「定期テスト」は廃止される? その背景やメリット・デメリットを解説【最新教育トレンドを知る】

昨今の教育業界には「定期テストを廃止しよう」という流れが存在します。子どもを育てているのであれば、この動きは必ず注視しておくべきといえるでしょう。定期テスト廃止の基本的な知識と、定期テスト廃止のメリット・デメリットを解説します。

定期テスト廃止の基礎知識

「定期テスト廃止の流れ」は、定期テストに縛られた学生生活を送ってきた親世代にとって、驚くべき取り組みに映るでしょう。現在進行形で子どもを育てている人に知っておいてほしい、定期テスト廃止の基礎知識を解説します。

定期テスト廃止の実像

中学校や高校で実施されている「定期テスト廃止」は、シンプルに「定期テストをゼロにする」というものではありません。定期テストをなくす、もしくは少なくする一方で、定期テストに代わる他の評価方法を実施するケースが一般的です。

定期テストに代わる評価方法の代表例が「単元テスト」です。単元テストとは、「単元=授業における1つのテーマ」が終わったタイミングで行われる試験を指します。定期テスト廃止を実行する多くの学校では、定期テストを減らすと同時に単元テストを増やし、生徒を評価する機会を設けているのです。

単元テスト以外にも、授業で扱ったテーマに関して詳しく調べたり、授業を受けた感想をまとめたりしたレポートを提出させ、生徒を評価する学校もあります。

定期テスト廃止の背景

定期テスト廃止の流れを作ったのは、東京都千代田区立麹町中学校といわれています。2018年に本校で起こった定期テスト廃止の動きをきっかけに、全国の中学校・高校がこの動きに追随し、定期テスト廃止は教育業界全体の改革の流れとなりました

定期テスト廃止の流れが起こったもう1つの背景が、2020年に行われた「学習指導要領の改訂」です。本改訂では、教育課程において「知識および技能」「思考力・判断力・表現力など」「学びに向かう力・人間性など」の3つの柱を育てていくことを目標として掲げています。

改訂を受け、「記憶したことをアウトプットするだけの定期テストで生徒を評価するのが適切なのか」という声が生まれ、定期テストに代わる「考える力を問う評価方法」が求められるようになったのです。

出典:広まる定期テストの廃止 その背景やメリット、課題を解説
2020年度、子供の学びが進化します!新しい学習指導要領、スタート! | 政府広報オンライン

定期テスト廃止の現状

定期テスト廃止の現状を知るには、「ベネッセ教育総合研究所」が行った調査に注目するのが有益です。

ベネッセ教育総合研究所が2022年に行った「小中高校の学習指導に関する調査2022」という調査によれば、定期テストの削減を検討していると答えた中学校の割合は21.7%でした。

同研究所が2023年に行った「小中高校の学習指導に関する調査2023」という調査では、中学校・高校における1年間のテストの回数を調べています。これによると、高校における1年間の期末テストの回数が2021年度から2023年度にかけて減少している(2.75回から2.65回に減少)のに対し、単元テストの回数は増えている(1.77回から2.24回に増加)ことが分かります。

出典:中学校 基礎集計表(「小中高校の学習指導に関する調査2022」)|ベネッセ教育総合研究所
小中高校の学習指導に関する調査2023ダイジェスト版|ベネッセ教育総合研究所

定期テストを廃止するメリット

親世代からすると、定期テスト廃止の流れには不安が付きまといがちです。しかし、定期テスト廃止にはさまざまなメリットがあると指摘されています。定期テストを廃止すると得られるメリットを解説します。

日頃から学習する習慣を身に付けやすくなる

定期テスト廃止のメリットとしてまず挙げられるのが、日常的に学ぶ習慣が身に付きやすい点です。

定期テストに重きを置いた評価システムを採用している学校では、定期テスト前のみ勉強をし、テスト当日の1日だけ良い点数を取れさえすれば、高い評価が得られます。親世代の中には、「定期テスト前の期間にだけ勉強した」という経験を持っている人も多いでしょう。

しかし、定期テストを減らして単元テストを増やすと、生徒はより多くのタイミングで評価を受けることになります。1つのテストが終わるとすぐに次のテストが控えているので、日頃から勉強していないと好成績を収められなくなるのです。

