夏休み明け、子どもが「学校に行きたくない」と言ったときの対応はどうすればいい? NGワードは? 不登校の子どもを持つ親をサポートする専門家に聞いた!

不登校の子どもを前に、どう接すればよいのか悩む親は少なくありません。現在不登校の親子のサポートを行っている鈴木理子さんも、中学3年生だった末娘の不登校をきっかけに、親子関係を見直したと言います。自身の経験から見えてきた「やってはいけない言葉かけ」や「関係修復の第一歩」、そして夏休み明けの不登校にどう向き合うべきかを伺いました。

お子さんの不登校をきっかけに親子関係のコミュニケーションを見直すことに

――鈴木さんは不登校や引きこもりなどのお子さんを持つ親御さんをサポートする活動をされていますが、ご自身もお子さんの不登校を経験されたのですね。

鈴木さん 私には3人の娘がおりますが、現在25歳になる3番目の娘が中学3年生のときに不登校になりました。娘は中高一貫校に行っていたのですが、そこから高校3年生くらいまではその状態が続いていました。最初の1、2年は私も苦しくて苦しくて、胃に穴が空きました。娘が不登校になる前は、周りで不登校の話を聞いても「休ませれば、きっと元気になるよ」などと言っていましたが、いざ自分ごととなるとこんなに苦しいのかと思いましたね。

――親子関係も悪化していったとご著書に書かれていましたね。

お子さんの不登校が親子関係を見直すきっかけに(写真はイメージです)。

鈴木さん そうなんです。親子関係がどんどん悪化していって、これではいけないと気づきました。学校に行くかどうかも大事だけれど、まずは娘との関係を取り戻そうと思ったんです。それまで私は企業研修の講師として、コミュニケーションの講座を行うという仕事をしていたのですが、自分の家庭では全くそれを活かせていないということに気づいたんです。そこから、娘と丁寧なコミュニケーションを取るように意識したら、娘がどんどん元気になっていったんですよね。並行して、心理学などの学びも深めていくと、親子関係についてよくわかるようになってきました。その後、娘は高校を卒業して大学に進学し、大学で4年間楽しみ尽くして今は社会人になっています。

――ご著書のタイトルに「元・しくじりママ」とありますが、鈴木さんがお子さんへの対応で「しくじった」と感じるのはどのような点でしょうか?

鈴木さん 細かい対応で言えば、本当にしくじりだらけでした(笑)。1番よくなかったのは、子どもの気持ちを全く考えていなかったこと。当時の私には自分の過去の経験に基づく”幸せな道”のようなものがあって、娘を何とかその道に連れてこようとしていたんですよね。子どもが今どんな状態で、何を考えているのかということを見ようとしていなかった。のちに娘から「私が学校に行けなかった頃、ママがなんで嘆き悲しんでいるのか、なんでママが背負い込んでいるのか本当にわからなかった。私の人生なのに」と言われたんです。この言葉は1番ガツンときましたね。自分の人生と娘の人生を一緒にしていたことは、最大のしくじりでした。

――とはいえ、やはり親としては子どもの人生が心配になってしまいますよね。

鈴木さん 親として心配する気持ちはもちろんあるのですが、「自分の考える道に当てはまっていない娘はかわいそう」のように考えていたのがよくなかったですね。その根底には、これだけ社会が大きく変化しているにも関わらず、親の私の方がアップデートできていないという現状があったのだと思います。子どもが不登校になったとき、「このまま娘がニートになったらどうしよう」などと考えていましたが、今は働き方も生き方も選べる時代。冷静になって考えてみれば、不登校とニートはまったく別問題なんですよね。

不登校の子どもにプレッシャーを与えてしまうNGワードは?

――不登校の子どもに対して避けた方がよい対応や、声かけがあれば教えてください。

鈴木さん 本でも書きましたが、受講者の方にもまずこれを言うのをやめようとお伝えしてるのが「明日は学校に行くの?」という言葉です。親としてはとにかく学校に行かせなきゃという気持ちがあるので、この言葉が出てしまうのだと思います。でも正直なところ、子ども自身も明日学校に行くかどうかはわからないんですよね。だから聞かれても「わからない」しか言えないですし、でもそう言うと「はっきりしなさい」と言われるし、「行かない」といえば面倒臭いことになるから、とりあえず「行く」と言っておく。でも翌朝になるとやっぱり起きられない。そうすると親は「裏切られた!」と思ってしまうんです。私も何度も同じことをやっていました。

――親の都合でこの言葉を発してしまっているということですね。

鈴木さん 「明日は学校行くの?」と聞かれることは、子どもにとってプレッシャーでしかないんですよね。中高生だと明日のお弁当を作ってよいのかどうかも気になりますよね。作ったのに「行かない」と言われたらがっかりしてしまいます。でもお弁当は家で食べてもいいし、親が食べてもいい。もし買っていくのがOKの学校なら、手作りのお弁当は作らなくてもよいかもしれません。

――子どもからの反応にがっかりしないということも大事ですね。

鈴木さん そうなんです。子どもからの反応に一喜一憂しないことが大事ですし、不登校の子どもを持つ親御さんは特に「想定内」を広げておくことをおすすめします。「明日は学校に行くはずだ」と思い込んでしまうと、行かなかったときにがっかりしてしまいます。でも「行くと言ってるけど、明日はどうなるかわからない」とあらゆることを「想定内」にしてしまえば、それほどがっかりもしなくなります。親ががっかりしていなければ、子どももその表情を見て安心できるんです。

――どうして学校に行きたくないのかなどと理由を聞いた方がよいですか?

