「オシャレ、洗練」だけがデザインではない!【デザインあ展neo】グラフィックデザイナー佐藤卓さんが説く“日常をより良くするデザイン思考”の育み方

NHK Eテレで放送中の『デザインあneo』は、テレビ番組を通じて子どもたちにデザインの面白さを伝えています。そのコンセプトを体験できる企画展「デザインあ展neo」が虎ノ門ヒルズ・TOKYO NODEで2025年9月23日(火・祝)まで開催中。

3期目となる展覧会は「動詞」をテーマに、自分のからだを使って体験できる作品が展示されています。展覧会での体験で、普段何気なくしている行為にもデザインが関わっていることに気づくことができるはず。

番組の総合指導・展覧会の総合ディレクターを務めるグラフィックデザイナーの佐藤卓さんに、「デザインとは?」「デザインマインドの育み方は?」など、たっぷりと伺いました。

デザインとは「気遣い」。何かと何かをより良くつなぐもの

――まずはデザインになじみのない人たちにもわかるように、デザインとはどういうものかを教えてもらえますか?

佐藤卓さん:まずお伝えしたいのが、デザインと関わりのない物ごとは何ひとつないということです。

日常生活で言うと、髪型やメイク、ファッション、それから食もデザインです。道路の横断歩道や信号もそうですし、右側通行や左側通行など人や車が安全に走行し、街が機能するためのルールもデザインに含まれます。このように、様々なデザインが複合的に組み合わさって社会生活が成り立っています。

その上でデザインについて説明すると、「気遣い」が近いと思っています。例えば、歩道の真ん中に石があるとします。そのまま放っておくと誰かが石につまずいて転んでしまうかもしれません。そこで、石を歩道の端に移動させて誰かがケガをするリスクを回避する。この一連の行動のように「先を想像して、今のうちに何をしておくといいのか」を実行することがデザインです。

――「気遣い」と聞くと、デザインがぐっと身近に感じられます。

佐藤さん:デザインというと、何か新しいものを生み出すイメージを持たれている方が多いですが、実はそうではありません。これまでの仕事を通じて、デザインは「何かと何かをより良くつなぐもの」だと実感しています。つなぐ目的は様々で、「無駄がないようにする」「スムーズに動けるようにする」「心地よくなるようにする」「気持ちを高めてもらう」などがあります。

私は日本語教育の番組「にほんごであそぼ」(NHK Eテレ)のアートディレクションも担当していますが、この場合のデザインは「素晴らしい日本語」と「子どもたち」をテレビ番組でつなぐ「間(あいだ)」の役割を担っています。両者をつなぐときは、それぞれを気遣う必要がありますからね。

「デザインあ展neo」にて

――見た目がかっこいいものや、わかりやすく形作られたものがデザインだと思いがちですが、それだけではないのですね。

佐藤さん:まったくその通りで、日本ではデザインに対し「かっこいいもの」「洗練されたもの」「有名デザイナーが手がけたもの」というイメージを持たれていますが、それらはデザインのごく一部。デザインが誤解されていると感じます。

例えば、「デザイン家電」と呼ばれる家電がありますが、そのカテゴリに入らない家電にも必要なデザインが施されているので、この表現は正しくありません。それから、見た目だけではなく、使い勝手もデザインに含まれます。ですから、「使い勝手はいいけどデザインがイマイチ」と聞くと、デザインを見た目だけのものと捉えていると感じます。

誰もがデザインをしながら生きている

――佐藤さんは、ご著書などで「デザインマインド(デザイン的思考)」を育む重要性を説かれています。それはどういうことでしょうか?

