「叩かれて育ったから、娘には同じ行動はしない」SNS総フォロワー18万人・あぴママさん。子どもの心を傷つけず、「母を生きのびる」ためにできること。

SNSで大きな共感を集めるあぴママさん。現在14歳になる娘・あぴちゃんとの日常の発信を続ける中で、2025年8月には書籍『母を生きのびる本』も出版されました。あぴママさんにインタビューし、あぴちゃんの幼少期に感じた葛藤や、「怒らない育児」について、また著書に込められた思いなどを伺いました。

「母と同じ子育てはしない」ゼロから子育てのパターンを作る日々

――あぴママさんがマンガを描くようになったきっかけを教えてください。

あぴママさん:私は娘(あぴちゃん)が生後2ヶ月頃から保育園に預けていまして、もともとはいわゆるバリバリのキャリアウーマンでした。仕事に自分の意識が向いていたので、マンガなんて描く気もなかったのですが、娘が小学4年生の頃に仕事を辞めることになりまして。同じ頃、偶然お店で4コマノートを見つけて、日記みたいに娘が言ったことや起こったことを記録するようになったんです。

そのマンガを自分で読み返すと、めちゃくちゃ面白かったんです(笑)。それで当時20代だった年下の友達に見せたら、「私には全然面白くないし、わからない。でもこういう育児マンガをインスタに投稿している主婦が結構いて、みんな楽しそうだよ」と入れ知恵をしてくれたんですよ。それがきっかけでマンガを投稿するようになりました。

――あぴちゃんが2歳くらいの頃、「自分がお母さんからされたように行動しないのがキツかった」と書かれていました。その頃のエピソードをお伺いできますか。

あぴママさん:あぴちゃんは自由な子でしたから、物を壊したりとか、暴れたり、スーパーでバタバタしたりすることもよくありました。

子どもっていうのは「自然」なものですよね。反対に都会は人工的なもの。「人工」を前提とした場所で、「自然」っていうのは受け入れがたいものなんですよ。そして親というのは人工の立場にいて、自然なものが、自然な行動をすると困るんです。物を壊されたらムカつくし、暴れたら「なんなの?」って思うのが親ですよね。つまりは結局、大人も子どもも「自分の思い通りにならないのは嫌」っていう心の反応だけなんです。どんなときもそうなんですよね。課題がなんであれ、本質にあるのはそれなんです。

『母を生きのびる本』P.51より

あぴママさん:そのときにどのように行動するのか。たとえば、私の母は自分の思い通りにならないとイライラして子どもに手をあげるとか、過激な行動に走りがちな人だったんです。

人間の行動は、若ければ若いほど、自分が見てきた人の行動を模倣する部分があると思うんです。つまり、「思い通りにならなかったときに叩く」というのが行動様式だった人と大半の時間を過ごしてきた人間は、その人と同じような行動パターンをとるようになると考えています。

ですから、私もあぴちゃんが思い通りにならなかったら、叩くっていうのが自分のパターンとして最初はあったわけですね。でも、そこから脱出するというのが「成熟」だと思うんです。“これまで接してきた人の総体の質がよくなかった”…そういう人たちは、自分で自分をトレーニングしなきゃいけないんですよね。自分で自分をゼロからトレーニングするというのは、すごく大変なことです。

――あぴママさんはどのようにご自身を「トレーニング」されたのでしょうか?

『母を生きのびる本』P.82より

あぴママさん:「我慢する」ということだと思います。今まで接してきた人の総体が自分になっているのと同時に、今現在の自分の態度というのは、24時間前の自分のあり方を表現しているのだと思います。だから、たとえば、今子どもを叩かずに我慢できたということは、24時間後に指し示す態度を決定づけていると考えています。

ですから、「今、気持ちを抑えてやり過ごす」ということを積み重ねていました。

「怒ってしまった」「叩いてしまった」というママの相談にあぴママさんはどう答える?

――あぴママさんが子育てをする上ではじめに意識したのはどんなことですか。

あぴママさん:これは難しい質問です。私は非常に感覚的な人間で、物事を始めるときに計画書を作らないんですね。ただ、作家の森巣博さんの『無境界家族』というエッセイを読んだときに感じたことがあって。それは、森巣さんの息子さんが読んだ卒業式のスピーチについて書かれていた箇所で、お母さんは「○○してくれてありがとう」という言葉をいくつか並べていたのに対して、父である森巣さんには「ただその辺にいてくれてありがとう」という言葉でスピーチを締めくくったそうなんです。

森巣さんの奥さまは学者のエリートでしたから、子育ては森巣さんがされたそうなのです。息子さんとしては、お父さんがただ隣にいてくれた、その事実がすごくありがたいことだった、という風に締めくくっているわけですね。

「何かをしてくれたというわけではなく、ただそこにいてくれた」。それっていいなと当時思ったんです。だから、私も娘に対していろいろなことをしてあげる、教えてあげる、お金を稼いであげる…のではなくて、隣にいてそのまま自分の生活をするみたいな関係性がいいなと思ったのを覚えています。

――書籍の中に「怒らない育児」という章がありますが、あぴママさんの考える「怒らない育児」とはどんなものでしょうか?