鈴木さん 「なんで学校に行けないの?」もNGワードです。いじめや、先生と合わないなど明確な理由がある場合もありますが、特にこれといった理由はなく学校に行けなくなっているお子さんの方が多いと感じます。我が家の場合も、友達との関係が引き金にはなっているのですが、あくまでも引き金にしかすぎません。私も、「友達と仲直りしたのに、なんで学校に行けないの?」と聞いてしまったこともあります。そのように「なんで」を繰り返し聞かれると、子どもは責められているように感じてしまうんですよね。本人も「なんで」がわからずに苦しんでいるのに…

また、小学校低学年くらいのお子さんだと、まだ自分の状況や気持ちを言語化することが難しくて、思いついたことを言ってしまうこともあります。親としては理由を聞いたらそれを取り除いてあげたいという気持ちになるのですが、理由がわからない、話したくないというときは、質問攻めにするのは避けた方がよいです。

――何気ない一言で親子関係をさらに悪化させてしまうこともあるのですね。

鈴木さん そうですね。私も娘が学校に行けないときに、「世の中には学校に行きたくても行けない子もたくさんいるのに」とか、「ゲームばっかりやっていたら勉強が追いつかない」「早く寝ないから、朝起きられない」というような正論を言ってしまっていたんです。でも子どもって全部わかっているんですよね。わかっているのに正論を言われるのはとても苦しいんです。不登校の子どもたちは目に見えなくても大きなエネルギーを使って、自分を守るための選択をしているんだと思います。ですから、親が問題を解決してあげると考えるのではなく、まずは身近にいる親御さんが味方になってくれると思える関係作りが何より大切だと思います。

親子関係を改善する第一歩は、口を挟まず「聴く」ことから

――鈴木さんは親子関係を改善させるために、どんなことから始められたのですか?

鈴木さん 最初にしたのは、本当の意味で「聞く」ということですね。子どもって親の言葉よりも表情や態度のような非言語情報を読み取っているので、口先の言葉だけではなく、子どもに安心感を持ってもらうような態度でいることを心がけました。例えば娘が昼間に起きたとしても「おはよう」とあいさつする。ご飯を一緒に食べないとわかっていても「ご飯できたよ。今日はあなたの好きな○○を作ったよ」と声をかけてみる。そこで子どもが反応しなかったとしてもがっかりしないで、あいさつをしたり、名前を呼んだりするということを繰り返しました。

名前を呼んであいさつすることは、子どもの自己肯定感を高めることにもつながる(写真はイメージです)。

それから少しずつ雑談ができるようになってきたときには、どんな雑談でも、真剣に聞くということを心がけていました。娘からネガティブな言葉が出てきたときに、以前の私だったら途中で「でもね」とか、「そうは言っても」と口を挟んでしまっていたんですよね。そういう言葉は封印して、娘のちょっとした話も一切遮らず、共感的に聞くようにしました。

――忙しいと、子どもの話をちゃんと聞けていないことも多いです。

鈴木さん 相手のことを否定せず、真剣に聞くだけで、信頼関係の第一歩ができるということを体感しました。受講生さんからも、ちゃんと聞くことを意識するだけで、子どもの態度が変わったという話はよく聞きますね。忙しいお母さんが自分の話を聞いてくれたとわかるだけでも、子どもは自分を大切にしてくれていると感じるのだと思います。

夏休み明けの不登校は、理由を聞かずに休ませて。親も一喜一憂しないことが大切。

――夏休み明けに「学校に行きたくない」と言ったり、不登校になったりするというケースもあるかと思います。そのようなときは、親としてどういった対応をするのがよいでしょうか。

鈴木さん 我が家の娘も中3の夏休み前から不登校になりました。親としては突然その日が来たように思うかもしれませんが、子どもが「学校に行けない」と言った時点では、すでに頑張り続けて、「もう無理」となってしまっている可能性が高いです。ですから、そのような場合は、理由を聞かずに休ませるということが大事なんです。「今日は頑張ってみようか」とか「送っていくから行ってみよう」などと言うのではなく、「行きたくないって気持ちを伝えてくれてありがとう」のように、お子さんに共感することがとても大事です。今の親御さんは不登校のことを調べていらっしゃる方も多いので、2、3日くらいは理由を聞かずに我慢できるんですけど、1週間ほど過ぎると、やっぱり焦ってくるんですよね。でも先ほどお伝えしたように、「明日は学校に行くの?」と聞くのではなくて、親子の関係作りの方に重きを置いていただきたいです。