佐藤さん:プロのデザイナーだけがデザインをしているわけではなく、ごく当たり前に生活をしている人は、みんなデザインをしながら生きています。ただ、「デザインをしている」という認識があるかどうかの違いです。

日常生活だけではありません。仕事の企画書を例に挙げると、伝えたい内容をぎゅうぎゅうに詰めるのではなく、相手が読みたくなるようにレイアウトや文字の大きさなどを工夫する必要があります。これらは誰もが経験することですよね。

白黒部分の幅が違う3種類の横断歩道。日常にあるデザインについて考えるきっかけに

見えないところや当たり前の生活を支えているところに、無数にデザインがあります。「デザインの視点」が自分の中に入っていると、これまで目に留めなかったものに目を向けられるようになり、「これはデザインかな」と考えるきっかけが増えるでしょう。そして、「もう少し良くしよう」と思えたり、自然と工夫が生まれてきたりします。

このようなデザインマインドを小さい頃から育んだ方がいいと思い、2011年にNHK Eテレで『デザインあ』をスタートさせました。

――『デザインあ』は大人も子どもも楽しめる人気番組になり、展覧会も今回で3期目です。番組を展覧会に落とし込む上での苦労はありましたか?

佐藤さん:いえ、テレビ番組と展覧会ではメディアがまったく違います。テレビ番組の場合、視聴者が使う機能は目と耳くらいですが、展覧会では体のセンサーを全部使ってもらえます。ですから、番組をそのまま展示に置き換えるのではなく、デザインをテーマに、触ったり、遊んだりできる体験型の展覧会を考えました。

素晴らしいクリエイターの方々と一緒にやっているので、アイデアはいくらでも出てきますし、展示のネタに関して困ることはなかったですが、今回は3期目ということで難しい部分はありましたね。

2013年に東京ミッドタウン内にある「21_21 DESIGN SIGHT」で開催した最初の展覧会では、誰も体験したことがない空間を実験的に作り、2期目は前回の内容をアップデートした展覧会をしました。ところが、3期目はそうはいきません。

私は、普段から人の想像を心地よく裏切ることを大切にしていますが、ただ2期回の内容をアップデートするだけでは、訪れた方の想像通りになってしまいます。映像ディレクターの中村勇吾さんたちとも「3は難しいぞ」と話していました。

「すてる」をテーマにした作品

ただ、ミーティングで「動詞」というテーマがあがってからは、みんなが様々なアイデアを持ち寄って「いかに面白いものを作れるか」に夢中で取り組みました。子どもに戻ったような感覚でしたね。

日常の「困った」や「かわいい」の理由を分析することがデザインマインドを育む

――子どもが展覧会で体験したことを日常に落としこむために、親にできることはありますか?

佐藤さん:親御さんがデザインを誤解していると、子どもにもその情報が刷り込まれてしまいます。まずは、親御さんたちにデザインの概念を壊してほしいです。「デザインってなんだろう」と考え直していただくのがいいでしょう。

例えば、日常的に使っている物に対して困りごとや使いづらさを感じたとき、そこには何かしらの原因があります。すぐに買い替えたり、取り替えたりするのではなく、「なぜ使いづらいと感じたんだろう?」と一度考えてみることが大切です。そこには必ず理由があり、自分で気が付いたことは一生の財産になるんですよ。そういうことが積み重なっていくうちに、デザインマインドが自然と育まれます。

子どもが好きなキャラクターがあれば、「なぜこのキャラクターをかわいいと思うのか?」を一緒に考えてみるのもいいでしょう。虫に興味を持って、なぜ虫にひかれるのか理由を分析しているうちに、生物学者になる可能性もあるかもしれません。

スクリーンの中の映像と体験者のからだの動きが連動する「DO IT!」のコーナー

――やはり、子どもの好きなことや興味のあることから始めるといいのでしょうか。

佐藤さん:それは基本ですね。そのときに心がけてほしいのは、親が子どもの好奇心にフタをしないこと。邪魔をしない、と言い換えてもいいでしょう。例えば、道を歩いていて子どもが何かに注目したときに、「行くよ」と手を引っ張って興味から引き離すのではなく、少しそっとしておく。もしくは親も一緒になってその世界に入ると、子どもは喜びます。

まずは親御さん自身が「夢中になっているものがあるのか」を自分に問いかけた方がいいと思います。親が何かに夢中になっていたら、子どもは気になりますから。大人が夢中になって楽しんでいる姿を子どもに見せてあげてください

展覧会を通じて「当たり前の日常の面白さ」に気づいてほしい

――デザインマインドを育むことが、子どもたちの成長にどのように影響すると考えていますか?

