保育園・幼稚園で困り事のあったうちの子、もし不登校になったら…? 入学前に知っておけば慌てない、不登校の基礎知識

まもなく迎える入学式シーズン。保育園や幼稚園で集団活動にうまくなじめなかった子の親御さんは、小学校生活を不安に思う方もいらっしゃるかもしれません。
「不登校という概念をこの世からなくしたい」との想いから、企業や保育園・幼稚園にて不登校を理解するための「おはなしワクチン」の活動を行っている蓑田雅之さんに、不登校の基本的な知識を教えていただきます。

不登校は特別なことではない。親は慌てないことが大切

いま全国でどのくらいの子どもが不登校になっているかご存知でしょうか。2024年の文部科学省の発表では、不登校になっている児童生徒数はおよそ34万人。なんと中学校では15人に1人が不登校になっています。不登校はもはや特別なことではなく、どこの家庭の誰にでも起こりえる現象になりました。

子どもが「学校に行きたくない」と言い出したとき、たいていの親は慌てます。「うちの子が不登校、それはまずい」と、なんとか学校に戻そうと頑張ります。この対応、親なら当たり前ですよね。でも、ここにはちょっとした落とし穴があります。嫌がる子を無理やり学校に通わせると、かえって予後が悪くなるケースがあるのです。

子どもが行きたくないと言ったとき、まずは慌てずに、しっかりお子さんの様子を観察しましょう。「わがまま」「甘え」と決めつけず、行きたくない子どもの気持ちを受け止めてください。その上で、どのくらい嫌なのかを見極めつつ、慎重に通わせるかどうかを検討しましょう。

不登校は「子どもと学校の相性の悪さ」で起きる

「不登校は子ども本人の問題」と思う人がいるようですが、これは違います。多くの場合、不登校は「子どもと学校の相性」によって起こるからです。

日本には約2万校の小学校があり、その99%が公立小学校で、同じような教育を行っています。整然と机を並べ、黒板を向いて先生の言うことを聞く。みんなで仲よく同じことをやる。こういう学校のやり方になじめない子が一定数います。一般的に感受性の強い子、多動傾向の強い子、こだわりの強い子、空気を読むのが苦手な子などは不登校になりやすいと言われています。

机を並べて黙って先生の話を聞く学校のスタイルに、なじめない子がいるのは当然のこと

そして、学校に合わない子を無理やり通わせると、心が壊れてしまうことがあります。ストレスによって自律神経に不調をきたし、場合によってはうつを発症することも。ひとたび心を病んでしまうと、回復に長い時間を要します。「なぜあのとき無理やり子どもを学校に通わせたのか」と、あとになって後悔する親御さんは少なくありません。

通わせる、通わせないの判断基準は?

とはいえ、子どもが一時的に学校を嫌がっているだけのこともあります。親が背中を押してあげたら、そのまますんなり登校できたというケースもないわけではありません。学校に行かせるべきか否か、「その見極めが難しい」という親御さんの声をよく耳にします。

こういう場合、目安になるのはお子さんの体調です。頭が痛い、お腹が痛い、微熱が出る、朝起きられないなど、体の不調となって表れている場合は、無理に通わせない方がいいでしょう。泣いたり叫んだりして、激しく登校を拒絶する場合も同様です。無理に通わせようと親が頑張ると、かえって逆効果になり、前述したように心が病んでしまう危険もあります。

親を惑わせる「義務教育」という言葉

「子どもは学校に通う義務があるのでは」と心配になる親御さんもいます。小学校からの9年間が「義務教育」と呼ばれているからです。

でも、実際に憲法や法律を調べてみると、子どもは学校に通う義務を負っていません。子どもが持っているのは学校に通う「権利」であって、その権利を守るため、親に「義務」を課したのが、義務教育の本当の意味です。なぜ親に義務を課したかというと、これは虐待やネグレクトなどによって生じる不登校を防ぐためです。子どもが自らの意志で不登校を選択した場合は、もちろん親は義務教育違反に問われません。

また、平成28年には「教育機会確保法」という法律ができて、子どもが嫌がる場合は、無理に学校に通わなくてもよいということになりました。不登校になっても後ろめたいことは何もありません。世間には「積極的不登校」といって、あえて学校に通わずに、最初から子どもに合った教育を選択している家庭もあります。

「教育機会確保法」という法律により、子どもが嫌がる場合は、無理に学校に通わなくてもよいことに。

不登校になっても選択肢はある。子どもに合った学び方を選択しましょう

では、実際に子どもが不登校になったら、親はどうすればいいのでしょうか。勉強の遅れ、進学のこと、友だちとの交流など、さまざまなことが心配になりますね。でも、安心してください。その気になれば、学校以外で学ぶ方法はいくらでもあります。

ひとつは、フリースクールや居場所の利用です。こういう場所には同じような境遇の子が通ってくるので、子どもは安心して過ごせます。

また、オルタナティブスクールといって、独自の方針で教育を行う新しい学校もあります。わが子の場合は、公立の小学校が合わなかったので、3年生のときにオルタナティブスクールに転校しました。普通の学校とは違うのびやかな環境で育った息子は、いまは大学生になって好きな分野の学問を学んでいます。

ホームスクーリングといって、自宅で学ぶ子たちもいます。最近ではオンラインの中学や高校で学び、大学に進学するケースも珍しくありません。

お子さんが学校に合わないと感じたら、ぜひいろんな学び方を調べて、実際に見学や体験入学してみてください。学校の外で元気に学んでいる子どもの姿を見るだけでも、親は安心できますから。

迷ったら、何よりも子どもが幸せな方を優先して考える

色々な選択肢があるとはいえ、やっぱり「学校に行く、行かない」の判断は難しいですよね。私も息子をオルタナティブスクールに通わせるときにはずいぶん悩みました。

学校に行くか行かないかで迷ったときは、個人的には「子どもの幸せ」を優先して考えるといいと思います。なぜなら、幼少期の幸せな体験こそが、健全な人間の成長にとって不可欠だからです。

子どもが学校に行って幸せそうだったら、学校に通えばいいでしょう。逆に、苦しくてツラそうだったら、むしろ通わずに、別の学び方を選択した方がいいかもしれません。どんなに素晴らしい教育でも、それによって心が病んでしまっては身もふたもありませんから。

いまは昔と違って、不登校関連の書籍がたくさん出ています。また、ネット上で専門家のセミナーなども開催されています。迷ったときは一人で悩まず、ぜひ不登校に関する情報を取りにいってください。不登校のことが分かれば分かるほど親は安心できますし、親が安心できれば、それが子どもの安心につながっていきます。

世間には不登校を経験して立派に社会に出て活躍している人がたくさんいます。必要以上に不登校を恐れずに、子どもの状態をよく見て、冷静に対処していただければと思います。

 

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この記事を書いたのは…

蓑田雅之|コピーライター
一般社団法人 楽習楽歴 代表理事長。子どもをサドベリースクールに通わせた経験から学校教育のあり方に疑問を持ち、教育分野の研究に着手。「不登校という概念をこの世からなくしたい」という思いから、「おはなしワクチン」の活動を開始。企業や保育園・幼稚園にて、講演を行っている。著書に『もう不登校で悩まない! おはなしワクチン』『「とりあえずビール。」で、不登校を解決する』(びーんずネット)がある 。

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