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「肖像権」と「パブリシティ権」の違いとは? それぞれの意味と役割
肖像権とパブリシティ権はどちらも大切なものですが、意図せずに侵害してしまうことがあります。肖像権とパブリシティ権の内容と、それらを守るべき理由を説明します。
肖像権とはプライバシー・人格を保護するもの
インターネットやSNSで、肖像権(しょうぞうけん)という言葉を聞いたことはあるでしょうか。肖像とは「人の姿や顔を写した絵・写真など」をいいます。肖像権は、自分の許可なしに自分の顔や体を撮影・公開しないように求める権利です。
肖像は個人情報に当たり、本人の許可を得ずに撮影や公表・拡散されることは、その人に不快感や精神的苦痛、恐怖を引き起こしかねません。肖像権は、そのような精神的苦痛から守るためにあります。
現在はインターネットの利用が当たり前になりました。公表された写真は簡単に拡散されやすく完全に消すことは難しいため、肖像権を守らないと深刻な被害が起こる危険があります。
パブリシティ権とは財産的利益を保護するもの
パブリシティ権は肖像権と重なる部分もありつつ、肖像や名前などの財産的価値に注目しているところが違います。
有名人の肖像や名前などの商品的価値が上がると、その人気によって肖像を使った商品の買い手が増える効果が生まれます。その効果は本人が築き上げた財産の一種とみなされるため、無断で利用されないように保護するのがパブリシティ権です。
そのため、肖像権は全ての人が持つ権利であるのに対して、パブリシティ権が発生するのは主に政治家や芸能人などの有名人に限定されます。
肖像権とパブリシティ権の差は、権利が生じる人間の違いと、守る対象が個人のプライバシーか経済的な利益かという違いです。
侵害した場合はどんなことが起こるか
万が一、自分が肖像権やパブリシティ権を侵害してしまったときはどうなるか不安に思うかもしれません。その場合は主に、損害賠償(そんがいばいしょう)や差止請求(さしとめせいきゅう)の対象になります。
賠償とは、お金などを払って被害の埋め合わせをすることです。不当に肖像権とパブリシティ権を侵害された被害者は、賠償金を請求したり(民法709条)、その行為を中止するよう求められたりします。
また、パブリシティ権の侵害があった場合には、肖像などを使う際に払うはずだった、使用料に相当する金額が損害賠償額として認められやすくなります。思わぬミスによって肖像権やパブリシティ権を侵害してしまわないように、正しいルールを身に付けましょう。
肖像権侵害の判断基準とは? 気をつけたい4つのポイント

インターネットによって肖像権侵害が簡単にできてしまう時代、肖像権への意識がますます重要になっています。ある写真が人目にさらされたとき、肖像権侵害にならないように気をつけたい基本的な判断基準を確認します。
写真などの人物が誰か特定できる
肖像権とは「自分の顔や容姿を無断で利用されない権利」です。そのため、肖像権を主張できる条件の一つは、利用された写真などがその人であるとはっきり分かることです。
肖像権侵害を避けるためには、写っている他の人の顔にモザイクを掛けたりぼかしたりして特定できないようにする方法があります。また、服装や持ち物などから個人が特定できないか確認することも大切です。
背景に入り込んでいる人物や遠くから撮影した人物でも、本人が特定できる状態かしっかりチェックしましょう。
本人から撮影・公表の許可を得ていない
判断基準の二つ目は、本人から撮影・公表の許可をもらっているかどうかです。いわゆる隠し撮りなどの本人に許可を取らない撮影や無断の公表は、肖像権侵害になる可能性が高くなります。
気をつけなければならない点は、インターネットやSNSに投稿する場合、撮影だけでなく公開する許可も必要なことです。使用目的や投稿するSNSの名前などをきちんと説明し、相手に納得してもらうことが大事です。
身内だけが見る写真と不特定多数が見る写真では、許可の判断基準も変わります。後から「そんな話は聞いていない」といったすれ違いでトラブルにならないように、前もって説明しておきましょう。
撮影場所が自宅などの私的空間である
基準の三つ目は、撮影場所が不特定多数に見せることを前提としていない私的な空間かどうかです。自宅のような私的空間での写真撮影は、肖像権の侵害と判断される条件の一つになります。
一方で、コンサートの舞台に立つ歌手や公共の場で働いているスタッフなどは、通常他人に見られることを本人が認めているとみなされます。
ただし、宗教・LGBTQといった社会的な偏見を受けやすいイベントなどは別です。本人が知られたくないか、公表によって何らかの差別を受けかねない可能性があるため配慮が必要です。
SNSなど拡散しやすいところに公表している
肖像権を侵害しているかを判断する四つ目のポイントは、不特定多数の人目にさらされるような場所に写真を公開しているかです。
肖像権は、ある人の顔や姿が本人の知らないところで広められ利用されるのを防ぐものなので、ただ友人に見せたというくらいではあまり問題になりません。
例えば、SNSに個人が特定できる写真を投稿した場合、不特定多数の人が容易に閲覧・拡散できるようになります。
多くの人目に触れる場所に写真などを公開する際は、他の三つの条件が守られているかチェックしましょう。
パブリシティ権を侵害したか判断される基準

