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2歳で三十三間堂の千手観音と出会い、世界が広がった!

——Rucuさんの仏像との出会いはいつですか?
Rucuさん:はっきり覚えていませんが、ぼくがよちよち歩きの頃から、道端のお地蔵さまにぺこりとご挨拶をしていたとお母さんは言っています。
2歳のとき、京都の三十三間堂でたくさんの千手観音に驚いて「動けなくなっていたんだよ」と、お父さんが話してくれました。その後、仏像のカプセルトイを集めるようになりました。
幼稚園のとき、「将来何になりたい?」と聞かれて「仏師(ぶっし)」と答えたら、幼稚園の先生には「武士」と間違われていました(笑)。 仏像が好きすぎて、幼稚園の園長先生にお願いして仏像の本を置いてもらいました。
「仏活(ぶつかつ)」を始めて、図書館で仏像に関する本をたくさん借りて読んできました。もう、千冊くらいは読んでいると思います。

——すごい、大人も顔負けですね! いちばん好きな仏像と、これから見たい仏像についても教えてください。
Rucuさん:好きな仏像は、千手観音と地蔵菩薩です。京都の三十三間堂に千手観音さまがいっぱいいるなかでも、真ん中の千手観音さまがとくにかっこよくて大好きです。
これから見たい仏像は、いちばんは大阪・葛井寺(ふじいでら)の千手千眼観音菩薩坐像です。やっぱり本で見るのと実物を見るのは違うから。それぞれの手に持っている法具もしっかり見てみたいなと思っています。
——本を見ていると、会いに行きたい仏像がどんどん増えそうですね。

Rucuさん:はい! 本の中で気になる仏さまを見付けたら付箋を貼って、「ここに行きたい」ってチェックしています。
小さいときに、小学館のドラえもんの歴史漫画を読んで、弘法大師・空海に興味を持ちました。それをきっかけに、空海ゆかりの地である高野山に家族で行ったときは、宿坊に泊まり仏像もたくさん拝観できて、すごく楽しかったです。
家族みんなでお寺をめぐる“仏活”が、ぼくの日常です。

仏さまの絵を毎日SNSに投稿──忙しい日々のなかで続けた「一日一仏」
——「仏活」とは具体的にどんな活動ですか?
Rucuさん:最初は、仏像図鑑を見て、会いたい仏さまを探してお寺や展覧会に行くところから始まりました。それから4歳の誕生日にもらった写仏の本がきっかけで、いろんな仏さまを描くようになりました。


最近で印象に残っている仏像は、高野山霊宝館で見た運慶作の八大童子です。見る角度で顔が変わる面白い仏像で、じっと眺めてしまいました。今でも忘れられません。
運慶はぼくが大好きな仏師なので、運慶作の仏像はチェックしています。

そして、東京国立博物館の「タイ 〜仏の国の輝き〜」展や図鑑を見ていて、気になった仏像に会いにタイにも行きました。
アユタヤ遺跡や、いろんな寺院も巡り、少しお顔や体型は違う仏像ですが、仏さまはみんなつながっているなと感じました。


——Rucuさんが一躍注目を集めたきっかけが「一日一仏」プロジェクト。365日、毎日描き続けた「祈りの絵」がすごいです。
Rucuさん:イベントで出会ったイラストレーターのmatsuiさんに「100日続けたら世界が変わる」と言われて、大好きな仏像を毎日描いてみようと決めたことがきっかけです。

——仏さまを描いていて、いちばん楽しいのはどんなときですか?
Rucuさん:自分で思った以上にうまく描けたときがいちばんうれしいです。本当にいいなって思うものができたときは、飛んでいってお父さんとお母さんに見せます!
——とくに、カラフルな色使いが印象的です。仏さまを描くときに色をどう選んでいますか?

Rucuさん:仏さまは、みんな違う光や色を持っているように感じます。
「この仏さまは青だな」とか「この仏さまはピンクが似合いそうだな」というふうに、自分が仏さまから感じたイメージで色を選びます。表情や雰囲気からイメージをふくらませて、ポップで元気な色を選んで描いています。
——素敵ですね。でも、毎日描くのは大変だったのでは?
Rucuさん:はい。習い事もあるし、学校ではサッカークラブもあるので時間がないです。続けるのが大変なときもあったけれど、でも、やっぱりやり続けたいと思って、朝早く起きて描いたりもしました。

——それは忙しい! 学校のお友達と仏さまについて話すことはあるんですか?
Rucuさん:クラスで仏像の図鑑を読んでいたら「それ何?」って聞かれて、「○○仏だよ」って答えたら「かっこいいね、じゃあ友達になろう」って。その日から「仏友(ぶつとも)=仏像友達」になりました。
その子は、歴史にすごく詳しくて、世界の国の名前とかもたくさん知っていて、お互いに教え合っています。
——Rucuさんも、仏さまについて学んでいるから歴史が得意そうですよね。
Rucuさん:まだ学校で日本史は習っていないけど、仏像に会いに行くとお寺の人がいろいろ教えてくれることが、本には載っていないことばかりで興味が出てきました。
明治時代に廃仏毀釈(仏教の廃止、または棄却を目的とした運動)があって、多くの仏像が壊されたことを知って、とてもショックを受けました。だけど、そういう歴史も忘れてはいけないと思うので、仏像と一緒に伝えていきたいなと思います。
夢は、日本の仏像を世界中の人に伝え、仏さまを守ること

——Rucuさんの将来の夢は何ですか?
Rucuさん:今まで千年続いてきた仏さまの世界を、これからも千年守り続けるために、ぼくの絵で仏さまを知ってもらいたいです。
今までたくさんの人が守ってきてくれた大切なもの。子どもの子ども、その先未来までずっとつなげていきたい。だから、もっとたくさんの人に仏さまを知ってもらいたいのです。
——仏像についていろんな人に知ってもらったら、どんな未来になると思いますか?
Rucuさん:とても優しい世界になると思う。
ぼくの絵をインスタグラムで見て、日本の人だけでなく、世界中の人から「癒やされました」とか、「ありがとう」とメッセージをもらいます。それがすごくうれしいです。
仏さまは、いろんな人の気持ちを受け止めて、つなげて、みんなを仲良くしてくれているんだなぁと思っています。
——お話にも癒やされました。これからどんな活動の予定がありますか?

