目次
広告クリエイターの子育て、秘訣は「合気道的受け流し」
佐藤ねじさん・プランナー/クリエイティブディレクター
1982年生まれ。2016年ブルーパドルを設立。WEB・アプリ・商品やお店などの企画とデザインを行う。主な仕事に「ボードゲームホテル」「アルトタスカル」「隠れ節目祝い」「佐久市リモート市役所」「小1起業家」「劣化するWEB」など。
佐藤家のクリエイティブな子育てがたくさんつまった一冊
小学1年生がお小遣いを貯めるため家で起業する「小1起業家」や世界中でバズった「等身大パネルマザー」など、さまざまな育児コンテンツで話題の広告クリエイター・佐藤ねじさん。彼が、おもちゃ作家である佐藤蕗さんと実践してきた数々の取り組みをまとめたのが「子育てブレスト: その手があったか!67のなるほど育児アイデア集」です。困りごとを発想を変えて解決するテクニックや子育ての渦中に読むとホッとするような、軽快な育児ハックが詰まっています。
佐藤ねじ(以下、ねじ):この本は育児本として読んでほしいわけじゃなくて、「うちはこうでしたよ」というのをシェアするスタンスでつくりました。言ってみれば「まじめすぎない育児書」。育児書がストレート球だとすると、こんな変化球もありますよ、みたいな感じの本です。
たとえばネガティブなできごとがあったとき、普通はネガティブに対処しますよね。「やめさせる」とか「怒る」とか、そのエネルギーに対して向かい合って、それにぶつけて消そうとする、みたいな感じ。そういったとき、僕は正面から向き合うのではなくて、合気道の「受け流し」みたいな感じで、攻撃の軸を外すようなところがあります。
たとえば子どもが泣き止まなくて、赤ちゃんの声が音としてきつく感じちゃうとか、子育てをしているとどうしてもあるじゃないですか。その音自体を消すという解決はできないけど、「凄いデシベルの音が取れた」みたいに、違う発想で意味をもたせることはできます。生まれたネガをネガのままにせずに、意味のあるものにしたり、「面白いからいいや」に転換させることはできますよね。
アイデア 泣き声デジベル むしろ泣いてもらって楽しむ
大きな声で泣く赤ちゃんの鳴き声の音量をスマホのアプリで計測、数値化することで冷静な気持ちに近づくことができる。
「イヤイヤカレンダー」でイヤイヤ期を楽しく乗り切る
「元々積んでいる思考のOSがポジティブシンキング」で、何かあった時にポジティブな選択肢も作るという夫・ねじさん。一方おもちゃ作家である妻・蕗さんは、「もともと沼に落ちやすいタイプ」であると言います。
佐藤蕗(ふき)さん/おもちゃ作家
2児の母。建築設計事務所勤務を経て、第1子出産を機にフリーランスに。育児をしながら作っていたおもちゃが反響を呼び、造形作家として、雑誌・web・テレビでお仕事中。全国各地でワークショップも開催中!著書に「ふきさんのアイデアおもちゃ大百科シリーズ / 偕成社」「親子で笑顔になれる “魔法の手作りおもちゃ”レシピ / 宝島社」がある。
佐藤蕗(以下、蕗):子どもが全然寝てくれなかったり、ずっと泣いてたりする時に、自分がこう、沼のふちにいて、のぞきこんで沼に落ちてっちゃう、みたいな気持ちになる時、あるじゃないですか。そんなとき、そこに自分が落ちないようにするための手段っていうのがあると思うんです。
料理に凝るとか、方向性は人それぞれあると思うんですけど、その人にとっての救いになるものがあって、私の場合はそれがおもちゃ作りとか制作でした。もともとは沼に落ちやすいタイプではあるかもしれませんが、そういう発想の転換で子どもと遊んで、子どもが笑顔になって。それでこっちも楽になる、みたいなところでやってきている気がします。
そんな蕗さんが思い出深いアイデアとして紹介してくれたのは、「イヤイヤカレンダー」です。
イヤイヤカレンダー
理不尽の塊であるイヤイヤ期の子どもの言葉の中から、その日一番だったものを記録していく「イヤイヤカレンダー」。「昨日に比べたら今日はまし」と思えたり、心の余裕が出てくると、スマッシュヒットな一言を楽しみにできるようになったそう。