あぴママさん:フォロワーさんからも、「怒ってしまった」「叩いてしまった」とご相談をいただくことがよくあります。基本的に私は、どういうあり方でもいいと思っているんですね。怒ってもいいじゃないかと。ただ私が言いたいのは、この「怒る」「叩く」とか、表面上の行動に注目している限り、本質は変わらないんじゃないかということです。

『母を生きのびる本』P.59より

あぴママさん:大事なのは、今ここに表れている関係性というか、今ここに私と娘がいて、どういうものが行き交っているのか、ということだけなんですね。だから怒ってもいいと思うんです。

もし、目の前の子が悲しんでいるとか、傷ついているとか、疲弊しているとか、そういう状況があるのであれば、自分を変えてみないといけないですね。「怒らない育児」という言葉は、目の前にいるわが子に不穏な空気が流れているときに、自分自身をどうやって顧みたらよいか、という糸口を提案しているだけなんです。

子どもを大事にすることは自分を大事にすること。母を生きのびよう。

――どうしたら冷静に自分の心の中を見ることができますか?

あぴママさん:最初にお伝えしたように、親は「人工」の側にいますから、1つのあり方に子どもを押し込めないといけない立場にありますよね。しかし、子どもは「自然」な存在だから、やりたいことをやっているだけ。

たとえば、子どもが長時間ゲームをしているのを見たときに、大人の長期的目線で言うと、目が悪くなるとか頭が悪くなるとか、いろいろ言いたくなるのだけれど、子どもにとっては関係ない。非常に迷惑でしかない。反発しか生まないわけですよね。今ここで強制的に行為をやめさせることはできるけれども、私と娘の心のつながりがよくないことになるのが想像できる。

『母を生きのびる本』P.90より

あぴママさん:結局、相手を変えることの鍵を握るのは心のつながりしかないんですよね。心のつながりが太ければ、ちょっとした言葉とか振る舞いとかで伝わるものがあって、年齢を重ねれば重ねるほど、強く機能することを実感しています。

あぴちゃんは非常に手のかかる子でしたし、YouTubeは見放題、勉強もしない、泥まみれのような子でした。でも「後伸び力」がすごい。心のつながりをずっと大事にして、相手のことを考えながらやってくると、中学以降すごく楽ですね。ずっとこちらを見ているし、反抗しているふりをしていても、耳はこちらに向いているんですね。だから、ギリギリまで子どもを信じて、絆を太くしていくという方向に注力するのがいいんじゃないかなと思うんです。

――「子どもに怒ってしまう→自己嫌悪」というスパイラルに陥らないためにはどうしたらよいでしょうか。

あぴママさん:これに関しては、実践的解決を提案するしかないなって思うんですよ。要は家事が多い、こなさなければならないことが多い、かつ子どもの面倒を見なければならないという現状が、こういうことに悩む方にとってのデフォルトであると思います。

『母を生きのびる本』P.124より

あぴママさん:じゃあ、それをどう解決していくかっていうと、自分としては、心の問題とかじゃなくて、状況をテクニカルに解決していくことだと思っているんですよね。私も子育てがすごく大変だったときは、食洗機やロボット掃除機を導入して、夕食は同時調理ができるオーブンレンジを使っていました。なのでスイッチボタンを押したらあぴちゃんと遊ぶというような生活でしたね。

今は時代が変わって、いろんな情報がいろんな本で手に入れられると思いますから、そういうアプローチを本当にした方がいい。もともと私の母が、粗食の人で、家事もちゃんとしない人だったんですよ。洗濯は父にさせるとか、「省力エコの家事」をデフォルトでやる人でしたから、その母の家事スタイルを継承しているので、家事に対するハードルはめちゃくちゃ低いんです。

――最後に、ご著書『母を生きのびる本』のタイトルに込めた思いを教えてください。

あぴママさん:この本に書いたのは、子どもがいかに傷を少なくして大人になってもらうか、というマンガたちです。子どもと母親ってつながっているんですよね。それだけじゃなくて、自分とみんなはつながっている。

ですから、目の前にいる子どもを傷つけない、子どもの心を大事にするということは、自分を大事にすることと同じなんです。子どもの心を自然なまま、手を入れないまま成長させることが「生きのびる」ということであり、“子どもが生きのびること=母を生きのびる”ということです。この本を今、不安な人、傷だらけの人に届けたいと思っています。

――ありがとうございました。あぴママさんのご著書『母を生きのびる本』は、育児を頑張り、もがく母たちをそっと支えてくれるとともに、自分の心の中を見つめるきっかけを与えてくれる本です。ぜひ読んでみてください。

あぴママ 大和書房 1,870円

ついに出た!
SNS総フォロワー18万人、100万以上読まれた投稿数知れず、
書籍化を待望されていた「あぴママ」の初著書!

育児の鉄則からははずれているかもしれない、でもきっとあなたを救ってくれる、
後悔を残したくないあなたへおくる、少々劇薬!の育児書
✓  脱「YouTube漬け」の秘策
✓ 褒めて育てなくていい
✓ 勉強よりも大事な教育
✓ 2種類の怒り方を使い分けよう
✓ どうしたら子どもを信じられるか?
子どもにイライラしたり不安になってしまう、お母さんのための本です

明るい方向、良い方向に子どもと自分をもっていけるように。

お話しを伺ったのは

あぴママ

マンガ描いたり旅したり1人で喋ったりする主婦。マンガに出てくるのは中学生娘のあぴちゃんとか保護犬カワちゃんとか。『母を生きのびる本』著者です。

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取材・文/平丸真梨子

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