高齢出産の意味と世界の状況
高齢出産とは何歳からをいうのでしょうか? 自分ではまだまだ若いと思っていても、高齢出産に入ってしまうかもしれません。まずは高齢出産の意味と、高齢出産に関わる世界の状況を見ていきます。
主に35歳以上から「高齢出産」という
医学的には35歳以上の初産を「高齢初産婦」と定義しており、一般的にも35歳以上の出産を高齢出産と呼びます。あるいは、35歳以上の人が初めて産む場合や、40歳以上の人が2人目以上を生む場合を指すこともあります。
妊娠適齢期とされるのは25~34歳ごろで、この時期は女性ホルモンの分泌量が多いため、妊娠しやすく出産のリスクも比較的低いのが特徴です。つまり、高齢出産は妊娠適齢期に比べてリスクが高いので、しっかり準備する必要があります。
日本の平均出産年齢は上がっている
厚生労働省の2023年分「人口動態統計月報年計(概数)」によれば、第1子を出産した女性の平均年齢は、2023年で31.0歳でした。35~39歳の出産は23.9%で、35歳以上の人全体を合わせると、約3人に1人が高齢出産となります。
OECD(経済協力開発機構)によれば、アメリカやドイツなどの先進諸国における妊婦の平均年齢は、30歳以上が多くなっています。
計算の基になったデータは、カナダが2016年、イギリスが2020年、それ以外の国は2021年分です。妊婦平均年齢が高い順に、韓国(33.4歳)・イタリア(32.4歳)・日本(32.2歳)となり、日本は先進国の中でも高めだと分かります。
出典:令和5年(2023) 人口動態統計月報年計(概数)の概況 PDF3、6~8|厚生労働省
:日医総研リサーチレポート PDF6~7|日本医師会総合政策研究機構
高齢出産のメリットは何か?

まずは高齢出産のメリットについて考えます。経済面でゆとりを持ちやすいことや、出産・育児とキャリアが両立しやすいといったメリットについて挙げてみましょう。
経済面でゆとりを持ちやすい
日本の企業は、年齢や勤続年数が高いほど役職や給与が上がる傾向にあります。経済的にゆとりがあれば、出産や育児にかかる費用に悩まずに済みます。
高齢出産のメリットには、経済的にゆとりを持ちやすく、利用できるサービスの幅が広がる傾向があることが挙げられます。
人生経験の豊富さから、出産を前にしても精神的にも余裕を持てるかもしれません。出産経験のある友人によって、妊娠・出産、育児に関わる情報を得たり相談に乗ってもらったりもしやすいでしょう。
キャリアを築いた後に出産・育児ができる
高齢出産が社会的に増えた一因は、女性の社会進出にあるといわれています。20~30代の妊娠適齢期には、仕事に打ち込んでキャリアを優先する女性が多く、一段落して出産を考えると高齢出産になりやすいためです。
妊娠・出産・育児に伴う休職や復職には、依然として多くの課題が残されています。しかし、ある程度のキャリアを積んだ後なら、そうでない人に比べて復職や満足のいく転職がしやすくなるでしょう。
高齢出産のリスクとは何か?

