【モデル・徳澤直子さん】ママになってから大学院まで通い、看護師、助産師の資格を取得。2人の子どものダブル受験では、「偏差値は人の能力を測る尺度のほんの1つ」と欠かさず伝えた

ファッション誌『SEVENTEEN』、『CanCam』で人気を博し、現在もモデルとして活躍する徳澤直子さん。女の子と男の子、2人の子どもの母でありながら、看護師&助産師としての一面も持っています。子どもを授かったあとに取得したこれらの国家資格。どのように夢を叶えて、子育てにどんな影響を与えたのか、さらに長女の中学受験、長男の小学校受験をダブルで迎え、奮闘したお話までじっくりと伺いました。

アメリカでの出産経験がきっかけに。モデル時代からもっていた「学び」への意欲を絶やさなかった

徳澤直子さんが、看護師、助産師の資格を取得したのは、上のお子さんを出産してから。子育てだけでも大変な時期に、高い目標を持ち、行動し続けることは容易なことではないように思えます。

――長女を出産後に、看護師の資格だけでなく、助産師の資格も取得されたのがとても印象的です。それにはどんなきっかけがありましたか?

徳澤さん 直接的な理由で言えば、上の子の出産です。アメリカで産んだのですが、知らない土地でサポートしてくれる人がいないなか、周りの方に助けられた経験から、産み育てに関われるようなことをやりたいと思いました。

ドゥーラさん(妊娠・出産・産後のサポートをしてくれる専門家)の存在も大きかったです。家に来てくれて、知識を提供するだけじゃなく、寄り添って共感してくれる存在でした。妊婦検診は日本のシステムとは違ったので、産院へ帯同もしてもらいました。

モデル時代から勉強への意欲があった

あとは、CanCamモデルをやっているときから、1回ちゃんと勉強をして、大学に行ったり、大学院まで行ったりするのもいいなっていうイメージがあったんです。それでメイクルームで英語などの基本的な勉強はしていました。そういう、勉強をしたいなという想いを持ったまま、結婚してアメリカに渡ったという経緯がありました。

その後、アメリカから帰国して、「さぁを何やろう」となったときに、勉強しながら資格が取れたらいいなと。大学に行って助産師っていうルートがあるなら、それを目指そうと決めました。

表紙を飾った『CanCam』2009年9月号(小学館)

――では、助産師という仕事は、小さい頃からの夢というわけではなかったんですね?

徳澤さん そうですね。ただ、私の姉が障害を持っていることもあってケア業には興味がありました。

妊娠中の女性を支援することは、その方が心穏やかに育児を継続できることに少なからず因果関係はあると思うんです。そうした循環性、正の連鎖を作れる仕事だなというのは、自分の経験から感じたところではありました。

子育てと学業の両立! 周りのサポートを得るためにコミュニケーションに留意

2011年にアメリカで出産し、帰国後に勉強を始めた徳澤さん。2013年、長女が2歳のタイミングで受験勉強の末、聖路加看護大学(現:聖路加国際大学)看護学部に入学し、2017年4月同大学大学院へ進学。子育てをしながら看護師と助産師の国家試験にも挑む生活を送ります。

――学業と子育てを両立するためにはどんな工夫をしていましたか?

徳澤さん 勉強は子どもが起きる前の3時くらいから3時間ほどやっていた記憶があります。大変は大変ですけど、それをあまり苦だとは思わなかったですね。CanCamの撮影も集合が3時くらいだったので、早起きに慣れていたのもあるのかも(笑)。夜は21時には寝落ちするような生活を、学部と大学院とでしていたと思います。

徳澤さん 家族や夫の理解もすごくありました。だからそのサポートを得るためのケアには気を付けていました。「なんで今、自分はこれをやりたいのか」、「この先に何があるか」とか、「今は大丈夫だけど、この時期はちょっとピークだからよろしくね」など、協力を得るためのコミュニケーションは、親に対しても子どもに対しても、夫に対しても、ちゃんとしなきゃなと。

応援するほうにも気持ちよく応援してほしいというのがあったので、自分ばかりテイカーになってないか、ちゃんとギブできているかということには、留意していたと思います。

――相手に言葉を伝える際に気をつけていたことはありますか?

