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芸人活動のモチベーションが尽きて…次にやりたいことは「子どもと関わる仕事」だった
――小澤さんは、お笑いコンビ「ピスタチオ」を解散後、どのような活動を?
小澤慎一朗さん(以下、敬称略):コンビを解散しまして、正直に言うと芸人活動は今していないんです。芸人を続けるには「売れる」、つまりテレビに出るというところをめざすのですが、そのモチベーションがなくなってしまって。
次に何をやりたいかなと考えたとき、「そう言えば昔から子どもが好きだったな」と思い出したんです。そんなときにたまたまSNSを見ていたら、芸人1年目くらいで辞めてしまった同期が「保育士募集中」という投稿をしていたんです。
「保育士、いいな」と思って久しぶりに連絡をとってみたら、彼が働いていたのが放課後等デイサービス、いわゆる「放デイ」だったんです。そこで「アルバイトで入ってみない?」と誘ってもらったのが始まりですね。

――とても珍しい転職ですよね。放課後等デイサービスは、障がいのある子どもたちを受け入れている福祉サービスですが、実際に行ってみてどんな印象を受けましたか?
小澤:僕が働いていた施設には、重度の障がいがある子はいませんでした。それでも、僕はこれまで障がいがある子どもたちに積極的に触れてきたわけではないので、最初はどう接していいか分からなかったんですよね。
でも、職員として触れ合ううちに、障がいがある子も、健常の子も、そこまで大きな変わりはないことに気づいたんです。というのも、僕が初めて行ったときに、小学2年生のダウン症の男の子が、僕の言うことだけ聞かなかったんですよ。それを他の職員に相談したら、「あの子はすごく人を見ているから、試されているんだよ」って言われて(笑)。
――あはは。その子には全部見抜かれていたんですね。
小澤:はい(笑)。僕が変に気遣ってしまっていたことを、逆に気づかれていたんだと思います。
もともと、僕は人に強く言うことが苦手で、ちゃんと注意ができず悩んでいました。それで周囲に相談したら「小澤先生は無理に怒らず、優しさでいったほうがいいんじゃない? それが先生の色だと思うよ」とアドバイスをもらって。
お片付けも、楽しんでできるように競争を取り入れたり、一緒に遊びながら教えていくうちに、子どもたちのほうからお絵描きに誘ってくれたりするようになって、すごくうれしかったのを覚えています。

――対等に遊んでくれる先生は、子どもも好きだと思います。
小澤:ダメなことはダメだと伝えること、対等に接することが大事なんだと放デイの子どもたちに教わりました。
車で送迎をしているときに、ある知的障がいのある子どもがシートベルトを外してしまったんですね。そのとき、本当に危ないのでしっかりめに叱ったら泣いてしまって。
でも、「どうしてこんなに叱っているのか、なぜシートベルトを外すことがいけないのか」をちゃんと説明したんです。「君を守るためにやっているんだよ」と何度も言いました。それをその子のお母さんと職員に説明した翌日、その子が「昨日はごめんなさい」と謝ってきてくれたんです。
なぜダメなのか、説明したことをしっかり理解してくれていて、「ちゃんと伝わるんだ」とすごくうれしかったんですよね。
――知的障がいがあるからと言って、伝わらないと決めつけるのは絶対によくないですよね。
小澤:本当にそう思います。
障がい者も健常者も、大人も子どもも。みんなで楽しめる「ボッチャ」を広めたい
――小澤さんは、障がいの有無に関係なく楽しめるパラリンピック正式種目“ボッチャ”を広めるために「ボッチャで遊ぼう」というイベントを開催されています。ボッチャの魅力はどんなところにあるのでしょうか。
小澤:ボッチャほど、簡単で奥深く、楽しいスポーツはないと思うんです。だからこそ、障がいの有無も関係なく、大人も子どもも楽しめるんですよね。
先日もボッチャのイベントを開催したんですが、子どもと芸人の仲間が本気で対戦して、ボロボロに負けたり、本気で挑んで子どもがドン引きしたり…(笑)。そうやってみんなで楽しめるイベントはこれからも続けていきたいですね。

