5人兄弟のハニワ!? “国宝ハニワのヒミツをさぐろう!” 『図鑑NEOアートはじめての国宝』刊行記念文化講演会レポート【片桐 仁さん登壇】

8月3日(日)東京国立博物館 平成館で、小学館の図鑑NEOアート『はじめての国宝』の刊行記念文化講演会イベント、”国宝ハニワのヒミツをさぐろう!”が開催されました。予想をはるかに上回る応募数で、当選倍率がかなり高くなったという話題のイベント! 古墳時代に思いをはせる子どもたちが上野に大集結しました。
古墳時代の専門家・山本亮さんと、俳優&アーティスト・片桐仁さんの楽しくも学びの多い掛け合いをレポートします。

古墳時代のスペシャリストがハニワの魅力をナビゲート!

今回のイベントには、東京国立博物館 学芸研究部調査研究課考古室 主任研究員の山本 亮さんと、俳優だけでなくアーティストとしての顔も持つ片桐 仁さんが登壇。

山本さんは日本考古学が専門で、特に古墳時代のスペシャリスト。ハニワ愛に溢れるお二人が、熱く詳しくハニワの秘密や魅力に付いて解説してくれました!

(左)山本 亮さん、(右)片桐 仁さん

国宝って何?

山本さん:この東京国立博物館は日本でいちばん古い国立博物館で、150年前(1872年/明治5年)に建てられました。この中には12万件もの文化財があるのですが、そのうち89件が国宝になっていて、入れ替わりで展示されています。ぜひたくさんの国宝を見て帰ってくださいね。

国宝とは、日本の歴史や文化を物語る上で極めて価値が高いものであり、世界的に見ても貴重な文化財のことです。これらは単なる美術品ではなく、過去から現在へと続く日本の社会や文化の成り立ちを理解するための入り口となる大切な“文化遺産”です。

国宝を知ることは、他の多くの文化財への興味や関心を広げるきっかけとなりますので、ぜひその魅力を楽しみながら学んでいただければと思います。過去の人々が残したものを理解することで、現代の我々の生活や社会のルーツを知ることができるのです。

今回は、国宝の中でも私が専門としている古墳時代に作られた、「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」というハニワについてお話ししていこうかと思います。

「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」は、最初に国宝になったハニワでもあります。ほかにも4件国宝になっているのですが、それらは他のハニワとセットになって国宝になっています。このハニワについては、この1件だけで国宝になり、美術的な価値も評価されているものです。

“土偶”と“ハニワ”の違いって?

山本さん:ところで片桐さん、土偶とハニワの違いってわかりますか?

片桐さん:まずは時代が違いますよね? 縄文時代が土偶で、古墳時代がハニワですよね。それと大きさとかも違いますよね。

山本さん:そうなんです。土偶は縄文時代に作られた呪術的な道具であり、誰にでも手にすることができるお守り的な存在だったのに対し、ハニワは古墳時代だけに作られ、当時の王様のような権威がある人のお墓である古墳の上に並べられ、古墳の下に眠っている王様を守る役割があったわけなのです。

土偶は比較的小さく、数cm〜40cm程度。多くは女性をかたどっています。一方、ハニワは比較的大きく、最大で2m40cmもの大きさのものも見つかっています。さらに、人物だけでなく、動物や家などの建物の形など多様な種類があります。新しいタイプのハニワは、最初に奈良や大阪の古墳で作られ、日本各地に広がったとされているのです。

また、ハニワは土の中に埋められたのではなく、わざわざ古墳の上に建てられていたので、古墳を見る人たちに何かを伝える役割もあったと言われています。

国宝ハニワ「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」にフォーカス

「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」は5人兄弟!?

山本さん:ここ(壇上)に置かれている2体のハニワは、ハニワの中でも最も有名な「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」という名前がついているハニワのレプリカです。

本物は、2017年から2年以上かけて解体修理を行いました。そのときにいろいろなことがわかりました! 去年のハニワ展に来てくださった方は覚えているかもしれませんが、バラバラにすることでパーツごとに調べることができ、今まで以上に研究が進みました。

ちなみに、解体修理前と後とでの違いってわかりますか?

片桐さん:えー何だろう…。この剣みたいなものが折れていますよね? これかな?

山本さん:そうです。これは剣ではなく弓なんです。左の顔の横に棒のようなものが伸びているのですが、これを復元しました。

この「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」のほかにも、4体のハニワが見つかっていることから、5人兄弟と呼ばれています。ほかの4体全てが弓を担いでいることから、学術的に弓で間違いないだろうということで、弓を復元をしました。

ハニワってどうやって作っていたの?