佐藤さん:子どもたちがどういうふうに育ってどんな大人になるのかは人それぞれだと思いますが、ただ、「デザインの種」は、大人が渡してあげた方がいいんじゃないかと思います。デザインの種が、その子の中でどう育って生かされていくかは無限の可能性があります

世の中は目まぐるしく変化し、私たちが想像できないような社会になっていくと思います。環境問題も避けては通れない課題で、「自分さえ良ければいい」という考えでは解決できません。「どうしたら少しでもいい環境になるのか?」を考えるときに、地球上の人間や動物、植物などへの気遣いは必要となるでしょう。その際、デザインマインドは必ず役に立つと思いますよ。

――「デザインあ展neo」は、体験した人がデザインの視点を持つきっかけになる展覧会だと感じました。

佐藤さん:それはうれしいです。展覧会を通じて、子どもたちには「当たり前の日常って結構面白いね」と気づいてもらいたいので、そういう可能性があるなら開催した意味があると思います。

「デザインあ展neo」で日常にある無数のデザインに気づくきっかけを

「デザインマインドを身につけると、より心地良くなったり、楽しくなったりする」と佐藤さん。親子で一緒に育むことで、「こういう言い方をしたら子どもはどう思うか」などの気遣いもできるようになり、コミュニケーションにも変化が見られるかもしれませんね。

まずは「デザインあ展neo」の展示を体験し、デザインの種を受け取ることから始めてみてはいかがでしょうか。

開催概要

名称:デザインあ展neo
会期:2025年9月23日(火・祝)まで
開館時間:平日 10:00~19:00(7月19日以降、9:00開館)、土日祝日 9:00~19:00(入場は閉館の30分前まで)
※ただし各月第一 ・ 第三水曜日は17:00閉館(16:30最終入場)。9月17日(水)は19:00閉館
会場:TOKYO NODE GALLERY A/B/C(虎ノ門ヒルズ ステーションタワー 45F)
料金(日時指定制):2,500円(一般)、1,200円(高校生/中学生)、1,000円(小学生)、500円(2歳以上)、無料(2歳未満)
※小学生以下の入場には保護者の同伴が必要。 ※障がい者の介助者の方は1名無料。
特設サイト:https://exhibition-ah-neo.jp/

お話を聞いたのは…

佐藤卓 グラフィックデザイナー

1979年東京藝術大学デザイン科卒業、1981年同大学院修了。株式会社電通を経て、1984年佐藤卓デザイン事務所(現 株式会社TSDO)設立。
「ニッカウヰスキー ピュアモルト」の商品開発から始まり、「ロッテ キシリトールガム」、「明治おいしい牛乳」のパッケージデザイン、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」のグラフィックデザイン、「金沢21世紀美術館」、「国立科学博物館」、「全国高等学校野球選手権大会」のシンボルマークデザインなどを手掛ける。また、NHK Eテレ『にほんごであそぼ』アートディレクター、『デザインあ』『デザインあneo』総合指導、21_21 DESIGN SIGHT館長、京都芸術大学学長を務める。
展覧会に、「water」「文人展」「デザインの解剖展」「デザインあ展」など。著書に、『塑する思考』(新潮社)、『大量生産品のデザイン論-経済と文化を分けない思考-』(PHP新書)など。

取材・文/畑菜穂子 撮影/黒石あみ

こちらの記事もおすすめ!

【デザインあ展neo】子どもの好奇心と学習意欲を刺激しまくり!からだいっぱいで楽しむ展覧会が虎ノ門ヒルズにて開幕!
子どもの頃からデザインマインドを育むきっかけとなる展示構成 テレビ番組「デザインあ」で総合指導を担うグラフィックデザイナーの佐藤卓さ...

編集部おすすめ

関連記事