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ゴミ問題を一因とした「原宿歩行者天国廃止」が発足のきっかけに
―― 筆者自身も「ゴミ拾い侍」さんの拠点である豊島区に暮らしているため、実際に活動されている場面を幾度と見かけてきました。パフォーマンスをしつつ、人目につかないような場所でも地道にゴミを拾われており、一住民として感謝の気持ちでいっぱいです……! この活動はどういったきっかけで始められ、それぞれどのくらい続けてこられたのでしょうか。
後藤さん: 僕は「有名になりたい」という、よくある動機で東京に出てきて(笑)。最初はストリートパフォーマンスのグループにいて、原宿の歩行者天国で活動していました。その歩行者天国がゴミ問題・騒音問題で廃止になったことがずっと頭に残っていたんですよね。若い人たちが作った文化を、若い人たちが壊してしまったという。
その後、北海道に原宿の歩行者天国みたいなストリート文化を作ろうとした時に、ゴミ拾いをするボランティアの方のトングが刀に見えて、ゴミ拾いを侍のような殺陣とともにやったら面白いんじゃないか、と思いつきました。それがもう、かれこれ16〜17年目ですね。それで、最初は北海道で「ゴミ拾い侍」を立ち上げて、その後東京支部を展開しました。
―― 渋谷や池袋にはどのようなご縁が?
後藤さん: はじめは「ゴミ拾い侍=芸能界へのステップ」という意識があったことから若者文化の中心地である渋谷でパフォーマンスをしていたんですが、次第に「自分が住む街のゴミを拾わないと」と思うようになって、暮らしている豊島区でも活動するようになったんです。それからは「芸能界へのステップ」というよりも使命感のようなものが軸になっています。究極のバカの一つ覚えで、今は週5回ほど本気でゴミ拾いをしてますね。
惠助さん: 僕はおそらく7年目かと思います。もともとは僕も俳優を目指していて「ゴミ拾い侍」の活動に加わったんですけど、途中からは「ゴミ拾い侍」の存続を目的とするようになりました。今は飲食業をやりながら頑張っています。
「見てもらうことでゴミ問題を考えてもらう」信念、仲間、応援がモチベーションに
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―― お二人とも長い間ご活動をされていますが、モチベーションを保ち続ける秘訣を教えてください。
惠助さん: 僕は元々ゴミ拾いに関心があったわけではなく、「ゴミ拾い侍」の存在も俳優を目指す中で知りました。僕が初めて知った当時も「ゴミ拾い侍」は普通にやれば良いことをわざわざ目立つようにやっていたわけですけど(笑)、その頃から「目立つことによって周囲にもゴミ問題を考えてもらう」という隠されたコンセプトが伝わってきたんですよね。かっこいいなと思うと同時に、それまでは気にもかけなかった道端のゴミや汚れが気になるようになって。
「ゴミ拾い侍」を続け、見てもらうことで、自分のようにゴミ問題に関心を持つ人が増えていく。「ゴミ拾い侍」に参加してからは、そう信じることがモチベーションに繋がっています。
後藤さん: 自分にとってのモチベーションは、もうシンプルに、強い想い、熱い想い、そして仲間ですかね。
―― やはり挫折しそうになることもありますか。
後藤さん: 拾ったそばからポイ捨てされたり、どれだけきれいにしてもすぐに元に戻っていたりすることはしょっちゅうあります。見て見ぬふりをされて、自分が透明人間のように思えるくらいです。一人では絶対に心折れてしまいますし、もちろん仲間とやっていても折れそうになる瞬間はあります。実際、やめていってしまう仲間も多いです。
挫折しそうな時はとにかく、自分がやっていることを信じる。SNSに寄せられた励ましの言葉にもかなり支えられています。
惠助さん: 僕はもう、一度は完全に挫折しました。挫折していなくなったメンバーの一人です。ゴミ捨てではなく、役者になることに挫折してしまって。でも、「ゴミ拾い侍」はやりたくて戻ってきました。
―― 役者としての気持ちは折れたものの、ゴミ拾いをしたい気持ちは残ったということですか。
惠助さん: そうですね。「ゴミ拾い侍」は残したかったし、続けたいと思えたんです。
後藤さん: 当時はやっぱり俳優を目指す人間の集団という雰囲気だったし、僕にもその考えはあったんですけど、別にそうじゃなくてもいいじゃん、と僕の思考を変えてくれた大きなできごとでしたね。しかも、惠助はそれ以降、パフォーマンス力もスキルアップしてる。
惠助さん: やっぱり「ゴミ拾い侍」を続けていくためにはパフォーマンス力は絶対に必要なものだと思ったんです。
