深刻な問題にもかかわらず、日本の報道ではあまり取り上げられないのが難民問題
日本のメディアで報道される国際ニュースといえば、最近では米大統領選挙に注目が集まり、米中対立やウクライナ戦争、台湾情勢がその多くを占めます。こういった問題は大国と大国が絡む問題です。
当然ですが、世界には日本のメディアで日常的に報道されない深刻な問題が多々あります。
その1つが、紛争や迫害によって故郷を奪われた人々の問題です。国連難民高等弁務官事務所の発表によりますと、2023年末時点において、世界で紛争や迫害によって故郷を奪われた人々の数は1億1730万人に上ります(2024年5月時点では1億2000万人で過去最多)。
国別で見ますと、アフガニスタンとシリアが640万人、ベネズエラが610万人、ウクライナが600万人、南スーダンが230万人などとなっており、この5カ国だけで全体の7割以上を占め、18歳未満の子どもが4割を占めます。
そして、紛争や迫害によって故郷を奪われた人々の数は近年急増傾向にあり、例えば2014年には6000万人弱だったのですが、この10年間だけで2倍になっているのです。
また、国連難民高等弁務官事務所は、難民の数が3760万人、国内避難民の数が6830万人に上っているとの統計を発表していますが、紛争や迫害によって故郷を奪われた人々を難民と国内避難民で区別することがあります。
「難民」とは?
難民とは紛争や内戦に巻き込まれたり、人種や宗教、政治的意見が違うなどとして国内政府や多数派から迫害を受け、国境を超えて隣国や他国に逃れなければならなかった人々を指します。
上述の中にウクライナ600万人とありますが、ロシアによる侵攻によって故郷を奪われたウクライナ人の中には、他国に避難する人々が急増しました。こういった人々は一般的にウクライナ難民と呼ばれます。
国内避難民とは?
一方、国内避難民とは置かれる環境は難民と変わらないのですが、文字通り国内に留まっている人々を指し、要は他国に避難しているかどうかが違いのポイントのなります。しかし、国連などは言葉の定義は違っても苦境に置かれる環境は全く同じことから、難民だから国内避難民だからという理由で扱いに区別はなく、そういった人々を救済するという気持ちで積極的に支援を行っています。
移民とは?
また、難民と同じくよく使われる言葉に移民があります。移民とは、目的や理由、滞在期間などに関わらず、本来の移住地を離れて国境を越えるか、国内で移動したあらゆる人々を指します。
移民の多くは、仕事や家族、勉学などに関する理由で移住しますが、紛争や迫害、災害などによって移動を余儀なくされる移民も増えています。要は、難民は移民に該当しますが、移民が必ずしも難民であるわけではなく、移民の中に難民の人々がいるということになります。日本人の中には海外へ出稼ぎに行った移民はいるでしょうが、日本人が難民になることは考えられないのです。
今後、途上国を中心に世界人口は急増する関係で、世界で紛争や迫害によって故郷を奪われた人々の数は増え続けることが予測されます。そして、経済的、勉学的な理由で本国を離れる移民の数も増えることが予測されます。
参照)https://www.unhcr.org/jp/global-trends-2023
この記事のポイント
①「難民」「国内避難民」は自国内で避難しているか、他国で避難しているかの違い
② 「移民」は仕事や勉学などで移住する人を定義することが多いが、紛争や迫害、災害で移動を余儀なくされる「移民」も増加している
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記事執筆/国際政治先生
国際政治学者として米中対立やグローバスサウスの研究に取り組む。大学で教鞭に立つ一方、民間シンクタンクの外部有識者、学術雑誌の査読委員、中央省庁向けの助言や講演などを行う。