高齢出産のリスクにはさまざまな種類があります。年齢が上がり妊娠適齢期を過ぎることで、妊娠・出産におけるハードルが上がってしまうためです。母親にかかるリスクや赤ちゃんにかかるリスクを4つの面からチェックします。
合併症や帝王切開になる確率が上がる
国立研究開発法人「国立成育医療研究センター」が分析したところによると、高齢出産は合併症になるリスクが上がります。基になったのは、公益社団法人「日本産科婦人科学会」の周産期データベースです。
30~34歳の妊婦に比べて、45歳以上の妊婦は「妊娠高血圧腎症」や「前置胎盤」などの合併症の発症リスクが約2倍に高まります。
合併症のリスクは年齢や生活習慣などによって上がるため、リスクを抑えるには検診による早期発見と適切な対応を心掛けましょう。
また、高齢出産では自然分娩(ぶんべん)のリスクが高くなりがちなので、安全な出産を行うために帝王切開が選ばれることも多くなります。
出典:高齢出産は高リスク? 35歳以上での妊娠・出産の注意点を解説|国立成育医療研究センター
赤ちゃんの健康・発育に関わるリスク
日本産婦人科医会によれば、高齢出産は赤ちゃんの染色体異常が起きやすいようです。例えば、染色体異常によって赤ちゃんがダウン症になる確率は、20歳代の出産なら約1,000人に1人ですが、40歳になると100人に1人になります。
ただし、99%はダウン症にならないと考えれば、それを高いと感じるかは人によるでしょう。
生まれてくる子どもが適切な治療やサポートを受けられるように、出生前診断でダウン症の可能性を調べることもできます。
出典:高齢妊娠って何歳からですか?|公益社団法人 日本産婦人科医会
難産や流産の可能性が増える
日本産科婦人科学会の「第2回妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」(2019)によれば、25歳以降は妊婦の年齢が上がるほど、流産・死産の確率が高くなる傾向です。
35歳以降も高めですが、40歳以降はさらに急激に上がっていきます。流産・死産率が上がるのは、胎児の染色体異常や母体の合併症が影響していると考えられています。
また、高齢出産になると、加齢に伴って産道や子宮口の柔軟性が低下しやすくなります。合併症が難産の原因になることもあり、適齢期に比べてどうしても難産の可能性も上がってしまいます。
産後の回復に時間がかかる
産後の回復に時間がかかるのも高齢出産の特徴です。出産後は、胎児の成長とともに広がった子宮が収縮して元に戻るものですが、高齢出産のときはそれがうまくいかない場合があります。
回復が思うように進まず、母乳が出にくくなったり「産後うつ」になったりするケースもよくみられます。
出産前後のトラブルが多いと母親の体に負担が大きくなるので、年齢的に産後の回復には時間がかかると考え、産後の日常生活や仕事への復帰は焦らないほうがよいでしょう。
高齢出産に備えてできること

妊娠適齢期に比べると、高齢出産のリスクが高いのは事実です。具体的なリスクを知ってショックを受ける人もいるでしょう。一方で、無事に高齢出産を乗り切った人は大勢います。高齢出産に備えてできる対策を紹介します。
生活を改善し体調を整える
高齢出産のためにできる準備の一つ目は、体調を整えることです。高齢出産にありがちな妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病は、規則正しい健康な生活を送ることでリスクを下げられます。
十分な睡眠は、心身の回復・ホルモンバランスの安定にもつながります。健康維持のためには、1日3食の栄養バランスの取れた食事と、週に150分程度の適度な運動を心掛けることが推奨されています。
お酒・タバコ・大量のカフェインを避け、赤ちゃんの体を作る葉酸・タンパク質・鉄分・カルシウムを含んだものを食べるなど、出産に向けた体調管理を実践しましょう。
出産前の検査をしっかり受ける
妊娠準備となる二つ目は、妊娠・出産しても大丈夫か健康チェックを受けることです。代表的なものには、通常の健康診断・子宮頸がん検診・乳がん検診・風疹抗体検査があります。
妊娠した場合は、定期的な妊婦健診をしっかり受けることで、高齢出産のリスクである妊娠高血圧症候群・妊娠糖尿病などを早い時期に発見し対処できるでしょう。前もって、高齢出産の合併症などに対応した病院を検査の場所に選ぶと安心です。
早めの情報収集とストレスケアが必要
初めての出産や高齢出産は、勝手が分からず不安になりやすいものです。赤ちゃんの健康管理や育児の情報はもちろん、高齢出産の場合はリスクと対策、利用できるサポートについて早めに知っておくとよいでしょう。
加えて、妊娠・出産、その後の子育てにおいて、母親のストレスケアは母親の健康だけでなく子どもの健康のためにも重要です。
休む時間がないと思うかもしれませんが、少しの時間でも自分がリラックスできる時間を持つのがコツです。ストレスが続くと自律神経やホルモンバランスの乱れ、ひどいときは「産後うつ」につながる可能性があります。
情報収集や不安解消は、医者・助産師に相談したり信頼できる専門サイトで調べたりする方法があります。同年代の出産・育児経験者に話を聞くのも役に立つかもしれません。
高齢出産はしっかりした事前準備が大事
高齢出産は、妊娠適齢期に比べてリスクが高い選択です。合併症や産後の回復の遅さといった母親のリスクと、赤ちゃんの健康・発育に関わるリスクの両方があります。
とはいっても、女性の社会進出が進んでいる先進諸国では高齢出産が珍しくありません。その中でも日本は平均妊娠年齢が高めです。
高齢出産のメリットは経済やキャリアの面で余裕を持ちやすい点です。高齢出産を選ぶならプラス面を生かし、しっかり準備をしてリスクを抑えましょう。
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構成・文/HugKum編集部
