大河ドラマ「べらぼう」の主人公・蔦屋重三郎ってどんな人?読書アドバイザーがおすすめの子ども向け「蔦重」本

1月から始まったNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」が話題になっていますね。江戸時代は幕府の政策によって経済活動が安定し、町民たちの間でも多様な文化活動が展開されたと言われています。ドラマの主人公、蔦屋重三郎はそんな時代を背景に生まれた、そう、今風に言えば、江戸の出版プロデューサーのような存在だそうです。「べらぼう」の舞台を擁している台東区中央図書館で司書を務め、読書アドバイザーでもある児玉ひろ美さんに、お子さんから親しめる「蔦重」を知る本をご紹介いただきました。

学習マンガに描かれた蔦屋重三郎

蔦屋重三郎の存在は、少し前までは殆どの方がご存じなかったことでしょう。私自身、長い間子どもの本に関わる仕事と同時進行で「蔦重」活躍の地で公共図書館の郷土・資料調査室を担当していましたが、「蔦重」や「吉原細見」が児童書で扱われる日が来るなんて、想像もしていませんでした。

大河ドラマを見ていなくても、マンガで描かれることにより、主人公蔦屋重三郎を始め、山東京伝・東洲斎写楽・北川歌麿・曲亭馬琴・十辺舎一句など、子どもには馴染みにくいかもしれない人物をストーリーの中で動かし、時代や物語の流れに乗せての理解がしやすくなります。

また、膨大な文字数を用いらねばならない時代風景や風俗も、マンガは一瞬で子どもたち示すことができます。もちろん大人が読んでも、読み応えは充分、初めて知ることも多いことでしょう。

学習マンガの魅力は監修者。読み比べてみるのもおすすめです

学習マンガを選ぶポイントのひとつに監修者の専門性があります。その方の専門性などで同じテーマでも描かれ方に違いが生じます。その意味でも、1冊に限らず、数冊を読み比べてみることもお勧めです。

『蔦屋重三郎 歌麿、写楽、北斎を仕掛けた江戸のカリスマ出版人』集英社

監修は浮世絵のコレクションで有名な太田記念美術館の首席学芸員の日野原健司氏であることも、この本の大きな魅力の一つ。巻末見返し資料も納得の充実です。

『蔦屋重三郎 本と浮世絵で出版文化を粋に咲かせた江戸っ子』Gakken

監修は日本の近世史学者で東京学芸大学名誉教授の大石学氏。時代考証学会の会長でもあり、歴史作品の時代考証の第一人者。テレビ番組などでわかりやすい解説に魅了された方もいらっしゃるのでは?

高学年におすすめの読み物・蔦屋重三郎

児童書の伝記や歴史小説は、概ねその対象を高学年としているものが主です。なぜならそれらは、被伝者(主人公)の業績を、その時代背景と照らし合わせて考えることが必要だからです。

蔦屋重三郎も然り。NHK大河のタイトルにも「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」とあるように、いったい何が「べらぼう」なのかを理解するには、その時代の歴史・地理・史実、そして被伝者である蔦重の人間性など、さまざまなことを、より深く、幅広く知らなければいけませんね。

『蔦屋重三郎 江戸の出版プロデューサー』講談社~駆け抜けたその生涯と背景をたどる

著者の楠木誠一郎氏は〈講談社青い鳥文庫〉や〈角川つばさ文庫〉で大人気シリーズを複数持ち、広い範囲の歴史をカバーすることで知られる作家。本書は蔦重の駆け抜けた時代の社会的な背景を軸に、丁寧に章立てをしながらその生涯を辿ります。用語・人物等の解説に加え年譜もあり。

『江戸を照らせ蔦屋重三郎の挑戦』小峰書店~蔦重の人間性と時代の空気に焦点

著者の小前亮氏は大陸を舞台にしたスケールの大きい歴史小説や時代を大きく動かした人物の評伝などで、大胆さと繊細さの視点を巧みに描く作家。蔦重においても、華々しい江戸文化の勢いと時代の波に翻弄されて生き抜く人々の生活、蔦重の時世を読む力と地道な努力を、子どもの理解に寄り添う丁寧さで描いています。

国立国会図書館のサイトで見ることができる、江戸時代の蔦屋重三郎

国立国会図書館デジタルコレクションでは、当時出版された書物に描かれた蔦屋重三郎を見ることができます。

山東京伝   箱入娘面屋人魚 : 3巻    (画像提供:国立国会図書館ウェブサイト)

これは、江戸時代後期に活躍した戯作者・浮世絵師の山東京伝(さんとう・きょうでん)作の、黄表紙『箱入娘面屋人魚』3巻の巻頭で描かれた口上を述べる蔦屋重三郎。

「黄表紙」とは、江戸で流行した大人向けの読み物。ちなみに、この『箱入娘面屋人魚』は、鯉と浦島太郎の間に生まれた子どもが人面魚の遊女になるという奇抜なお話です。

口上では、「最近はやる気をなくしていた京伝にどうにか頼み込んで新作を書いてもらいました」と述べられているそうです。

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児玉ひろ美|読書アドバイザー

公立図書館司書とJPIC読書アドバイザーのふたつの立場から子どもの読書推進活動を展開。幼稚園・保育園から中学生まで、お話し会やブックトークの実践とともに、成人への講座や講演を行う。近年は大学にて児童文化財としての絵本の魅力を学生に伝えている。鎌倉女子大学非常勤講師など、幅広く活躍。著書に『0~5歳 子どもを育てる「読み聞かせ」実践ガイド』『子どもを育てる0歳・1歳・2歳児にぴったりの絵本』(共に小学館)がある

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