Rucuさん:5月には台湾のイベントに参加します(※現在は終了)。海外では初めての開催になります。オープニングイベントでは、ライブペイントも行います。
台湾の人たちにもぼくの作品を見てもらえることが今からとても楽しみです!
家族で育むRucuさんの「好き」の芽

——Rucuさんが幼い頃から仏像に強い興味を示したことについて、お父さまとお母さまはどのように感じましたか?
お父さん:私も妻も何かに没頭するタイプなので、「この子は仏像なんだな」と、自然に受け入れましたし、全力でサポートしようと思いました。Rucuの活動を通して、植物や自然が好きな私にとっても、新しい世界が広がりました。
お母さん:三十三間堂を訪れた際に、もう一回見る! と走り出したRucuの姿が、今でも忘れられません。あのときに、仏さまの世界と何か深い部分でつながっているのかなと感じました。好きなことに真っすぐな姿勢がいいなぁと感じています。
お父さん:仏さまを中心にして、Rucuの世界がどんどん広がっていくのを感じます。仏像に興味のある人とは、年齢に関係なくすぐ仲良くなれるんです。
お母さん:博物館の学芸員の方や仏像研究者の方々とも、私たちには分からないような専門的なクイズを楽しそうに出し合っている姿には、正直驚かされます。私たちが教えるというより、むしろ一緒に学ばせてもらっています。

——Rucuさんの学校生活と“仏活”の両立についても教えてください。
お母さん:制作については、Rucuが自分のペースで、自分らしく表現できるように、環境を整えることを心がけています。もちろん、学校生活とのバランスも大切にしています。
でも彼の場合は、仏像に対する情熱があるからこそ、ほかのことにも前向きになれているのかなと感じます。「好きなことがある」ということは、それだけで自信にもつながると思うんです。
お父さん:学校の勉強がうまくいかないところもありますが、仏像を好きになったことからの“広がり”がすごいんです。
例えば、好きな仏像がどこにあるのかを調べていくうちに地理に詳しくなり、仏像の時代背景を知りたくなって歴史に興味を持ち、年号を気にするようになり数字を理解し、本や図鑑を読むうちに漢字も読めるようになり……。
点と点がつながって、学びが線になっていく様子はとても面白いなと感じています。
過度に期待しない、導かない。ただ信じて見守る姿勢

——Rucuさんの活動から、ご両親の学びにつながったことはありますか?
お父さん:子どもが夢中になっているその姿から、私たちのほうが学ぶことが本当に多いです。
好きなことに没頭して、自分の力でかたちにしていく。そして、人と世界とつながっていく。その姿に、「夢中になれるものがあるというのは、本当にすごいことだな」と、改めて気づかされました。
学校の評価基準だけでは測れない子どもの才能が、確かにあると実感しています。
お母さん:子育てって、決してテキストどおりにはいかないものですよね。ふとしたときに見せる表情やしぐさを、よく見て、感じて、その子が持っている“種”に気づいてあげることが大切なのかなと思っています。
それが、個性を育てるはじめの一歩なのかもしれません。
クリエイティビティというものは、誰かから与えられるものではなく、内側から自然に湧き上がってくるもの。だからこそ、何かを期待したり導いたりするのではなく、「信じているよ」という姿勢で、そっと見守るようにしています。
子育てはいつも大変ですし、これといったマニュアルはありませんから、その瞬間瞬間を子どもと一緒に楽しんで、面白がったほうがいいね、と家族でよく話しています。“育児は育自”だと、実感しています。

——今後、Rucuさんにはどのように成長してほしいですか?
お父さん:自分の人生を、自分の意思で選べる人になってほしいと思います。そして、いつでものびのびと、自分らしい表現ができる人であってほしい。
まだ11歳ですが、これから先も好きなことを追求しながら、さまざまな経験を重ねていけるよう、親として全力で支えていきたいです。
お母さん:表現のかたちがこの先変わったとしても、自信を持って好きを伸ばしていってほしいです。誰かの心にやさしさや希望の光を運べるような存在になれていたら、とてもうれしいです。
お話を聞いたのは…

仏像をこよなく愛し、仏像とともに日々を歩む11歳。トレードマークは、黄色い螺髪(らほつ)キャップと青い袈裟パンツ。
2歳のとき、京都・三十三間堂で千体の千手観音像に出会い、その静かな迫力と美しさに心を奪われ恋に落ちたことがすべての始まり。
以来、仏像を“ヒーロー”のように慕い、全国のお寺や仏像展を巡る「仏活(ぶつかつ)」を家族とともにスタート。
4歳で写仏を始め、10歳からは「一日一仏」を掲げ、毎日1体の仏さまを描き続け、365日間無欠で完走。
現在は、「心に花さく仏さま」をテーマに、ひとつひとつの仏像と丁寧に向き合いながら、色彩豊かで優しさの宿る仏画を描き続けている。
SNSを通じて世界中の人とつながりながら、仏像の魅力を現代的な感性で発信している。
心に花咲くやさしさを大切に──。
彼の描く仏さまたちは、そっと寄り添うように見る人の心に静かな光を灯してくれる。
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取材・文/ミノシマタカコ
構成/HugKum編集部