【前回までの流れ】
●偏差値65の志望校に向けて奮闘中の息子。
●ゴールドコースの家庭教師に満足できず、“合格請負人”と呼ばれる源先生を紹介される。
●清水の舞台から飛び降りたつもりで、合格請負人にお願いする決意をする。
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清水の舞台から飛び降りる覚悟!「家庭教師選び」の決断で、蓄えの底が尽きる!?
合格請負人・源先生との出会い
「合格請負人」と聞いて私は、スパルタ指導で鬼のような強面の先生を想像していました。息子も私と同じようなイメージをしていたようで、会う前からピリピリと神経質になり、手汗を拭きながら待っていました。
ところが、現れた源先生は、私たちが想像していた人とは真逆の人でした。年齢は60歳ほどの男性。体つきは小柄で、表情は穏やか。威圧感はまったくありませんでした。そんな先生を目の当たりにして、「この人が本当に“合格請負人”なのかしら?」と、最初は少々不安を抱くような第一印象でした。
挨拶が終わった後、息子の部屋で授業が始まるのかと思いきや、源先生はリビングに座ったままこうおっしゃいました。
「初めての授業なのでご心配でしょうから、お母さんも同席してください」
その言葉に促され、リビングで授業を見守ることに。源先生はまず息子の学力を図るため、次のように声をかけました。
「この算数の問題を解いてみてくれるかな? 間違ってもいいんだよ。君がこれまで塾で習った方法でいいから…」
息子は戸惑いながらも、算数の文章問題2問と図形の問題1問に取り組みました。解き終わると、源先生は小さく頷きながら、「問題点が見えてきたなぁ」とつぶやきました。
「出題の意図や求められていることを理解せずに、テクニックだけで解こうとしているね。少し時間がかかるかもしれないけど、基礎のところからやり直すことにしよう」
その言葉に息子は半信半疑で困惑している様子でした。
「試験まで残り少ないし、不安もあるだろうが、僕を信じて教える通りのやり方で取り組んでください」と源先生。
合格するために残された道は、源先生についていくしかないんだと私は感じました。
丁寧な指導と行き届いたフォロー
これまで息子が通っていた塾では、とにかくたくさんの問題を解く。そして、その解き方をまるで方程式のように暗記することが求められていたようです。「解き方を覚えるためには数をこなし、慣れる。そして暗記する」という方針で、指導を受けてきました。ですから、息子は問題をこなすことだけを考えて、問題について深く考えることはしなかったようです。
しかし、源先生の教え方は、明らかに異なるものでした。指導の中で先生が繰り返しおっしゃったことは、「一つ一つの問題を丁寧に読み、問題の意図や主旨をしっかりと理解すること。その上で、どう解くかを考えて解きなさい」というものでした。
先生は「量より質」を重視し、1問に対して1時間以上の時間をかけて丁寧に教えてくれるのです。そして、忘れた頃にその問題を再び出し、「本当に理解できているか」を確認してくれます。
息子が間違えると、「ここがわからなかったから解けなかったんだよ」と具体的な解説をし、別の例を挙げて再度理解を促す。丁寧に教えてくれるから、息子も徐々に理解ができるようになったようです。
源先生の指導スタイルは、これまで息子に染み付いていた「付け焼き刃的な学習」とか単に「答えを出せばいい」といった姿勢とは全く異なっていました。先生の教え方を実践することで、「わかる」ということがどういうことなのかが理解できるようになったようです。そのことで、息子の表情が日に日に明るくなっていくのがわかりました。
後日談ではありますが、源先生は次のようにしみじみ言いました。
「息子さんの指導において、何が大変だったかといえば、染み付いてしまった〝手を抜く学習スタイル〟を変えることでした」と笑っていました。
時間を惜しまない先生の姿勢
源先生の指導は、時間を惜しまずに行われました。時には予定の時間を超えても授業を続け、「ここまで教えたら終わりにします」と、その日決めた目標や課題が終わるまで教えてくださる姿勢に頭が下がる思いでした。
そんな先生の熱心な姿を見ながら、一つだけ心配なことがありました。
それは、「先生、うちはお金がないので、超過した時間の追加費用がお支払いできないのですが…」と伝えると、源先生は穏やかに微笑みながらこう言いました。「大丈夫ですよ。料金の範囲内で、私ができることを精一杯やらせていただきますから」。
その言葉に、私は思わず目頭が熱くなりました。息子のために全力を尽くしてくださる先生に出会えたことを、心から感謝しました。
息子の成長と明るい変化
源先生の指導が始まって1か月が経った頃、塾で模試が行われました。これまでとは違う教え方を実践し、勉強に取り組む息子の姿を見ていた私は、どこかで目に見える成果が出るのではないかと密かに期待していました。
しかし、模試の結果は偏差値40台のまま…。母親としての焦りと不安が押し寄せました。

その夜、源先生が家に来られた際、私は我慢できずに質問しました。
「先生、本当に大丈夫なんでしょうか? こんな偏差値で合格なんて…」
詰め寄る私に対して、源先生は穏やかに微笑みながらこう答えました。「私は、1月の入学試験を目途に彼と勉強をしています。偏差値なんて、気にする必要はないんですよ」と。
その余裕ともいえる言葉に、私はさらに不安を募らせ、「そんな流暢なことを言っている場合じゃありません!」と思わず声を荒らげてしまいました。しかし、源先生は表情を変えず、「私を信じてください。必ず合格させますから」と力強くおっしゃったのです。
そして迎えた11月の最後の模試。結果は、前回よりも成績を落とし、算数にいたっては偏差値がなんと37.7…。この結果を見て、自分でも顔から血の気がすーっと引いていき、立ちくらみしたことを覚えています。

しかし、もうここに至っては、源先生が言った「必ず合格させます」という言葉に、信じてすがるしかないとも思っていたのです。
節約生活の始まり
先生は「料金の範囲内で、私ができることを精一杯やらせていただきますから」と言ってはくれたものの、私は夜も眠れないほど、心配で仕方がありませんでした。私にできることとしたら、生活費を切り詰めること、そして仕事を増やして収入を上げることしかありません。
それでも足りなければ、最後の手段として、自宅購入を考えて蓄えていた貯金を充てることを考えていました。結局、この貯金は受験でかなり減ることに…。
厳しい生活が始まったものの、息子の成長と笑顔を見ていると、その選択に後悔はありませんでした。
今回の学びと葛藤《まとめ》
●家庭教師選びは、金額以上に“覚悟”が試される
●迷ったときは、後悔しない選択をすることが大切
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息子による手記【偏差値33からの逆転☆中学受験】はこちら

執筆/清宮ゆう子