徳澤さん コミュニケーションで気をつけているのは、“アイ(I)メッセージ”。自分を主語にして伝える、あまり押しつけにならないように、アサーティブ(相手の気持ちを配慮した上での自己表現・自己主張)にウィンウィンになれる会話を……できてないこともあるけど、気を付けていましたね。そうしたコミュニケーションの仕方は、看護で学んだことです。

論文をイチからやり直したことも

大学院の修了式、大学のホールにて。(※徳澤さんご提供)。

――くじけそうになることもなく、乗り越えられましたか?

徳澤さん 大変と感じたのは大学院の論文ですね。血尿を出しながらやっていた気がします…。大みそかに、“あとは全体を整えるだけ”という段階の論文がベースから練り直しになり、三が日にずっとやっていたり。くじけそうと言えば、それがいちばんかな。

学生は私のように社会人経験した方も多く、歳が近いこともあり、一緒に飲みに行ったり、楽しい思い出もたくさんあります。葉山にある学校の宿泊施設に子どもを連れて遊びに行ったことも思い出ですね。

助産師を経験し、育児はエビデンス重視ではなく自分の肌の感覚を大事に

大学院在学中には第二子を出産。1年間の休学をはさんで卒業し、 その後は看護師・助産師として総合病院での勤務を開始します。

――看護師、助産師を経験したことで、ご自身の子育てやお子さんへの向き合い方に何か変化や影響はありましたか?

徳澤さん 助産師として働いた立場から、自分が大切なことを見失わないためには、科学的な知識ばかりを育児に求めすぎてはいけないなと、最近とても感じています。

お母さんたちも不安だから、「どうやったら元気な子を産めますか?」「どうやったら産後うつにならないで済みますか?」と質問されるんですけど、論文のデータを調べて「エビデンスがあるのはこれです」と伝えることは比較的簡単。でも育児とか産み育ての場は、本来は文学的な背景もすごくある分野。エビデンスを振りかざしてしまうことで、お母さんたちの“気づく感覚”がなくなってきてるんじゃないかなって。

自分も子育てするときに、肩の力を抜いて、自分の肌の感覚とか匂いとか、そういったところで育児をしていきたいな、医療の現場にいたから逆にそこを大事にしなきゃいけないなと思います。

徳澤さん 中2と小2の子どもたちには、自分たちで好きなことを見つけて、探究して育ってほしいなと思います。だから先に正解を教えたり、あまり「ああしろ、こうしろ」と講釈を垂れたり、そういうことはしない方がいいなという感覚で関わっていますね。

娘の中学受験。娘には「偏差値は人の能力を測る尺度のうちのほんの1つ」と伝えた

2022年秋には、子どもの受験サポートのため総合病院を退職します。このときは娘さんの中学受験だけでなく、息子さんの小学校受験も同時でした。

――ダブル受験で工夫したことや気を付けていたことはありますか?

徳澤さん 両方を経験してまず感じたのは、まったくの別世界だということ。

中学受験はかなり「中学受験ビジネス」だと感じ、親としてはのめりこんではいけないな、飲み込まれてはいけないなと、同時に娘も飲み込まれないように、守ってあげなければいけないという風に感じていました。

塾の先生の言葉が厳しいこともあり、娘には「偏差値って、人の能力を測る尺度のうちのほんの1つだから、そこで自分のいい悪いを感じるのは無駄だから」と伝えて。そこは欠かしてはいけないと思っていました。そんな風に中学受験に疑問符がついたときに、息子の小学校受験を視野に入れようと夫婦で話をして。

――中学受験をしないために小学校受験を?

徳澤さん きっかけとしてはそうです。小学校受験に関しては、面接や願書で家庭の教育方針をすごく聞かれるので、初めて夫婦で自分たちの教育観を膝を付き合わせて話し合いました。そこで、そんなこと考えてたのとか、これは一緒だねとか、夫婦間のコミュニケーションを密にとることで、新しい発見がありました。これまではっきり言葉にはしたことがなかったので、いい経験でしたね。

――お姉ちゃんにはどんなサポートをしていましたか?