どうしても障がいのある子どもたちと触れる機会がないと、どう接していいか分からないところもあると思うんです。そんなときこそ、ボッチャが健常者・障がい者の垣根を越えて、みんなで楽しめるんじゃないかなとも思っているんです。
まだ僕のボッチャのイベントに障がいのある子の参加はないんですが、これからどんどん参加してもらいたいですね。
――ボッチャの魅力を広めるイベントはもちろん、今後は放課後等デイサービスでの勤務経験や、自身の子育て経験を生かした活動を続けていかれるのでしょうか?
小澤:放課後等デイサービスで働いていたときに、障がい児を育てるお母さん・お父さんの考え方にたくさん触れたからこそ気づいたことや、普段障がいのある人と触れていない人たちが、“どう接したらいいのかな”と思ったときに参考になること、“壁は意外とないよ”ということを発信していきたいと思ったんです。
それに、僕には今、4歳の息子と1歳の娘がいるんですが、放課後等デイサービスでの経験は、自分の子育てにもすごく役に立っているんですよ。
放課後等デイサービスで働いた経験が、自身の子育てにも生きている
――たしかに、分かるように伝える、楽しみながら教えるということは、どんな人にも使える育児ハックですよね。
小澤:そう思います。先日、息子が娘を叩いちゃったことがあったんです。そのときにただ強く叱るのではなくて、一度隣の寝室に連れて行き、落ち着くまで「自分がやったことはなぜ悪かったのか」「どうしてそうしてしまったのか」「なんでごめんなさいと言えないのか」を一人で考えさせるようにしたんです。
――放課後等デイサービスで言う、「クールダウンスペース」ですね。
小澤:はい。僕はその隣の部屋で様子をうかがっているんですが、息子はそこでブツブツと考えるんですよね。そのときに気持ちを整理することで、「そうか、悪いことをしたからごめんなさいと言えばいいのか」と言って、分かったのか部屋から出てきて「ごめんなさい」って言ってきたんです。
そうやって何が悪くて、何が良かったのかということをちゃんと自分で考えさせることを大事にするようになりました。

――決して閉じ込めるのではなく、考えるスペースを用意するということですよね。
小澤:その通りです。家事をしたり仕事をしたりしながら育児をしていると、どうしてもストレスがたまりますし、イライラすることもあります。でも、パパもママも一度冷静になることで整理できますよね。パパやママにとってもそのクールダウンスペースに入ることはすごく大事なことだと気づきました。
――今、小澤さんが子育てをしていて楽しいと思うのはどんなときですか?
小澤:何をしていても楽しさを感じますが、そう言えば、最近子どもが賢くなってきたのか、ウソをつくようになってきたんですよ。
「なんでこんなことをしたの?」と聞いたら、「バイキンマンがやれって言った」と言っていて(笑)。あまりにかわいいウソに最初はほほえましく思ってしまったんですが、これは放っておいてはいけないと思い、注意をしたんです。でも、ただ頭ごなしに注意をするのではなく、ちゃんと理由を聞いてから伝えるようにしています。
いい意味で周囲を巻き込みながら、子育てを楽しみたい
――そして、小澤さんは「神奈川住みます芸人」としても活動されています。
小澤:僕は今、逗子に住んでいるんですが、海も近くて子育てにとても向いているんです。都心にもアクセスしやすいですし、なによりも自然が素晴らしいんですよ。
ただ、僕は虫がとっても苦手なんですが、子どもたちはこの環境で育ったからか、虫も普通につかみますし、とにかく楽しそうなので引っ越してきてよかったなと感じています。
あとは、昔ながらの街のようで、近所付き合いが濃く、顔見知りがどんどん増えていくんです。都会に住んでいた頃は、こういったことがなかったのですごく新鮮ですね。
――今はリモートなどでお仕事ができる人も増えましたし、すごくおすすめの場所ですね。
小澤:そう思います。自然を近くに感じられますし、人とのコミュニケーションも都会より色濃くなるので、子育て家庭には特におすすめですよ!

――では最後に、子育て中のお母さん、お父さんにメッセージをお願いします!
小澤:僕も今、絶賛子育て中なので何が正解か不正解かは分からないです。でも、親だけが自分の子どもを育てているわけではないので、周りをいい意味で巻き込みながら、楽しく育児を頑張っていきたいですよね。
というのも、僕は親の影響で芸人をめざしたわけではなく、中学のときに出会った友だちに誘われて芸人になったんです。そんな経験からも、親が子どもの人生について全ての責任を感じることはないと思っているんです。
みなさんも自分を追い詰めることなく、ある程度余白を持ちながら、楽しんで育児をしていきましょう!
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お話をうかがったのは…
1988年9月15日生まれ、東京都葛飾区出身。吉本興業所属。NSC東京校13期、2007年デビュー。2010年、同期の伊地知⼤樹と「ピスタチオ」を結成し‟⽩⽬漫才”でブレイクを果たすも、2022年5月に解散。以降はピン芸人として活動しながら‟⼦どもに携わる仕事に就きたい”と児童指導員の資格を取得。放課後等デイサービスでの勤務経験や自身の⼦育て経験を活かし、児童福祉や育児に関するメディア出演や、パラリンピック正式種⽬でもあるスポーツ「ボッチャ」を⼦どもたちに広める活動を続ける。神奈川県逗子市在住で「神奈川住みます芸人」としても活動。趣味・特技はスキューバダイビング、ボッチャ、ダーツ、ゲーム。
取材・文/吉田可奈