そのため定期テストを廃止すると、日常的に勉強する生徒が増えると考えられています。

苦手を発見しやすくなる

定期テストを廃止して単元テストを増やす取り組みを行うと、生徒一人ひとりが持つ苦手なテーマや分野に気付きやすくなるメリットがあります。

定期テストで出題される範囲は膨大です。基礎から応用までの理解度をまとめてチェックするため、一つひとつのテーマを扱う問題が少なくなります。このような出題形式では、試験を受ける生徒が「何につまずいているか」を詳細に把握することは難しくなります。

テーマごとに理解度を把握する単元テストを頻繁に実施することで、1つのテーマが終わるたびに理解度を確かめることができ、生徒が「どこを苦手としているのか」をしっかり見極めることが可能です。

学習内容が知識として定着しやすい

学んだ内容が知識として頭に残りやすいのも、定期テストを廃止して単元テストを増やすメリットといえます。

定期テストで出題される範囲は非常に広いため、よほど計画的に勉強を進めていない限り、復習を十分に行えないテーマや分野が生まれてしまいます。勉強不足は、知識の定着を妨げる大きな問題の1つです。

定期テストを廃止して単元テストを増やした場合、1つの単元を終了させた直後にテストを行います。このような仕組みであれば、記憶が新しいうちに復習を行いテストに臨めるので、学習内容が知識として残りやすくなるのです。

定期テストを廃止するデメリット

さまざまなメリットが指摘されている定期テスト廃止の取り組みにも、当然デメリットはあります。定期テスト廃止に関して正しい見解を持つには、メリットと併せてデメリットも知っていなくてはなりません。定期テスト廃止のデメリットを解説します。

単元テストの増加による生徒や教師の負担増

定期テストの廃止は単元テストの増加と表裏一体であるため、単元テストの増加により生徒に与える負担が大きくなる可能性があります。

単元テストが増えることで日常的に勉強しなくてはならなくなるため、常に何かに追われているような感覚を覚える生徒もいるでしょう。「単元テストを実施する日を教科ごとに重ならないようにする」といった対策が求められます。

また、単元テストの増加は教師の負担増にもつながるでしょう。テストの作成・採点・成績の集計などの業務が増えることで、今以上に激務を強いられる可能性があります。デジタル採点システムを導入したり、教科書会社や学習教材販売業者が提供するテストを活用したりする必要があるでしょう。

入試問題への対応が不十分になる

定期テストと単元テストの性質の違いによって発生するデメリットとしては、単元テストだけでは入試問題への対策が難しい点が指摘されています。

入試問題は、学生時代に学んだ知識を幅広く問うものです。そのため基礎的な問題だけでなく、応用力を問われる問題も多数出題されます。応用問題の特徴としては、さまざまな知識が複合的に絡み合っている点が挙げられます。

しかし、単元テストは直前の単元で扱った知識の理解度を問うものです。複数の単元で得た知識を組み合わせて解く応用的な問題は、基本的に出題されません。単元テストばかりの学生生活では、入試問題を疑似体験する機会がぐっと減ってしまうのです。

このデメリットを解消するには、外部で行う模試を活用し、入試対策を実施することが求められます。

学年全体での「自分の学力」を把握しにくくなる

自分の学力を相対的に測る機会が失われてしまうことも、定期テストを廃止するデメリットの1つです。

全生徒を対象に一斉に行う定期テストでは、学年ごとに同じテストを同じタイミングで行います。多くの学校では、テスト結果として自分の順位を生徒個人に提示するため、「自分の学力がどれくらいに位置しているのか」を数字で知ることが可能です。

一方単元テストは、クラスごとの進捗状況に合わせて単元ごとの理解度を問います。実施タイミングがクラスごとに異なるため、学年全体における生徒個人の順位を出すことは基本的にありません。このようなシステムでは、生徒は自分の学力を把握しにくくなります。

この課題を解消するには、実力テストや外部模試の活用が必須です。生徒自身が自分の学力を相対的に確かめられる機会を設ける必要があります。

定期テスト廃止の流れは止まらない?

データからも分かる通り、教育業界に定期テスト廃止の流れがあるのは確かです。自分の頭で考えて行動できる人材を育んでいくには、定期テスト廃止は避けられないともいえるでしょう。

ただし、定期テストの廃止にはメリットもあればデメリットもあるため、この流れがこのまま続くかは不透明です。各学校の動向を注視し、家庭ごとの教育方針に合った学校を選んでいく必要があるといえるでしょう。

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構成・文/HugKum編集部

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