徳澤さん 塾のプリントの量がすごくて、高学年にはまだ管理が難しいと思ったのでその管理、あとは時間の管理ですね。付きっ切りで勉強を教えるということはしませんでした。

あとは「寝る時間を削って、健康を崩してまでやる必要がない」というのは夫婦で共有していたので、食事と睡眠のケアはしていました。夜に、「あたたかいものが飲みたい」というので、お出汁を作ってあげて。

――お出汁ですか?

徳澤さん カツオと昆布でとった出汁に、みりんと醤油で味付けし、塩を入れたり。飲むとほっとするみたいでした。今でも出汁は冷蔵庫に常備しています。

子育てでは声のかけ方やラベルの貼り方、選ぶ絵本に気を付けたい

――Instagramでお子さんに絵本の読み聞かせをしているのを拝見しました。今も続けていますか?

徳澤さん 下の子ももう自分で読めるので、最近はやったりやらなかったりです。でも、時々読んでって言ってくれるのでまだ可愛さがありますね。

子どもたちと。大学院の同窓で、アフリカで活動しているお友達と。

――子育てで続けてること、大切にしてることがあったらぜひ教えてください。

徳澤さん 絵本の話もそうですが、子どもが世の中をどういう目で見るかって、親や周りの人の関わり方が心にひとしずくずつ水滴を落とすように、染み込んでいくようなものだと思うんです。だからこそ声のかけ方やラベルの貼り方、選ぶ絵本に気を付けたいと思っています。

過度に気にする必要はないですが、そういったところに気をつけていると納得のいく子育てになるんじゃないかなと。

ー―ラベルの貼り方ってどんなことですか?

徳澤さん 例えば、物事をひとつの方向から見るのも1つですが、そうじゃない見方もあるよねっていうのは、きっと自分じゃない他者からじゃないと吸収できないところ。だからいちばん近くの大人があんまり偏見でものを見ないとか、そういったところは気を付けたいです。

偏差値の話もそうですが、一面だけじゃなく、いろんなことをいろんな方向から伝えてあげる。そうすると人に優しくすることにもつながる気がします。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

徳澤さん 先々は医療の現場に戻るんだろうなと思っています。時期は5年後か10年後か、勤務先は病院なのかクリニックなのか未定ですが、母子保健に関わりたいというイメージはあります。

今はペースダウンの時期で、子どもと関わったり、ボランティアや、オファーを頂けたらモデルの仕事をやったりしています。忙しすぎてできなかった本を読んだり、美術館や旅行に行ったり。ダブル受験を終えたタイミングなので、自分を取り戻す、インプットをする時期かなという風に思っています。

常に学びを続け、子どもには丁寧に寄り添う姿に背中を押された

今後の展望についてお話しするなかで、「医療の仕事とモデルの仕事を同時にこなすのは難しいと思います。それくらい違うものだから」とのお話が印象的でした。それだけ異なる世界の仕事に、ママになってからチャレンジした徳澤さん。常に学びを止めずどんどん進化する姿、一方で子どもたちが大事な時期には潔く退職して丁寧に寄り添う姿を拝見し、ママになってもまだまだやれることがあるのではないかと、背中を押されるようなインタビューでした。

ブラウス¥20900(シンゾーン ルミネ新宿店<ジャミニパリ>) 、パンツ¥49500(インターリブ<アラタ>)、ネックレス¥17600・リング¥19800/へレディタス、ピアス¥7700/オクト

インターリブ/03-6416-1861
オクト/info@0910.tokyo
シンゾーン ルミネ新宿店/03-5909-4088
へレディタス/info@0910.tokyo

お話を伺ったのは

徳澤直子 モデル

ファッション誌『CanCam』専属モデルを卒業後、第1子をアメリカ合衆国ミネソタ州にて出産。 帰国後、育児と並行して大学受験に挑戦。聖路加国際大学を卒業し看護師資格取得、その後同大学院にて修士号及び助産師資格を取得。 大学院在学中に第2子を出産。総合病院にて約3年看護師・助産師として勤務し臨床を経験。今後はモデル、大学院及び臨床、そして育児で得た経験を活かし、マルチな活動を予定している。

文・構成/長南真理恵 撮影/田中麻以 ヘア&メイク/野口由佳(ROI) スタイリング/徳永千夏

編集部おすすめ

関連記事