お子さんが僕たちの真似をしてゴミ拾いした動画だとかをSNSで見ると、やってきてよかったなと思う一方で、続けていくためには技術が必要だと痛感します。変なものは見せたくはない。かっこいい姿を見せたい。それは「ゴミ拾い侍」を続けるモチベーションにも繋がっています。
家庭でできる環境活動へのモチベーションの持続可能な保ち方
―― ありがとうございます。お子さんや一般家庭できる、環境活動に向き合い続けるヒントを教えていただけると嬉しいです。
後藤さん:(相手が子どもの場合)目の前に捨てられていたゴミをひとつ拾ったら「ヒーローだ!」って言ってあげることです。子どもって最初はシャイですけど、ひとつ拾って褒められたら、今度はいつまで拾うんだ?ってぐらい続けてくれます。難しいことを言ったりするんじゃなくて、主役にしてあげること。そのために、簡単なことを大げさに褒める。すげえじゃん、って。
―― たしかに、そういう記憶は成功体験としてずっと残りますよね。
後藤さん: 親子で外に出てゴミを拾ってみれば、普段取らないコミュニケーションも増えます。
惠助さん: まずは大人が興味を持つことが大切だと僕は思います。ポイ捨てをするのは子どもじゃなくて大人なんですよね。実際に、イベントとかで我が子がゴミ拾いするのを見た親御さんって、絶対にポイ捨てしないと思うんですよ。たとえ、実はそれまでポイ捨てしていたとしても。だから、お子さんを通じてでも良いので、まずは大人たちが興味を持つべきだと思います。
あとは、ゴミ拾いを楽しむ活動が広がれば、自然と変わっていくんじゃないかなと思います。
後藤さん: ゴミ拾いを“エンタメ化”するという工夫は「ゴミ拾い侍」以外にもたくさんの方がされていますよね。「スポーツごみ拾い」とか、ゲーム感覚ゴミ拾いイベント「清掃中」とか。あれは子どもたちがこぞって参加しますからね。そういう取り組みがどんどん広がっていけばSDGsにも繋がってくる。
―― そういったイベントで楽しい感覚が味わえれば、その後も長くポジティブに向き合えそうですね。
後藤さん: 最初からゴミ処理施設の話をしてもピンとこないと思うんですけど、「自分たちが拾ったゴミはどこにいくんだろう」といった疑問が持てれば、その先についての関心にも発展していくんじゃないかと思います。
環境先進国デンマークへ! 現地のゴミ処理施設はまるでテーマパーク
―― 最近はデンマークでのお祭りにも招致されていたんですね。
後藤さん: そうなんです。コペンハーゲンで行われた大道芸フェスティバルでもゴミ拾いパフォーマンスをしました。
デンマークは環境先進国でいろいろなことを徹底しているんですけど、ポイ捨てに関する意識は日本みたいな感じですね。ゴミ箱や灰皿がいたる所に設置されているのに、ポイ捨てはする。ゴミを捨てるのは清掃員の仕事という認識があるみたいです。
―― ゴミ拾いパフォーマンスをされて、現地の方の反応はいかがでしたか?
後藤さん: 現地の人からは不思議なものを見るような眼差しを向けられていました(笑)。日本でもそうですけど、声をかけてくれるのは観光客の方が大半です。
―― なんとなく想像できます(笑)。現地の環境活動で印象的なものはありましたか。
後藤さん: 惠助が調べてくれて、ゴミ処理施設(コペンヒル)に行きました。ゴミ処理施設なのに、スキー場があって、カフェがあって、アミューズメントパークがあって、頂上を登るまでのハイキングコースがあるんです。
惠助さん: 観光地として人を集めて、じゃあここなんだろうって考えた時に、自分たちが捨てたゴミが集まるゴミ処理施設だと意識させられる。
後藤さん: そういうのも演出ですよね。日本でも特別なイベントだけじゃなくて、日常のエンタメとするような工夫ってできるはずなんです。僕らはそれを目指しています。
フォロワー数80万人超え・日々の活動の様子はTikTokほかSNSでも配信中!
殺陣とゴミ拾いという意外性のある掛け合わせによって、地域を美しくしながら、ゴミ問題への意識を華麗に問う「ゴミ拾い侍」。日々の活動の様子はフォロワー数80万人を超えるTikTokで生配信されることもあり、国内外から多くの声援が寄せられています。
今回の取材では、活動のきっかけから発展まで様々なお話を聞くことができましたが、特に印象的だったキーワードは「ゴミ拾いのエンタメ化」でした。ご家庭で環境問題を考える際には、TikTokやYouTube等を通じて、まずは彼らが手がける“エンタメ”を楽しんでみることから始めてみるのも良いのではないでしょうか。
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フォトグラファー佐々木健治さんInstagram
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企画・取材・文/羽吹理美