【出産前に知っておきたい】お乳が出ない! 早産児に母乳が必要!そんなとき「ドナーミルク」が命綱に。利用者として提供者として、母乳バンクという存在を知る

早産や極低出生体重で生まれた小さな赤ちゃんにとって、母乳は「薬」のようなもの。栄養だけでなく、病気や感染症から身を守り成長していくためにも必要なものです。そんな大切な母乳を、母親から直接得られない赤ちゃんに届けられているのが「ドナーミルク」。日本でも「母乳バンク」が開設された2014年以降、その善意の母乳に多くの命が救われています。

ドナーミルクって何?

「ドナーミルク」をご存じですか?

それは、健康で母乳がたくさん出るお母さんから寄付された“善意の母乳”。

そして、いただいた母乳を適切に処理し、安心安全な「ドナーミルク」として、母乳を必要としている赤ちゃんに届ける仕組み・施設のことを「母乳バンク」といいます。

小さな命をつなぐために

いま日本では、およそ10人に1人が小さく生まれています。

その小さな命のため、母乳バンクではドナー(母乳提供者)から日々送られてくる母乳を検査し、低温殺菌処理によって無菌化したものを「ドナーミルク」として厳重に保管。NICU(新生児集中治療室)など医療現場の要請をうけて提供しています。

低温殺菌処理後の細菌検査をパスして、病院へ届けられるドナーミルク。
※デモンストレーションの様子を撮影した映像です。
※研究用の母乳を使用しています。

対象は1500g未満の小さな赤ちゃん

ドナーミルクの使用対象者は、“出生体重1500グラム未満で、お母さんの母乳が得られない赤ちゃん”。早産児、極低出生体重児といわれる1500グラム未満の新生児は、早く小さく生まれたために体の機能が未熟で、さまざまな病気や感染症のリスクも抱えています。

それゆえ、病気から身を守る「薬」ともなる母乳を、できるだけ早く与える必要がありますが、実際は早産で母乳が出にくかったり、病気治療中で母乳があげられないなど、お母さんから直接母乳が得られないケースは少なくありません。

そういった場合の、セカンドベストな選択肢として推奨されているのがドナーミルクです。

ドナーミルクが必要になるケース ※ドナーミルクの使用可否は医師の判断に基づきます。
「ドナーミルクを知っていますか?」冊子より

特に早く小さく生まれた赤ちゃんには、牛由来成分を含む人工乳の粉ミルクよりドナーミルクのほうが身体への負担が少なく、母乳由来の効果で腸の病気の発症率も粉ミルクの約1/3に抑えられるなど、さまざまな利点もあって、ドナーミルクを利用する医療機関は年々増え、需要も高まっています。

母乳バンクは世界50カ国に600カ所以上。ドナーミルクの有益性も広く知られ、多くの公的機関で推奨されています

 

母親の母乳が得られない場合は、ドナーミルクが第一選択である

WHO世界保健機構/2002年)

 

もし、十分な支援によっても、自母乳が得られない、児に与えられない場合にはドナーミルクを用いる

(日本小児医療保険協議会栄養委員会「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」より/2019年)

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ドナーミルクの有効性

母乳の大切さ

母乳には、赤ちゃんに必要なものがバランスよく、消化しやすい形で含まれています。

それは最適な栄養源というだけでなく、早産児や極低出生体重児の“腸”を早く成熟させる成長因子であったり、腸からの刺激で脳の発達を促したり、未熟な赤ちゃんの免疫力を高めるなど、健やかな成長を支えるためのあらゆる成分を含んでいます。

加えて母乳には、「壊死性腸炎」(※1)をはじめとする命にかかわる病気や目や肺の疾病、感染症に対する予防効果もあり、赤ちゃんを守る「薬」としての役割も担っています。

(※1)腸の一部が壊死する病気。合併症の原因ともなり致死率が高い。

■超早産・極低出生体重児の代表的な病気とリスク

・壊死性腸炎

・後天性敗血症

・慢性肺疾患

・未熟児網膜症

・修正20カ月での神経発達異常

NICU退院後の再入院

生後早期に母乳をあげる意味

赤ちゃんにとって大切な母乳。小さな赤ちゃんの場合は特に、それを生後早期に与えられるどうかが、その後の発育や発達にも大きく影響します。

新生児医療の現場でも、超早産児や極低出生体重児に対しては、生後6時間頃から早いタイミングで赤ちゃんの“腸”に母乳を届けて、経腸栄養(※2)を確立することが重要と考えられています。

