親の離職など低学年の不登校は家庭の一大事になることも! 苦しむママパパにまず伝えたい「親がしなくてもいいことリスト」

小学生の不登校は年々増加しています。「無理に学校に行かせなくてもよい」という考えは少しずつ広がる一方、実際にどのように対応していくのがよいか迷ってしまう親御さんは少なくありません。『小学生不登校 親子の幸せを守る方法 400人の声から生まれた「親がしなくていいことリスト」』を出版された不登校ジャーナリストの石井しこうさんに、近年の不登校の傾向や、親の声から生まれたという「しなくていいこと」について伺いました。

「小1から不登校」も珍しくない時代。不登校の低年齢化が進む

――不登校の小中学生は増え続けていますが、近年の傾向はありますか?

石井さん 小学生の増加が著しく、この10年で約5倍になっています。特に私が取材をしたり、相談を受けたりする中で感じるのは、低学年での不登校が増えていることですね。以前は高学年や中学生が多かったですが、最近では低年齢化し「小1から不登校」というケースも珍しくなくなりました。

――その背景にはどんなことがあるのでしょうか?

石井さん いじめや子ども自身が集団生活に合わないなど、さまざまな要因があり、それらが組み合わさっていることも多いです。ただ、そこには大きく分けて3つの背景があると考えています。

学校で求められる行動水準が高い

低学年の子どもの不登校が増え続けている(写真はイメージです)

時間を見て早めに行動する「チャイ着」と呼ばれるチャイム前着席の徹底や、給食時のルール「黙食」や「完食」など、子どもたちに対する学校の中での行動基準が厳しくなっています。給食時に残り時間がわかるようにタイマーを見ながら食べる学校もあるといいます。そして、班ごとの相互監視のような運用など、同調圧力が強まり、「できる子ができない子を叱責する」という土壌が生まれやすくなっています。

早期教育によるストレスと過労

習い事や受験準備などによる過労やストレスが考えられます。たまったストレスのはけ口としていじめに走ってしまうケースがある一方、塾での成績やテストの結果などによって「自分は勉強ができない」と、劣等感を感じてしまう子どももいます。

親の気づきが早くなった

こちらはプラスの面ですね。子どもの体調不良や「学校に行きたくない」という声を親がきちんとキャッチできるようになっていると感じます。残念ながら我々の親世代にはあまりなかったことだと思います。「メンタルヘルスリテラシー」(心の健康に対する正しい知識)のある人が増えたことによって、今までは無理やり学校に行かされていた子どもも適切に休めるようになったということです。

――低学年の不登校となると、不安になる親御さんも多いのではないでしょうか。

石井さん まず直面するのがお留守番問題ですね。小学校低学年では1日単位の留守番は現実的ではありません。そのため、私が以前実施したアンケートでも5人に1人の親が「子どもが不登校になったことで離職せざるを得なかった」と答えています。しかし、一方では祖父母の協力を得たり、介護休暇を活用したり、極力テレワークに切り替えるなどして対応したという事例もよく聞きます。早い段階で親が子どもの不登校を受け入れ、子どもの心が安定すると、さまざまな態勢が整えやすく、結果として親も働きやすくなります。

当事者のリアルな声から作られた「親がしなくていいことリスト」

――石井さんのご著書には「親がしなくていいこと」の10個のリストが書かれています。特に親が知っておいた方がよいことはありますか?

石井さん これは私が考えたわけではなく、不登校の子どもを持つ親たちが実際にやってしまった、いわば「地雷のリスト」です。行き渋りや不登校の問題に直面した親は、つい「よかれと思って」さまざまな手を打ちます。でも、実はそれが逆効果になっていることが少なくありません。このリストが親自身の視点を変えるきっかけになればと思います。

「出席」「欠席」にはこだわらなくていい!

何とか登校日数を増やそうとする親御さんもいますが、「学校がつらい」という子どもを無理に学校に行かせようとすると、体調にも悪影響で、精神的に追い詰めてしまうことになります。

やってはいけないのは、子どもに「学校に行きたくない」と言われたときに、「なんで?」と理由を問い詰めたり、「明日、1日だけは頑張ってみようよ」などと提案したりすることです。子どもの「行きたくない」は SOSを発している状態。まずは「そうなんだね」とお茶をにごし、子どもの気持ちを受け入れるところから始めてみてください。

無理な自宅学習はしなくていい

家庭学習は焦らなくてもOK(写真はイメージです)

不登校になると学習の遅れが気になってしまうのは当然です。何とかドリルなどで学習させようとする親御さんも多いでしょう。しかし、不登校になったばかりの時期の子どもは精神的に苦しんでいるときなので、まだ学びの準備ができる状況ではありません。いったん学びから遠ざけてあげるほうが、後の学びの意欲につながります。時間が経ち、本人に学びたいという意思が出てきたらオンラインスクールなどを活用して学ぶのがよいかと思います。