山本さん:ハニワは全身をまとめて成形されるのではなく、複数のパーツに分けて段階的に組み上げて作られます。特に下の方の粘土が重みで崩れないよう、下半身を先に作って、ある程度乾燥させてから上半身を接合するなど、乾燥の管理がとても大切だったと推測されています。

まず土の中に埋めてしまう土台を作り、それから下半身を積み上げて成形し、ドレープみたいに見える、甲の細かな表現なども作り込んでいきます。この土台が丸い筒のような形のものが多かったので、ハニワ(「埴」は焼き物を表しており、「輪」は筒を表している)という名前がついたとも言われています(古墳の周りを輪っかのように囲んでいたからだという説もあります)。

完全に乾かすと次の粘土が付かなくなってしまうため、適度な湿度を保ちながら乾燥させていたのではないかと思います。そして、乾燥させた下半身の上に、上半身や腕などのパーツを接合していきます。表面の線や模様は、粘土が柔らかいうちにヘラのような道具で描いていたんですね。

「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」は、130cmくらいの大きさなので、小学校低学年のお子さんくらいの大きさです。ただ粘土は形成した後に焼くと、10%以上収縮してしまいます。そう考えると、制作時の大きさはこの大きさよりも一回り大きく、150cmくらいはあったのかもしれませんね。

本物を修復して、作り方や色がわかった

山本さん:みなさんが本や写真で見たことがある「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」は、茶色のものだと思うのですが、それは実際に残されているものの写真です。本物の「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」は、戦後いちど修復されています。接着剤や充填材(石膏など)が劣化し、構造的に弱くなっていたため、2017年から2年以上にわたる大規模な解体修理が行われました。

解体する前に、美術品用のCTスキャンを使って全体的な構造を把握します。粘土の厚さや空洞、過去の修復箇所、表面では見えないような亀裂なども可視化することができました。土に埋まっている間に生じた傷や、損傷なども確認されています。これらを知ることで、構造的に弱い部分がわかり、移動させるときなどの破損事故を防ぐことができるんです。

そして、いよいよ解体修理がスタートしました。約100個のパーツに分解され、内部や接合部の詳細な調査をしていきました。解体したことで、普段は見られないハニワの内部を直接観察でき、内壁には粘土を積み上げる際に指で撫でつけた跡や、木の板のような道具で内側を整えた際の木目がくっきりと残っており、職人の手仕事の痕跡が明らかになりました。

外側はきれいに仕上げられていますが、内側には制作過程がわかるような跡があり、これが約1500年前の職人の技術を知る直接的な証拠です。

古墳時代のヨロイは銀色!?

また分析の結果、ハニワには色が付けられていることがわかりました。表面の黒い付着物は顔料ではなく、出土された土壌の中に含まれるマンガン(特にこのハニワが作られた群馬県太田周辺では多い)でしたが、そのほか微かに残る顔料からは、白、赤、グレーが使われていることが判明しました。

ハニワが着ている甲(ヨロイ)の紐の部分は、酸化鉄が多く含まれる赤い土を用いて赤く塗られています。この後の時代に書かれた、日本最古の歴史書である『日本書紀』にもヨロイにつける紐を“赤紐”と書かれていることから、古墳時代からずっと伝えられていたということがわかりました。

片桐さん:そう聞くと、古墳時代の人もおしゃれですね!

山本さん:古墳時代のヨロイの研究では、戦国時代のヨロイのように漆で黒く塗られていたと考えられてきました。ですが、どのパーツを見ても漆を塗ってあるものはなく、最近ではグレーで色を塗られていることがわかってきたので、鉄を磨いた銀色のヨロイを着ていたのではないかと考えることが多くなりました。

ヨーロッパの歴史に出てくるヨロイのように、細かい鉄の板を貼り付けて作っているようなものだったのかもしれませんね。

片桐さん:偉大な人の古墳の上で、最新のファッションのハニワが守ってくれていたのですね!

親子で国宝にハマる機会に

今回のイベントでは、「挂甲の武人(けいこうのぶじん)」について、詳しくみていきましたが、博物館の中には他にもたくさんのハニワや国宝が展示されています。国宝って難しいと思っている方でも、『小学館の図鑑NEOアート はじめての国宝』をあわせて読んでみると驚きと発見があり、その魅力に惹き込まれていきます。

「子どものために図鑑を購入したけど、自分がハマってしまった」「親子で読んでいるうちに国宝にハマりました」という声も多い話題の図鑑。

ぜひ図鑑で気になる国宝を見つけ、東京国立博物館に足を運んでみてはいかがでしょうか。

小学館の図鑑NEOアート はじめての国宝

小学館の図鑑NEOアート はじめての国宝

小学館|2970円(税込み)2025年2月19日発売

A4変型判 258ページ ISBN9784092172678

「国宝」をテーマに日本美術を取り上げます。絵画・彫刻・工芸品・建築を中心に、約250点の国宝を、子どもの興味を引くテーマに分類して掲載。

日本列島の長い歴史のなか、人々に守られ受け継がれてきた国宝に触れることで、子どもたちにわが国ならではの美術作品の鑑賞の楽しさを知ってもらうとともに、日本文化への理解を深めることができる1冊です。

<ナビゲーター>
⬛︎山本亮さん
東京国立博物館 学芸研究部調査研究課考古室 主任研究員

⬛︎片桐仁さん
俳優・造形作家

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