移住者と地元民がタッグを組んで推進中!南足柄市の小学校5校の昇降口を木材にする「みんなの森の会議」プロジェクトが立ち上がった背景は?

今から2年前、横浜から南足柄市へ家族5人で南足柄市へ越してきて、移住後に市が推進する木質化の設計プロジェクトに関わりるようになり、中心となって活動されている建築家・島崎衛さんにインタビュー。
現在は地元の方、小学生たちの意見を反映しながら地元5校の小学校の昇降口を木材に作り変えていくプロジェクトを担っており、外部から来た移住者が地元に貢献している一例としても注目されています。

プロジェクト参加のきっかけは、地元の「林業の担い手研修」への参加でした

20224月に横浜から南足柄市へ移住をしました。移住の詳細は、こちらの記事でお話していますが、それまで携わってきた建築家としての仕事を変わらずに続けたいと思い、首都圏から近いエリアを複数見学した上で、南足柄市へ移住しました。東京と南足柄を行き来しつつ、移住前と同じ仕事をしているので、私はこのライフスタイルを‶プチ移住〟と称しています。

南足柄市に‶プチ移住〟した前編記事はこちら>>

 

南相柄の木質化プロジェクトを手掛ける建築家・島崎衛さん

暮らし始めた神奈川県南足柄市では、2023年春頃から地元産の木材を使って市内の建物を木質化するリニューアルプロジェクトがスタートしました。
そのプロジェクトの一つである地元5校の小学校の昇降口を、地元民や小学生たちの意見を反映しながら木質化するというものを請け負うことになったのですが、それを「みんなの森の会議」と名付け、ワークショップを開き、そこに通う小学生にも意見を聞きながら2024年9月に第一期の完成を目指して現在進行中です。

そのプロジェクトに参加するようになったのは、移住したわが家のご近所に住んでいたご家族と知り合ったのがきっかけです。わが家の長男とそのご家族の息子さんが同世代で仲良くさせていただいているうちに親交が深まったのですが、その家のご主人が、南足柄市が資本投入をしている木材商社の社長さんで、南足柄産の材木を活用した6次産業化を目指していることを知りました。偶然にも彼も私と同様に横浜から越してきた移住者で、それまでしてきたコンサルタントのキャリアを活かして仕事をしていたのです。

彼の仕事内容を聞いてから、元々、建築家として地産地消に興味があって、彼の会社が林業の担い手を育成する研修を主催すると聞いて、いの一番に参加しました。その研修では林業について学ぶ座学とともに、実際に森林の中に入って刈払機やチェンソーを使って、下草払いや伐採の触りを教えていただくものでした。

そんな経験は初めてでなかなか面白かったですが、研修に参加していた人との出会いが、より刺激的でとても楽しかったんですよね。

南足柄森林組合の伐採を見学

じつを言うと、研修では林業が商売として成り立たせることが難しいことを思い知らされたのですが、研修に参加していた人たちは、広告代理店や玩具メーカーに勤めている方、サッカーYouTube配信、ITデザイナーなど、市内外から訪れたさまざまなキャリアを持つ方たちで、研修で親交していくうちに、森を楽しみながら南足柄を盛り上げることができないかを、みんなでいろいろと話すようになっていったのです。

そんな折でした。仲間のひとりから、昨年、「小学校の昇降口の木質化に対しての設計プロポーザル(事業提案)をやってみませんか」と誘われたのです。それでみんなで、入札に参加してみることにしたのです。

当初は移住してきた人間がいきなり受注することなど難しいと思い、私は爪痕を残せたらくらいの気持ちで始めたのですが、仲間と丁々発止で意見を交換し合いながら、ふだんは提案しないようなさまざまなアイデアを盛り込んで、提案書を駆け込みで提出しました。発案から提案書を出すまでは、約1週間しか期限がなかったんですよね(笑)。でも、それが入札できた! うれしかったですね。

親として子どもが通う学校をデザインできることは、とても誇らしいことです。また、コロナ禍前には富山のこども園を設計したことがあり、そのとき子どもと地元に関わる仕事というものにやりがいを感じたので、そういった仕事にいつかまた取り組んでみたいと思っていたんですよね。だから、それが一挙に獲得できたのは、本当にうれしい出来事でした。

小学生の意見を反映して、南足柄にある5校の小学校の昇降口を木質化

南足柄市の木質化プロジェクトの概要は、地元市立小学校、5校の昇降口を地元産の木材でリニューアルしていくというものです。

このプロジェクトは、南足柄市の7割が森林で、スギやヒノキの人工林が多くあることから生まれました。公共建築物(小学校)に市産材を利用して木質化することによって、安らぎとぬくもりのある健康的で快適な公共空間を提供するとともに、市民が木に親しんで、循環型社会の構築や地球温暖化の防止、林業・木材産業の振興、森林整備などを資することが目的となっています。

 

