいですね」と、大迫先生は図形パズルをすすめる理由を話します。
この折り紙パズルのように、正方形を小さな三角形や四角形の組み合わせで作った図形パズルは、いろんなパターンで、素材もプラスチック製や木製のものなど、たくさん市販されています。「タングラム」はそんな図形パズルの典型例。もちろん市販のパズルを使って遊ぶのも楽しいですよ。
次回は平面図形の力がつく教材をご紹介します。どうぞお楽しみに。
立体図形への親しみ方はこちら
記事監修
日本数学検定協会認定数学コーチャー、同協会幼児さんすうエグゼクティブインストラクター。大手個別指導塾で中学受験算数の担当講師等を経て、東京・恵比寿で未就学児対象の「幼児さんすうスクールSPICA®」を開講。同時に母親向きのお母様へのセミナー、イベント、ワークショップでも活動している。著書に『算数が出来る子の親がしていること』(PHP研究所子育て文庫 )などがある。「ブログ」
構成・文/船木麻里 撮影/編集部