『時そば』ってどんなオチ? 江戸時代の時刻の数え方がミソ【教養としての落語】

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普段落語に親しみがない方でも、『時そば』という名前を聞いたことがある方は多いのでは? 『時そば』とはスタンダードな落語演目の一つで、そば屋のお会計を誤魔化そうとして、失敗に終わるクスリと笑えるお話です。分かりやすいお話なので、お子さんへの初めての落語にもピッタリ!

『時そば』とは

『時そば』とは、明治中期に三代目柳家小が、大阪落語の『時うどん』という作品の舞台を江戸に移して改作した落語のお話。さかのぼると『軽口初笑(かるくちはつわらい)』『坐笑産(ざしょうみやげ)』『富久喜多留(ふくきたる)』などに似たようなお話があるため、これらが原話ではないかとされています。

お話を読む前に、江戸時代の「時間」について知っておくとお話が理解しやすくなりますよ。

江戸時代の時刻の呼び方がミソ

『時そば』の「時」とは、時刻のこと。現在と異なり、江戸時代には時計がないので、寺で鐘を打つことで町の人に時間を知らせていたのです。例えば、真夜中の12時が9回2時が8回4時が7回のように、2時間起きに段々鐘の回数が減っていき、お昼の12時がまた9回にリセットされます。

その鐘の音を時計がわりにしていた当時の人々は、時刻を鐘の音の数、つまり12時なら「9つ(ここのつ)」、2時なら「8つ(やつ)」と呼んでいました。

「時刻」と「値段」で混乱させて…

物語はそんな江戸時代のお話。ある冬の寒い夜、一人の男が屋台のそば屋を呼び止めました。注文した後、男は屋台の名前からそばの出てくるタイミング、割り箸や器、出汁、麺をひとしきり褒めちぎって食べ終えました。

お会計の時に、その時代そばはどれも16文と決まっているのに、わざわざ値段を尋ねて細かいお金で支払おうとした男。お金を数えながら、そば屋に途中で「今何時(なんどき)だい?」と尋ねます。なんと時間を尋ねることで、そば屋の職人を惑わしてお会計を誤魔化したのです。

その一部始終をみていた与太郎という男は、自分も真似しようと意気込みですが、失敗して逆に自分が損してしまう、というストーリーです。

時そばの見どころ

このお話の落語としての見どころは、主に2つ。1つ目は、そば屋でそばをすするシーン。細かいのどの動きや擬音で、まるで本当にそばをすすっているかのような場面が面白いポイントです。

2つ目は、そば屋の職人と男のテンポの良い会話のやり取り。お世辞を江戸っ子口調で、トントントンと調子よく展開していくところが見どころになります。

オチは「間抜けオチ」。会計をごまかした男を見て、自分も真似しようとしたところ、逆に損してしまうという間抜けな結末のお話です。

『時そば』は江戸っ子の威勢の良い口調や、夜中のそばの屋台という当時の習慣、間抜けな失敗のオチというわかりやすい展開なので、落語初心者でも安心して楽しむことができる、おすすめの演目です。

『時そば』のあらすじ

ある寒い冬の夜、男が「あたりや」という名前のそばの屋台を呼び止め、そばを注文しました。男はそば屋の主人に「店の名前が縁起が良いねぇ」「そばの出てくるタイミングが最高!」「使いまわしではない割り箸を使用していいねぇ」と褒め、さらに器や出汁、そばのコシや細さ、ちくわなどを次々にテンポよく褒めちぎったのです。

そばを食べ終わった男は

男はそばを食べ終わると、お会計時に「細かいお金しかない」と言い、お金を11枚数えながらそば屋の職人の手の上にのせていきました。「12345678…」と数えたところで、「今何時(なんどき)だい?」と時間を尋ねると、そば屋は「9つです。」と答えました。そうすると、そのまま数を数え出し、「10111213141516。ごちそうさま!」と数えて去っていったのです。

男は、そば屋が「9」と答えた時間の返事をそのまま代金の勘定にすり替えて、1文を誤魔化したということ。やたらとそば屋を褒めていたのも、はじめから会計をごまかすために必要以上に褒めたたえていたのでしょうね。

一部始終を見ていた与太郎

このやりとりを陰から見ていた与太郎という、ぼうっとした男がいました。与太郎は男の鮮やかな手口に感心し、自分も口調から会計まで同じことをそば屋にやろうと決意したのです。

早く昨日の真似をしたい与太郎は、待ちきれず通りに出て、そば屋をわざわざ探しに行きました。見つけたそば屋の屋台に声をかけ、そばを注文した与太郎。しかし、それは昨日とは異なる「ややや」という名前のそば屋だったのです。

やややは、褒めるところがないひどいそば屋でした。出てくるタイミングも悪く、欠けた器に使いまわしのお箸、伸びたそば、まがい物のちくわ麩やにがい出汁など、褒めるところがないものを無理やり褒めながら、何とか食事を終えることができたのです。

いざ、お会計

気を取り直した与太郎は、ワクワクしながら例の勘定に取り掛かかりました。

12345678、今何時(なんどき)だい?」と尋ねると、「へい、4つです」と答えたそば屋。与太郎は、「5678…」となんとまた5文から数え出したのです。与太郎は不味いそばを食べた上に、4文も損をしてしまった、という間抜けな結末のお話です。

『時そば』の登場人物

『時そば』に出てくる登場人物を紹介します。

あたりやの職人

美味しくて、謙虚なそば屋さん。

やややの職人

そばは不味いが、店に自信があるそば屋さん。

口が達者で、そば屋の会計をごまかした。

与太郎

会計をごまかした男を見て、自分も同じように挑むが失敗に終わる。

『時そば』をよむならこちら

『時そば』の本は、イラストのテイストや登場人物の語り口調など、本によって内容も雰囲気も様々です。ここでは、子どもでも読みやすい『時そば』の本を紹介します。

落語絵本 十二 ときそば クレヨンハウス

子どもにも分かりやすい口調で語られているので、子どもの朝の読書タイムはもちろん、親子での読み聞かせタイムもはかどります。描かれている登場人物達が表情豊かなので、目でも楽しめる一冊です。

時そば (ちびまる子ちゃんの落語) 単行本 学研プラス

お馴染みのちびまる子ちゃんのキャラクターたちが、分かりやすく落語を紹介してくれる一冊。『時そば』以外にも『かえんだいこ』『道具屋』など、商売に関するお話が集められた古典落語集です。小学生にも分かりやすい大きな文字と、親しみやすい挿絵で落語入門にピッタリ。

親子で落語を楽しもう

日本の昔からの娯楽である「落語」。落語には、今も昔も変わらない「人間らしさ」が満ち溢れています。落語を知ることは、江戸時代の文化や当時の価値観、人々の暮らしぶりを知ることに繋がります。当時の人間の面白さやたくましさを垣間見ることで、今の生活や人とのやり取りの中で活かせることが見つかるかもしれませんね。

普段はなかなか落語に触れる機会がない方も、『時そば』をきっかけに親子で落語の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?

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構成・文/吉川沙織(京都メディアライン)

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