好きな芸能人やスポーツ選手のポスターやグッズを買ったことのある人は多いでしょう。もしパブリシティ権を守らない商品を買えば、本人の利益を妨げることになります。有名人の写真や名前などについて、パブリシティ権の侵害になる基準を見ていきます。
肖像そのものを商品・広告として利用しているか
パブリシティ権の侵害となるパターンは主に3種類あります。一つ目のパターンは、有名人の写真や絵そのものを商品にする場合で、ブロマイド写真やポスターが代表例です。
二つ目は、商品の差別化に利用する場合です。例えば、普通のカレンダーや文具などのグッズに、有名人の写真を使って価値を高めると侵害に当たります。
三つ目は商品広告として利用するパターンで、その有名人が愛用しているとキャッチコピーに書いたり顔写真を使ったりする例が挙げられます。
もちろん、写真や名前などを利用する前に、きちんと許可をもらっている商品なら売り買いに問題はありません。
出典:肖像権に関する代表的な判例 | 肖像権について考えよう!|一般社団法人日本音楽事業者協会
パブリシティ権の侵害になりにくいもの
逆に、パブリシティ権の侵害になりにくいものは、有名人の人気のみでお客さんを増やすことが目的ではないケースです。
例えば、社会的事実を伝えるための報道や本人の伝記です。報道は、その情報の新しさや社会性自体に価値があると考えられます。伝記は写真以外の本文に価値があり、写真は補助的な説明要素とみなされます。
ただし、財産的な利益を守るパブリシティ権の侵害には当たらなくても、プライバシーの侵害になるケースもあるため、肖像権とパブリシティ権の両方を守る意識を持ちましょう。
他人の氏名や肖像を使うときに注意すべきこと

家族や友達と一緒に楽しい思い出の写真を撮ったら、SNSで他の人に見せたくなるかもしれません。そんな大切な写真が誰かを傷付けることのないように、安心して投稿するためのルールをチェックします。
基本的に相手の許可を取る
たとえ親しい相手によるものでも、勝手に自分の顔や姿を撮影されたり公開されたりするのが嫌な人もいます。
基本的に、写真撮影やその公表などをするときは、相手から許可を取ることが大事です。知り合いに見せる分には問題ないと思う写真でも、不特定多数の人が見るSNSでは公表されたくない場合もあるでしょう。
一方、有名人であっても、亡くなった人のパブリシティ権は法的にまだ確立していません(2025年7月時点)。ただし、その人の社会的評価を下げたり偽の情報を広めたりして、遺族の心情をひどく傷付けた場合には不法行為とされる可能性があります。
肖像権とパブリシティ権を侵害していないかチェックする
SNSに写真や絵を投稿するような場合は、肖像権とパブリシティ権を侵害していないか常にチェックする習慣を身に付けましょう。
注意しないと、その気がなくても他人のプライバシーや財産を侵害してしまう恐れがあります。背景や小物などにも、相手の氏名や住所などの個人情報が入っていないか注意が必要です。
背景に写り込んだ通行人など、本人の許可を得られない場合は、ぼかしやマスキングなどで人物が特定できないように加工すれば対応可能です。後ろ姿や顔が映らないシルエットはあまり問題になりません。
肖像権・パブリシティ権を侵害しないルールを学ぼう
肖像権とパブリシティ権は、個人のプライバシーや財産を守るためのものです。これらの権利を守るには、肖像権侵害の4つのポイントや、パブリシティ権侵害の3つのパターンを覚えて、いつも意識することが大切です。
普段から肖像権とパブリシティ権を守る姿勢を身に付ければ、何気なく投稿した写真が問題を引き起こすといった事態を防げます。お互いにルールを守り、皆で気持ちよくインターネット利用を楽しみましょう。
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構成・文/HugKum編集部