――反対に、不登校の子が「2学期から学校に行く」といった場合、親はどのように見守るのがよいでしょうか。

学年問わず、2学期から不登校になる子どもは多い(写真はイメージです)。

鈴木さん:不登校の子が学校に行ったときに、思わず「今日は学校行けてえらかったね」のように褒めてしまうこともあると思うんです。でも、これだと「学校に行けるから褒められるのであって、行けないのはダメなんだ」というふうにとられてしまうんです。不登校の子は自己肯定感が下がっていることも多いので、そういったことを敏感に感じてしまいます。ですから、学校に行くことになっても喜びすぎないで、「今日は行くのね」「いってらっしゃい」くらいの感じで送り出してあげてください。帰ってきてからもどうだったか聞きたくなってしまいますが、そこは抑えて「お疲れさま」「久しぶりで疲れたね」くらいの声かけでよいと思います。先ほどもお伝えしましたが一喜一憂しないことですね。

――頭では理解していても、先ほどからお聞きしたようなNGワードを言ってしまいそうで心配です…。

鈴木さん:私も何度もしくじりを繰り返したのでわかります。でも、それは「失敗した」と思う必要はないんです。そもそも、そういう言葉が出てしまうのは、私たちの中に刷り込まれた思い込みや固定観念のようなものが反応しているんですよね。だから、これをアップデートしていくことが大切なんです。受講生の皆さんも「私が変わらないと!」とおっしゃるんですが、「あなたが変わる必要はない」と伝えています。ただ、私たちの中にあるデータをアップデートすることで親も子どもも楽になって、余計な一言を言いたくなる気持ちもなくなると思います。悩んでいるときはSNSなどを見て視野も狭まりがちですが、もっと広く情報を得ることで視野を広げてみてください。子どもを見る目も変わり、無理に「これは言ってはダメだ」と言葉を我慢をしなくても、自然体で接することができるようになるはずです。

――不登校の子どもを持つ親御さんへメッセージをお願いします。

鈴木さん:不登校の子どもを持つ親御さんの中には、「自分のせいで」とか、「育て方が悪かったんじゃないか」とか罪悪感を持たれている方もたくさんいらっしゃいます。お子さんに愛情があるからこそ、どうにかしなきゃとプレッシャーを抱えているのだと思います。でも、不登校を親の問題と考えていても何も解決しないんです。1番大切なのは親御さんが落ち着いていることなんです。子どもは非言語情報の部分を敏感に見ているので、親が困っている様子を見ると、「自分が親を困らせている」と感じてしまいます。親御さんもここまですごく頑張って子育てしてきた方だと思うので、深呼吸して、少し一緒に休むような気持ちでお子さんと向き合ってみてください。

――ありがとうございました。鈴木さんのご著書『元・しくじりママが教える 不登校の子どもが本当にしてほしいこと』には親子関係を改善するための具体的な方法がたっぷり紹介されています。ぜひ読んでみてください。

鈴木 理子 株式会社すばる舎 1,650円

2023年度の不登校の小中学生は約34万人。前年度から約4万人も増加しました。小学生の不登校は9年前の約4倍、社会に出られない若者は約40万人(高校生含む)にのぼります。最近では親子関係の悪化による痛ましい事件も目につきます。本書は子どもの不登校への対処法として、従来の子どもへのアプローチだけではなく、親の意識や思考のクセに着目しました。約600名の親・子との対話から見えてきた、不登校タイプ別の接し方について、余すところなくお伝えします。母親・父親が自らの在り方を見直し、子どもと共に未来へ向かって立ち上がるためのヒントとなる1冊です!

お話を伺ったのは

鈴木 理子 一般社団法人家族心理サポート協会 代表理事

株式会社ファミリータイズ代表取締役

慶應義塾大学文学部卒業。

国内航空会社で国際線客室乗務員として8年間従事した後、研修講師として独立、約15年で延べ2万人以上をサポート。自身の三女が中学3年生で不登校になり、学んできた心理学、カウンセリング、コーチングなどを活かして親子のコミュニケーションを徹底的に見直す。娘は元気になり、希望の大学に無事合格。4年間大学生活を楽しみ尽くした後、現在は社会人として自分の道を歩き出している。この経験を基に、「家族に笑顔を取り戻すKET 理子塾」と題した親子心理・コミュニケーション講座を主宰している。現在までに延べ約600名が受講し、多くの親子が笑顔に戻るお手伝いをしている。復学を目的にはしていないものの、受講後1年後の復学・就職率は約93%に上る。経験者目線、母親目線の講座は定評があり、受講生アンケートでは99%から高評価(5段階評価の5と4)を受けるなど、多くの親の支持を得ている。

 

家族に笑顔を取り戻すKET 理子塾 HP

Instagram @riko_empasio

取材・文/平丸真梨子

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