早産児とは
早産児とは、在胎37週未満で生まれた赤ちゃんのこと。
2020年には、世界で推定1340万人、10人に1人が早産で出生しています。
早産児は低体重で生まれることも多いのですが、日本では特に、低出生体重児(出生体重2500g未満)の割合が増えていて、2022年の出生率は約9.4%。私たちの身の回りにいる、およそ10人に1人の子どもたちが、何らかの理由で小さく早く生まれているのです。
NICUで多くの人に見守られながら育っていく小さな命
小さく早く生まれた赤ちゃんは、臓器や器官系もまだ未発達。呼吸や栄養の補助なども必要なことがあり、また合併症の危険性も高い場合などは、生まれてすぐに新生児集中治療室(NICU)に入ることが多いです。
NICUは、通常、生後28日未満の新生児を対象に集中治療を行っていますが、早産児のなかには出生体重1000g未満の超低体重の赤ちゃんなどもいて、なかには何か月もの入院生活の後さらに在宅酸素療法などを続けるケースもあります。
早産児家族の9割が悩みを抱えている
その後の成長過程においても早産で生まれたお子さんは、同い年の子に比べて身体が小さかったり、病気がちだったりするなど、いじめや将来のことまで不安を抱えてしまうケースもあるようです。
アンケート調査によると、子どもが早産で生まれたことで不安や悩みを抱えている早産児の家族は9割以上。一方、早産の経験がない一般の家族の7割弱は、早産児家族がどのようなことに悩んでいるかを知らず、どのように声をかけていいかわからなかったと答えています。
実際、早産児の家族が抱える悩みや課題は、当事者以外にはあまり知られていないもの。そのため時に予期せぬ形で行き違いがあったので、「周囲の理解や配慮不足を感じたり、言葉や行動で傷ついた経験がありますか?」という質問にも、早産児家族の約6割が「よくある」「時々ある」と答えています。
特に、早く産んでしまったことへの罪悪感や自責の思いに苛まれているお母さん方からは、悪気はないとわかっていても「小さいね」と言われたり、他の子と比べられるたびに傷ついたり不安になるなど、多くの意見がありました。実は、各種手続きや健診、支援の窓口となる自治体や、子どもを預ける幼稚園や保育園などでも、つらい言葉や経験をすることは多いそうで、早産児とその家族への理解や配慮は、社会全体としてまだまだ不足しているようです。
早産児や家族を支えるサポーターたちの取り組み
ストレスを減らし、個別ケアで発達を促す「ディベロップメンタルケア」
いまの日本では、早産や低体重で生まれても、高い医療技術によってそのほとんどの命が救われています。ただし、小さく早く生まれた子どもたちは、発育発達の遅さや滞り、障害など、成人後を含む健康面でも課題のある可能性が正期産児比べてかなり高く、医療の現場ではその予防のための様々な取り組みも行われてきました。
昨今、多くの施設で導入されているディベロップメンタルケアもそのひとつです。これは、赤ちゃんの発達を阻害しないよう環境を整え、治療や処置などのストレスも減らし、家族との触れ合いや愛着を育みながら、ひとりひとりに合わせた個別のケアを行っていこうという考え方。
具体的には、以下のようなものがあります。
・ミニマルハンドリング……赤ちゃんのストレスとなる治療、検査、処置、清拭や吸引、テープの借替等の看護ケアもできるだけ減らす。
・痛みのケア……赤ちゃんが感じる痛みを軽減する。カンガルーケア(後述)など。
・ファミリーセンタードケア……NICUや新生児室での面会や滞在にできるだけ制限を設けず、家族と赤ちゃんが可能な限り長く安心して過ごせる環境をつくる。治療やお世話にも積極的に参加してもらうことで、親子の愛着が育まれるという効果も。
「カンガルーケア」
直接肌を触れ合わせながらお母さんや家族にだっこしてもらう「カンガルーケア」。こうしている間は、赤ちゃんの痛みのスケールがゼロ近くまで下がり、家族の方のストレスが低減するというデータも。
「ピアサポート」という新たな支援の形
退院後も引き続き課題を抱えている子どもと家族たちは、継続的な心身のサポートを必要としています。
もちろん行政でも相談窓口を設けたり、自立支援のための事業等を行っていますが、さらなる支援の充実を目指して、各地の医療機関と患者家族会に向けて調査し、3年の月日をかけて立ち上げたのが「日本NCIU家族会機構JOIN」。
行政だけでは不足する家族支援の新たな形として、2020年に設立されたこの団体は、同じ課題を持つ人同士がネットワークをつくり、互いの体験や感情を共有することで支えあう、ピアサポートという考え方に基づくものです。
現在、全国約50の家族会が参加しているJOINのホームページでは、各家族会の情報と家族の声を発信。SNSなどを通して、様々な形で早産児と家族のこと、その実情や思いをを広く伝え続けています。
相手を尊重し、思いやりと助け合いのある社会に
早産を経験したお母さんたちの中には、様々な事情が重なって、たまたま早産になったというケースも少なくはありません。そうした思いもよらないことは、身の回りや私たち自身にも、十分起こりうることでもあるのです。
JOIN代表理事・慶應義塾大学医学部小児科の有光先生はこう語ります。
「社会に支えられながら成長していくのは、正期産で生まれた子どもたちも早産児の子どもも、みんな同じ。そんな彼らのためにも、一人一人の立場や役割、価値観が違っても、お互いに相手を尊重しあい、思いやりや助け合いのある社会を目指したいものです。」
こちらの記事も参考に
構成・文/増田ひとみ
協力/ピジョン株式会社「ちいさな産声サポートプロジェクト」、日本NICU家族会機構JOIN、有光威志(慶応大学医学部小児科)