経腸栄養を早めることは、栄養や免疫力を与えられるだけでなく、点滴での栄養投与期間が短縮して赤ちゃんのストレス緩和にもつながります。また、早くから母乳を与えられた赤ちゃんほど、認知機能や視覚・聴覚などの障害の発生率が低くなるという調査結果もあって、母乳の成分が長期にわたってすくすくと元気に育っていくための力や助けになっていることもわかってきました。

(※2)口や鼻などから消化管を通して栄養を摂る方法(⇔静脈栄養)

ドナーミルクの利点と有益性

そんな背景から、最近は医療現場でも1500グラム未満の赤ちゃんには、お母さんの母乳が出るようになるまでの“つなぎ”として、一時的にドナーミルクを用いるケースが増えているそうです。

早くからドナーミルクで栄養をはじめれば、赤ちゃんの腸の環境を整えておくこともでき、お母さんの母乳が届き次第、スムーズに母乳育児がスタートできるというメリットもあるといいます。他にもドナーミルクにはさまざまな有益性がありますが、母乳由来の効果としては、おもに以下のような点が挙げられます。

■ドナーミルクのおもなメリット

1,壊死性腸炎などの重い病気を予防でき、重症化のリスクが低減する

2,点滴での栄養投与期間が短くなり、赤ちゃんや家族の負担を軽減できる

3,未熟な赤ちゃんに最善の栄養が与えられ、長期的な予後の改善ができる

妊娠27週目に678グラムで生まれ、生後約6カ月間ドナーミルクを使用した赤ちゃんとご家族。すくすく育って、いまではこんなに愛らしい笑顔も。
(画像提供:株式会社ピジョン)

母乳を必要としているすべての赤ちゃんのために

ドナーミルク利用家族からの声

「ドナーミルクをいただいたおかげで、今ここまで無事に成長することが出来ている」

「生後すぐから使用させてもらったことで、母親の母乳に対するメンタルもすごく助けられた」

「消化にやさしいドナーミルクを使えたのはよかった」

「ドナーミルクのおかげで子どもが生き残ることが出来た」

「私自身すぐに母乳をあげることができず、母乳バンクの母乳を息子に与えることが出来、本当に感謝」

実際にドナーミルクを利用したご家族へのアンケート調査によると、最初は自分の子どもに他人の母乳を与えることに対する抵抗感や不安、戸惑い等はあったものの、ドナーミルクを使ったことに対しては、全員が「使ってよかった」と回答しています。

その理由には、子どもの成長とともにお母さん自身も精神的に助けられたとの声も多くありました。

早産児・低出生体重児のご家族へのアンケート。ドナーミルクという言葉は全員知っていると回答。内容も知っているとの回答は約8割。一方、早産児・低出生体重児のご家族ではない一般のママやプレママからの回答では、言葉も内容も知っている人は約3割にとどまった。
(調査:ピジョン株式会社)

5000人全員へ善意の母乳を

2014年に日本に初めての母乳バンクが誕生して以来、母乳を必要としているたくさんの赤ちゃんのもとに届けられてきたドナーミルク。日本では、まだ一般にはあまり知られていませんが、ドナーミルクとそれを提供している母乳バンクに対しては、全国からのたくさんの感謝や喜びの声も届いています。

1年に生まれる超早産児、極低出生体重児の数は約6000人。そのうちドナーミルクを必要としている赤ちゃんは、推定で約5000人いるといわれます。

下記の記事では、その5000人すべてに“善意の母乳”を届けるため、活動を続ける母乳バンクの成り立ちや取り組みについてリポートしています。

▼「母乳バンク」についてはこちら

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構成・文/増田ひとみ 協力/一般社団法人 日本母乳バンク協会、ピジョン株式会社

参考:ぼにゅ育/https://pigeon.info/bonyu/article-294.html
:日本財団母乳バンク/https://www.pigeon.co.jp/csr/tinycry/hmb/
:日本小児医療保健協議会栄養委員会「早産・極低出生体重児の経腸栄養に関する提言」https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/2019_keichou_eiyou.pdf

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