蕗:「イヤイヤカレンダー」は、当時言われた言葉を記録しておいて、後から見るとこう、ほっこりした気分になるというか。初めてTwitterで公開したときに、いろんな方が「うちのイヤイヤ期はこうだった」「うちもこんなにひどかった」と、いっぱいコメントをくれたのが記憶に残っていて。そんな皆さんの反応を含めてすごく楽しかったので、よく覚えています。
「イヤイヤカレンダー」のページは、お子さんがイヤイヤと動き回ることで、文字にお子さんがかかっているところもくすっと笑えるポイントです。
蕗:いやあ、すごく嫌がる人だったので(笑)。
ねじ:こういうデザインも、育児書という体裁をとってるけど「こうあるべき」じゃないところのもの、という気持ちがあって。本当は1ページまるまるビリビリに破られてるページがあってもいいと思ったんですけど、空気を読んで(苦笑)この程度にしています。
子どもが飽きたおもちゃも、発想の転換で生まれ変わる
ねじさんに本の中でいち押しのアイデアをお聞きしたところ、「どれがベストかは聞かれるたびに変えてるんですけど、もっと知ってほしいものとして」と前置きして、「おうちホビーオフ」を挙げてくれました。
おうちホビーオフ
ねじ:中古のおもちゃを扱う「ホビーオフ」のようなディスプレイを家でやる、というアイデアです。子どものおもちゃの中にも、一軍二軍三軍みたいな感じ、あるじゃないですか。そこで二軍、三軍に落ちてしまったおもちゃをもう一度袋に入れて、ディスプレイすると、なぜか魅力的に見えるんです。
袋にただ入れるだけなんですけど、新鮮に見えるプレゼンの仕方がポイントなんだと思います。仕事の、例えば本の宣伝にしても、SNSでバズる投稿とかって、同じものをただ上げるんじゃなく、一部をうまく抜き出していたりするじゃないですか。それと同じで、トリミングをうまくやることで生きることっていっぱいあると思います。あるものを再編集する発想が端的に現れているという意味でも、すごくいいんじゃないかなと思うんですよね。
親が無理をしない。「サステナブル」な子育てがちょうどいい
悩んだり、うまくいかなかったり。子育ては常にその連続ですが、その最中でねじさんと蕗さんのアイデアを目にすると、ふっと気持ちが楽になります。目の前の課題が解決するだけではなく、子どもとの向き合い方、目の前の困り方の捉え方自体が、少し変わる感覚。それは佐藤家の子育ての根底にある、ただ楽しくポジティブなだけではない、「サステナブル」な考え方によるものかもしれません。
蕗:たとえば子どもと公園で遊んでいて、親のほうが疲れ「子どもは疲れてるけど親は休みたい」というあるあるなシーンで使える、「マッサージマリオ」。親がBGMを口ずさむことで子どもは喜んで背中でジャンプ!マッサージも味わえる、一石二鳥のアイデア。
ねじ:つらいボールを自分のところにずっと持たないようにする、みたいなのは、仕事による思考のクセだと思います。ボトルネックのボールをうまく流していこうよ、みたいな感じはあります。そのぶん子どもにしわ寄せがいっているときも全然あって、「父ちゃんまたわけわかんないこと知ってるよ」「普通に遊んでよ」みたいな気持ちも全然あると思うので、そのへんは子どもの許容量とのバランスなんですけど。
子育てにおいて、「サステナブルであること」を最低限のゴールとしている感じでしょうか。深い沼に入らないようにするとか、バランスをとるためにポジティブなものも使う、みたいな。「頑張らなきゃ」「ポジティブでいなきゃ」って考えると逆にこじれちゃうかもしれないですけど、続けられればいいですよね。
サステナブルな子育てって、ボードゲームでの点数計算の考え方に近いと思います。マイナスの点もとったりするけど、合計得点として勝ち点が高ければいい、みたいな。そんな感じでやっているかな。
次回は、たくさんの育児アイデアを生み出す佐藤家に、HugKum読者のお悩みをぶつけてみました!果たしてどんなアイデアが生まれるのでしょうか。
クリエイティブの手法を育児に活かした新しい解決策が勢揃いです。
アイデアを真似するうちに、「早くして」「勉強しなさい」と言わない発想転換も身につきます!親と子どちらも楽しめる “意外な解決策“をぜひお試しください!
思春期の悩みの解決策が読める続きはこちら
https://hugkum.sho.jp/523475
取材・文/五十嵐ミワ