3校で「デザインワークショップ」を開催。全5校で「カラーアンケート」を実施

入札を受注後、プロジェクトは2023年からスタートしました。

まず行ったのは、現在通学中の小学生たちとの「デザインワークショップ」です。あらかじめプロジェクトの概要がわかるプロモーション映像を作り、学校の先生方や児童の皆さんに観ていただいた上で、4~5年生を対象にして3校で行いました。空間デザインだけでなく、活用方法や運用について意見を出してもらったのですが、本当にたくさんのアイデアが出てきてとても有意義なイベントとなりました。

下のイラストは我々がプロポーザルの時に提案したデザイン案です。これらを触媒にして子どもたちからはたくさんのアイデアが飛び出しました。

僕たちが子どもたちにあらかじめ話したのは、

「僕ら大人じゃなくて君たち自身でアイディアを実現しよう。実現は大変だけど、未来に持っていきたいと思うような本当に良いものを考えてみよう。みんながあとから実現しやすい拡張性のあるデザインになっているよ。」

ということでした。中には「地下室を作りたい」とか「ピタゴラ装置を置きたい」といったような型破りで面白いアイデアがたくさんあったんです。子どもたちは皆、意欲的で目をキラキラさせながら語ってくれました。このようなワークショップは、ほかに市民と子どもを交えて、小学校外で行ったり、市内だけではなく、市外の大人の皆さん(保護者・先生・市の職員・南足柄市に興味のある方など)とも行ったりしました。

また、5校の小学校の児童全員に、昇降口に塗りたい「色アンケート」を実施しました。児童の皆さんが日頃慣れ親しんでいる水彩、さくらカラー24色の中から各自選んでもらい、木材の15%を選んでもらった色の割合でランダムに着色する予定です。

児童全員によるデザイン参加を目指しました。興味深いことに、どの学校も同じような色が上位にランクインしています。これは想像を遥かに超えた面白い結果でした。だれもが予想できない作為のないデザインがいいなと思っています。

 

セルリアンブルーとエメラルドグリーンが人気
面積の広い色ほど子どもたちが選んだ数が多く、セルリアンブルーとエメラルドグリーンが人気

 

今後は「森ツアー+製材所見学」や「昇降口づくりに参加」する催しも開催

 木質化した昇降口の完成は2024年8月を目指していますが、それまでに丸太がどうやって木材になるのか知ってもらうために「森と製材所の見学」や、木材にふれてもらう「アートワーク」、昇降口の造形に参加する「ワークショップ」なども、今後開催していく予定になっています。

こうしたイベントを開催しながら昇降口の木質化を進めることで、子どもたちの夢が広がり、木材のぬくもりや大切さを知ってほしいと願っています。

 

私たちの計画では、完成から2年後の20263月に「ハコミーメンテナンス ワークショップ」と題して、在校生による昇降口に設置された木材のメンテナンスを予定しているのですが、そのとき昇降口が単なる昇降スペースではなく、子どもたちと地域のつながりの場になっていたらうれしいですね。

プロジェクトは進行途中ですが、私個人としては「デザインワークショップ」で、子どもたちや先生方に喜んでもらえたことで、とても満足しています。建築家としてこれまでさまざまな仕事をしてきましたが、このように多くの人たちが喜ぶ姿を目の当たりにしたのは初めてで、最上のギフトをもらった気分です。

仲間とともに「ちかいなか」(首都圏に近い田舎)の立地を活かして、都会と田舎をつなぐことが今後の目標です

以前、「HugKum」の地方移住のインタビューでもお話したと思いますが(記事はこちら)、今後は首都圏に“近い田舎=ちかいなか”という立地を活かして、「みんなの森の会議」プロジェクトを進行している仲間たちとさまざまなことにトライしていきたいと考えています。

プロジェクトに参加したことにより、他の業界の人たちとタッグを組むことで自身の仕事の枠に留まらない、さまざまな事に携われると実感できたからです。私たち仲間のあいだでは「from.minamiashigara(フロム南足柄)」と銘打って、現在、いろんなプロジェクトを企画しています。

まずは、市外から訪れた人が宿泊したり我々と共に活動できる拠点を作ろうと思い、空き家(古民家)を利活用することを考えています。ほかにも老若男女問わず学べる南足柄大学の立ち上げや南足柄のブランド化と、いろんなプランが動き始めようとしています。

「from.minamiashigara(フロム南足柄)」では、市内と市外の両方の状況を常に把握していられる利点を活かしつつ、遊びの延長として、みんなおおらかにマイペースに南足柄を楽しもうとしています。

 

 島崎衛さんが南足柄市に移住したお話はこちら

【私たち地方移住して子育てしてます!】3人目の子供の誕生をきっかけに、横浜から南足柄へプチ移住。豊かな自然を満喫し、地元の人たちとふれあう充実の日々
3人目が生まれることがわかり移住を決意。ライフクライシスも理由のひとつでした 地方移住をしようと思ったのは、次女が生まれることにな...

from.minamiashigara(フロム南足柄)インスタグラム

株式会社 サオビ 一級建築士事務所

 

取材・文/山津京子 撮影/五十嵐美弥

編集部おすすめ

関連記事