「寿限無」とは
寿限無(じゅげむ)の存在を知っていても、詳しい内容を知らない人は多いかもしれません。寿限無とは何か、基礎知識をおさらいしましょう。
古典落語の1つ
寿限無は「古典落語」と呼ばれる落語の一つです。古典落語は一般的に古くから伝わり、長い間語り継がれているものを指します。現在寄席(よせ)で楽しめる落語は、ほとんどが古典落語です。
一方、昭和時代中頃以降に作られた新しい落語は「新作落語」と呼ばれます。なお、落語は口伝(くでん)されるものなので正式な台本はなく、古典落語にいたっては原作者も分かっていません。
時代や流行に応じて噺家(はなしか)が内容をアレンジすることもあるため、古典とはいえ何度聞いても飽きないのが特徴です。
「寿限無」のあらすじ
寿限無は子どもの幸せを願う親が、親バカぶりを発揮するストーリーです。
待望の男の子を授かった男は、よい名前を付けたくて寺の和尚に相談します。和尚はさまざまな縁起のよい言葉を候補として挙げますが、男は一つに決められません。
面倒になった男は、和尚が口にしたすべての言葉を子どもの名前にすると決めます。和尚は驚きながらも男の決断を受け入れ、長い名前を紙に書いて渡しました。
成長した息子は大変やんちゃで、いつも近所の子どもを泣かせていました。ある日、息子に叩かれて頭にこぶができた友だちが、息子の母親に言い付けにきます。しかし、友だちが事情を説明しようとして息子の名前を言い終わる頃には、こぶはすっかり引っ込んでいました。
寿限無の全文と意味をチェック
両親や友だちが息子の名前を呼ぶシーンは、寿限無でもっとも盛り上がるポイントです。早口言葉や呪文のように聞こえる名前の全文と、単語の意味を解説します。
寿限無の全文
寿限無で始まる長い名前の全容は、以下の通りです。
「寿限無 寿限無 五劫(ごこう)のすりきれ 海砂利水魚(かいじゃりすいぎょ)の水行末(すいぎょうまつ) 雲来末(うんらいまつ) 風来末(ふうらいまつ) 食う寝るところに住むところ やぶらこうじのぶらこうじ パイポパイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの 長久命(ちょうきゅうめい)の長助(ちょうすけ)」
ただし、落語は師匠から弟子へ口頭で伝えられるため、細かい部分が異なるバージョンもたくさんあります。例えば、「ぶらこうじ」が「むらこうじ」や「やぶこうじ」となったり、ポンポコピーとポンポコナーが入れ替わったりといった具合です。
寿限無の意味「前半」
続いて、寿限無から始まるそれぞれの名前の意味を見ていきましょう。最初の「寿限無」は、寿命に限りがないという意味、またはめでたいことが続くという意味を表します。
「五劫」の「劫」は、3,000年に1度下界におりる天人の衣が岩をなで、岩がすり減るまでの時間を指します。それを5回繰り返すのですから、ほぼ永遠を表すと考えてよいでしょう。
「海砂利水魚」は、無限を海底の砂利や魚にたとえた言葉です。「水行末・雲来末・風来末」も、水や雲、風の行く末にたとえて、おめでたいことが果てしなく続く様子を表現しています。
寿限無の意味「後半」
「食う寝るところに住むところ」は、人が生きるために衣食住が欠かせないことを表します。「やぶらこうじ」は、藪の中に生息する木のことです。冬でも枯れずに、年中緑の葉や小さな赤い実を付ける様子が、縁起物とされています。
「パイポ」は昔の中国にあったとされる、架空の国の名前です。パイポ国の王の名前が「シューリンガン」、王妃の名前が「グーリンダイ」で、2人の間に生まれた姉妹「ポンポコピー」「ポンポコナー」はとても長生きだったとされています。
「長久命」は「老子」の一文「天長地久」が由来で、長く生きるという意味です。最後の「長助」は読んで字のごとく、長く助けるの意味が込められています。
子どもも楽しめる寿限無以外の古典落語
寿限無以外にも、子どもが楽しめる古典落語は存在します。代表的な落語と、子どもにおすすめな理由を見ていきましょう。
狸札
「狸札(たぬさつ)」は、人間に命を助けられた子ダヌキが恩返しする話です。
ある日、男が子どもたちにいじめられている子ダヌキを助けます。その日の夜、男の家に子ダヌキが現れて、「助けてくれたお礼に何にでも化けましょう」と申し出ます。
翌日に縮み屋(縮織りの行商人)が代金の四円五十銭を取りに来ることになっていたため、男は「五円札に化けてほしい」と頼みました。
代金を回収に来た縮み屋は、子ダヌキが化けた札を何の疑いもなく折り畳み、がまぐちに入れて立ち去ります。狭いところに入れられて苦しくなった子ダヌキは、がまぐちの底を食い破り、中にあった五円札2枚をくわえて男の元に帰りました。
子ダヌキが五円札に化けるまでに何度も失敗する様子や、男のためにがまぐちのお金を持ち帰る姿がかわいらしく、子ども心をくすぐります。
皿屋敷
「皿屋敷(さらやしき)」は、有名な怪談「番町皿屋敷」を元にした落語です。10枚組の皿のうち1枚をうっかり割ってしまったお菊という女性が、主人の怒りに触れて井戸に身を投げ、夜な夜な化けて出る話です。幽霊となったお菊は毎晩井戸に現れ、9枚しかないお皿の数を数えます。
落語では、お菊の井戸が近隣の評判となり、毎夜見物客で賑わうところから始まります。美しいお菊を目当てにする常連が増え、幽霊もまんざらではない様子です。
ついには井戸に小屋をかけ、客から代金を取って見物させる興行主まで現れました。ある晩、お菊はいつも9枚で終わるところを18枚まで数えます。なぜ18枚も数えたのか、オチは聞いてのお楽しみです。
怪談がベースにもかかわらず、怖い要素はまるでなくユーモアにあふれた演目となっており、子どもでも楽しく聞けます。
古典芸能の面白さを知ろう
寿限無は古典落語の代表的な演目として、長く人々に愛されてきました。寿限無を聞けば、親が子に抱く愛情がいつの時代も変わらないことに気付かされます。
この機会に、笑いだけではない、人情や教訓が込められた古典落語の面白さを親子で堪能してみるとよいでしょう。
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構成・文/HugKum編集部