『ちりとてちん』という言葉を聞いたことがありますか? 2007年に放送された貫地谷しほりさん主演の朝ドラのタイトルでもあり、聞いたことがある人も多いかもしれません。
実は『ちりとてちん』とは、有名な落語の演目の一つ。落語と聞くと難しいイメージがあるかもしれませんが、実はおもしろくて楽しいお話がいっぱい。落語に馴染みがない方も、この機会に触れてみてください!
『ちりとてちん』ってどんなお話?
『ちりとてちん』とは、落語の演目の一つ。見栄っ張りで、いつも人の食べ物にケチをつけていた竹さん。主人公は、そんな竹さんに仕返しをしようと、腐った豆腐を「珍味」と偽り差し出します。異臭を放つ豆腐を前に、竹さんが取った行動とは…? 続きは「あらすじ」で紹介します。
「ちりとてちん」の意味は?
可愛らしい響きの「ちりとてちん」という言葉。言葉自体に意味はありませんが、三味線の音色がモチーフになっているといわれています。話によっては、物語の中で主人公が、三味線の音色を聞いて、腐った豆腐に「ちりとてちん」と名付ける場面も。
東京では『酢豆腐』?
同じ内容ですが、大阪では『ちりとてちん』、東京では『酢豆腐』と、演目名が違います。落語の「落」は、話の最後のオチ(落ち)から。『ちりとてちん』の場合は「ちょうど豆腐の腐ったような味です」、『酢豆腐』の場合は「酢豆腐は一口に限ります」というセリフがオチになっています。
朝ドラ『ちりとてちん』
NHKの連続テレビ小説で、2007年に放送された『ちりとてちん』。貫地谷しほり演じる主人公の和田喜代美が、落語家を目指す物語です。夫の徒然亭草々は、青木崇高が演じました。
喜代美は、朝ドラ主人公にはめずらしく、心配性でネガティブな性格。悩みながらも自らの力で人生を切り開いていく、笑いあり、涙ありの人情ドラマです。
物語のあらすじ
朝ドラでも有名ですが、今回は落語の演目『ちりとてちん』の内容に注目。腐った豆腐を差し出された竹さんは、結局どうなったのでしょうか? 気になる続きも見ていきましょう。
あらすじ
その日は、屋敷の旦那の誕生日。料理や酒を振舞っていると、お世辞が上手な男がやって来ました。男は「こんなに美味しいものは初めて食べる」「美味しくて寿命が延びるようだ」など、さまざまな言葉で料理や酒を褒め称えました。旦那も悪い気はしません。
その男と話しているうちに、話題は近所に住む見栄っ張りな男、竹さんの話に。竹さんは自分が食通であることを自慢するだけでなく、毎回人の食べ物にケチをつける嫌な性格でした。旦那が竹さんの愚痴をこぼしている時、ちょうど台所の隅で腐った豆腐が見つかります。
旦那はその豆腐を見て、竹さんを懲らしめる計画を思いつきました。青カビの生えた臭い豆腐に、唐辛子を入れてぐちゃぐちゃにかき混ぜたものを、珍味と偽り知ったかぶりの竹さんに出してみることにしたのです。
屋敷に呼ばれた何も知らない竹さんは、振る舞われた料理や酒に対して、いつものようにケチをつけています。そこに旦那が現れ「珍味をもらった」と言って、先ほどの腐った豆腐を差し出しました。
ひどい見た目と異臭にびっくりする竹さんですが、「これは、台湾のちりとてちんという食べ物だ」とさっそく知ったかぶり。そこで旦那が「食べ方がわからないので教えて欲しい」と言うと、何やら言い訳をして食べることを避けています。しかし、知ったかぶりをやめないので、最後はとうとう後に引けなくなり、一口食べることに。
刺激臭で目に涙を浮かべながら、一口パクリ。何度も吐きそうになりながら、なんとか飲み込みます。その様子を、笑い出しそうになるのをぐっと堪えながら見ていた旦那が、「どんな味がするのですか?」と聞くと、竹さんは苦しそうに一言。「ちょうど腐った豆腐のような味です」と。
あらすじを簡単にまとめると…
知ったかぶりで、人の食べ物にいつもケチをつけている竹さんを懲らしめようと、旦那は腐った豆腐を「珍味」と偽って差し出します。見栄っ張りの竹さんは、初めて見るそれを「ちりとてちん」という食べ物だと知ったかぶり。そのせいで、最後に一口食べてみせるはめになります。
あまりの不味さに悶えながら食べきった後、旦那がどんな味がしたか聞くと、「ちょうど腐った豆腐のような味」と答えるのでした。
主な登場人物
内容の細部は落語家によって異なりますが、大筋はだいたい同じ。登場人物も、名前が違うことがありますが、物語の中の役割はほぼ同じです。
旦那
誕生日に料理やお酒を振る舞えるほど、大きな屋敷に住んでいます。腐った豆腐を見て、竹さんを懲らしめる方法を思いつきます。
竹さん
旦那の屋敷の近所に住む男。自分は食通だと自慢し、人からご馳走されてもケチをつけたり小馬鹿にするので、嫌われています。
お世辞がうまい男
旦那の誕生日にやって来て、出された料理やお酒を片っ端から褒めます。
落語を読むなら
堅苦しいイメージがある落語ですが、子ども向けの簡単な文章で読める本や、5分で読み聞かせができる本、CD付きの本まで、様々な種類が出版されています。『ちりとてちん』のように、子どもにもウケる話がたくさんありますよ。ぜひ落語を身近に感じてみてください。
『えほん寄席』シリーズ(小学館)
NHKで放送されたアニメ『えほん寄席』を単行本化したもの。放送音源を元にした CDも付いているので、読む、見る、聴く、と3回楽しめる落語絵本です。今回紹介した『ちりとてちん』は収録されていませんが、1巻に5話収録、全8巻出版されています。
『10分で読める 大わらい落語』(学研プラス)
ちりとてちん、たぬき、道具屋、ねこの皿、そこつのくぎ、つる、子ほめ、ぶしょう床、長屋の花見、元犬など10話を収録。シンプルなストーリーで挿絵も多く、読みやすい内容になっています。
『5分で落語のよみきかせ』(PHP研究所)
落語を5分で読み聞かせできるように、アレンジされた小噺集です。今回紹介した『ちりとてちん』は収録されていませんが、じゅげむ、まんじゅうこわい、さらやしきなど、ボリューム満点の全23話。
落語『ちりとてちん』の見所は?
落語の魅力は、物語の内容だけでなく、それを話す落語家の表情や仕草にあります。『ちりとてちん』で、竹さんが豆腐を食べるシーンは、まさに最大の見所! 落語家それぞれに演じ方の違いがありますが、葛藤しながら不味い豆腐を食べる様子は、一様に笑いを誘います。
顔の向き、体の動き、扇子や手ぬぐいなどの小道具を器用に使って、一人で何人もの人物を演じ分ける落語家たちの豊かな表現力に、ぜひ一度は触れてみてください。
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構成・文/伊藤舞(京都メディアライン)