性と健康の正しい知識を学ぶ「プレコンセプションケア」、家庭でできることは?性犯罪の報道を見ながら、親子で話し合うことも大事。【専門医監修】

「プレコンセプションケア」は、2006年に米国疾病管理予防センター(CDC)の政策として誕生。その後、世界保健機関(WHO)が2012年に「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しました。こうした流れを受けて、国立成育医療研究センターでは2015年に「プレコンセプションケアセンター」を開設。設立に携わった、女性総合診療センター女性内科診療部長 荒田尚子先生に、小学生から家庭で始める「プレコンセプションケア」について教えてもらいました。

「プレコンセプションケア」とは?

「プレコンセプションケア」(以下プレコン)とは、プレ(pre)は英語で「~の前の」。コンセプション(conception)は受胎、新しい命を授かることです。つまり妊娠前からの健康管理のことで、近年注目されているヘルスケアのこと。

生涯に渡る身体的・精神的・社会的(バイオ・サイコ・ソーシャル)に健康な状態であるための取組みとして、日本においては、「性別を問わず、適切な時期に、性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行う概念」として、今年、こども家庭庁が普及のための5か年計画をまとめました。

子どもに「プレコン」を教えるのは家庭が中心

「プレコン」は、子どものうちから始めるのが理想ですが、小学校や中学校、高校の授業で教えることはほとんどありません。保健体育の授業で性や体の変化、妊娠・出産、性感染症などについては教えますが、「プレコン」という視点から見ると十分とは言えません。なかにはSNSで性に関する情報収集をする子どももいますが、誤った情報も溢れています。そのためママ・パパが正しい情報を、子どもに伝えてほしいと思います。

無理なダイエットはNG! 小学生から適正体重について教えよう

「プレコン」というと、「性交渉や避妊について子どもに教えなくてはならないの?」と考えるママ・パパもいるでしょうが、年齢に応じた内容から始めてほしいと思います。

たとえば小学生から教えてほしいことの1つに適正体重があります。女の子は、無理なダイエットを続けることで、なかには月経が止まる子どももいます。

また近年、低出生体重児増加の原因は、妊娠年齢が高くなっていたり、多胎妊娠の増加だけでなく、やせている女性が増えていたりすることも一因とされています。赤ちゃんが小さく生まれると、さまざまなリスクがあります。将来を見据えて、適正体重については小学生のうちから子どもにきちんと教えてほしいと思います。

栄養の話も「プレコン」の分野。女性にとって葉酸は大切な栄養素

子どもと栄養の話もしましょう。たとえば妊娠初期にビタミンB群の1種である葉酸が不足すると、おなかの赤ちゃんの神経の形成がうまくいかない神経管閉鎖障害をおこしやすくなることが知られています。

好き嫌いしないで栄養バランスよく食べることに加えて、早いうちから葉酸をとることの大切さや意識してとることを教えましょう。神経管閉鎖障害のひとつである二分脊椎症は、生まれつき脊椎(背骨)の形に異常が見られ、下半身の運動障害や感覚障害などを引き起こすことがあります。葉酸は、ブロッコリー、枝豆、ほうれん草などに含まれていて、妊娠前から食事に加えてサプリメントで摂取することが勧められます。

月経が始まったら、かかりつけの婦人科を見つけましょう

女の子は月経があれば、かかりつけの婦人科を見つけることも勧めます。ママのかかりつけの婦人科でもよいですし、ママ友だちから評判のよい婦人科を聞いてもよいでしょう。子宮頸がんワクチンの相談・接種や月経痛がひどかったり、修学旅行などで月経を遅らせたりしたいときなどをきっかけに受診してみましょう。

婦人科というと内診台を躊躇するママもいると思いますが、子どもの場合は必ずしも内診台が必要なわけではありません。不安なときは、まずはママ1人で婦人科を受診して、看護師や医師に相談しましょう。子どもが「婦人科にはもう行きたくない!」とならないように、子どもの気持ちに寄り添ってくれる婦人科を見つけてください。

19歳が14歳と性行為をしたら、19歳は処罰の対象に

ここまでの話を読むと、「プレコンって男の子には関係ないの?」と思うママ・パパもいるかもしれませんが、もちろん男性も対象です。

男女問わず避妊や性感染症については、もちろん時期が来たら教えてほしいのですが、小学生のうちから「不同意性交」とはどういうことなのかを教えて、子どもを性犯罪から守ってほしいと思います。性犯罪の報道を見ながら、親子で話し合ってもよいでしょう。

また、2023年7月に性犯罪の刑法が改正されました。13歳未満の者に対するわいせつな行為や性交等の一律処罰に加えて、13歳以上16歳未満の者に対するわいせつな行為や性交等も、被害者より5歳以上年長の者によって行われる場合は、一律処罰の対象とされました(=性交同意年齢は原則として16歳以上)。本人の同意があったとしても罪に問われてしまうのです。

「何を教えればいいの?」と悩んだとき「まるっと まなブック」などを参考に

性交渉や避妊については、親子で話しづらいという家庭は多いと思います。そのためまずは適正体重や栄養の話、性犯罪の話などから始めてみるとよいでしょう。

「プレコン」は、ママ・パパが知らないこともあると思うので、厚生労働省科学研究班監修の「まるっと まなブック」などを参考にするのも一案です。 ママ・パパが先生役になって教えるよりも、「まるっと まなブック」を親子で一緒に見ながら、ともに学ぶほうが子どもも受け入れやすいのではないでしょうか。

「まるっと まなブック」はライフステージごとに用意されており、子どもに向けたものは、5歳から8歳に向けたレベル1から、9歳から12歳の思春期のレベル2,13歳から15歳の思春期のレベル3、15歳から18歳以上のレベル4まであります。

レベル1:5~8歳 小児期
レベル2:9歳~12歳 思春期

「プレコン」は、幼児期からのスタートを視野に

「プレコン」は、小学生になって急に始めるのではなく、できるだけ幼児期から教えていきましょう。幼児期は、性に関する絵本などを通して人に触られたり、見られたりしてはいけないプライベートゾーンを教えたり、人との適切な距離感を教えることから始めるとよいでしょう。幼児は、過度に恥ずかしがらないので、ママ・パパも教えやすいと思います。

国立成育医療研究センターでは、毎年、世田谷区内在住の4~6歳児(未就学児)と保護者を対象に、心・体・性に関するワークショップを行っていますが、そうした催しに親子で参加するのもおすすめです。

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記事監修
国立成育医療研究センター 荒田尚子先生
医学博士。女性総合診療センター女性内科診療部長。広島大学医学部卒。専門は、内分泌・代謝学(特に妊娠に関連した糖尿病、甲状腺領域)、母性内科学。日本内科学会認定 内科専門医。日本内科学会認定 内分泌代謝科専門医・指導医、評議員ほか。

取材・構成/麻生珠恵

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