同伴登校はしなくていい

低学年は特に「保護者が一緒なら来られるのでは」と、同伴登校を提案されることがよくあります。一見すると子どもの不安を軽減できるように思えますが、同伴登校を経験した親御さんに聞くと、これは「修羅の道」だといいます。始めは子どもの意思を尊重したつもりでも、最終的には「行きたくない学校に無理やり連れて行く」という形になりやすく、親も子も追い詰められてしまうのです。なかには、親も学校を見ると手に汗をかいたり、ドキドキしてしまったりすることもあります。このような場合は、「お母さんがつらいから、同伴登校はもうやめたい」と切り出し、子どもが同意したら、その場で終わりにしてOKです。

ゲームは禁止にしなくていい

ゲームが子どもの心を落ち着けている(写真はイメージです)

石井さん ゲームの時間に制限をつける必要はありません。「好きなだけゲームをやったらいいよ」と言ってあげることで、結果的に子どもの回復がスムーズに進み、自分のペースで落ち着きを取り戻しやすくなります。大人から見ればゲームはただ遊んでいるだけのように見えますが、傷ついた子どもたちにとってはゲームは不安を紛らわせるものでもあるんです。とはいえ、なかなか親御さんにとってはすぐに受け入れられるものではないかもしれません。その場合は、本人にルールを決めさせて、親はそれをサポートするというスタンスがよいと思います。ゲームが支えとなる時期はあっても、ずっとそれに頼り続けるわけではありません。焦らず、あたたかく見守ることが大切です。

子どもの不登校でも「介護休暇」が利用可能な場合も。学びの場も広がっている

――不登校に関する情報はどこで得るのがよいのでしょうか?

石井さん まずは、お住まいの地域で行政が不登校の子どもに対してどんな支援をしているのかという情報を集めるのがよいと思います。できれば民間のサービスも調べて、どんなロールモデルがあるのかというのを整理することが必要になります。ただ、正直にいうとこれはなかなか時間がかかります。正社員の方であれば、できれば介護休暇を取っていただくのがよいと思います。

――不登校の子どものケアにも介護休暇が使えるのですね!

石井さん 知らない方も多いのですが、状況的に1週間以上の介護(家に一緒にいなければいけない状態)が必要な場合は、子ども1人当たりに最大90日間、3分割で介護休暇が取得できることになっています。たとえば最初の30日間は情報集め、次の30日間は子どもが学校に行かない状態でも、どうすれば自分の働き方を構築できるか考えたり、準備したりするために使うということもできます。残りの30日は予備として取っておくと安心です。(※具体的な適用要件は勤務先の就業規則でご確認ください)

――最近はフリースクールに行く子どもも多いのでしょうか?

石井さん 統計でみるとフリースクールに通っている子どもは全体の4パーセント程度にとどまっています。ただ、最近はN中等部をはじめ、オンラインで通えるフリースクールも増えているので、学びの場は広がっていますね。東京都をはじめ、授業料補助がある自治体もあります(条件あり)。

――不登校のお子さんを持つ親御さんにメッセージをお願いします。

ご自身も不登校を経験。不登校に関する取材を続ける石井さん

石井さん この本を出した後、いろいろな方のお話を聞いて改めて思いましたが、親御さんたちは「24時間365日営業」をされてるんですね。いわば慢性的な過労状態なんです。ですから、できるだけ「閉店時間」や「休業時間」を30分でもいいのでとっていただきたいです。好きな紅茶を飲むとか、誰かに子どもを預けて喫茶店に行って一息つくとか、そういった時間も子育ての一部として大切にしてください。

ありがとうございました。突然子どもが不登校になった親は、どうすればよいか不安になってしまうと思います。しかし、こういった当事者の方からの声を知ることで子どもへの視点が変わり、親子ともに疲弊してしまうような事態を避けられるのではないかと感じました。ぜひ石井さんの新刊『小学生不登校 親子の幸せを守る方法 400人の声から生まれた「親がしなくていいことリスト」』も読んでみてくださいね!

 

石井しこう KADOKAWA 1,650円(税込)

【行き渋りが始まったら最初に読む本】
★精神科医さわ先生推薦★
大切なのは学校に行けるか行けないかじゃない。今、目の前の子どもの心が豊かかどうか。

小学生不登校は10年前より5倍以上増えて13万370人。親の約5人に1人は離職。
どうすれば親子の幸せを守れるのか。
400人の経験者の声から編み出した不登校解決のためのライフハックを全部紹介します。

お話を伺ったのは

石井 しこう 不登校ジャーナリスト

1982年東京生まれ。
中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校に。同年、フリースクールへ入会。
19歳からはNPO法人で、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なうほか、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者にも不登校をテーマに取材を重ねてきた。
現在はNPOを退社し不登校ジャーナリストとして講演や取材、「不登校生動画甲子園」「卒業式をもう一度」の開催などイベント運営などでも活動中。【Yahoo!ニュース 個人】月間MVAを二度受賞。著書に『学校に行かなかった僕が、あのころの自分に今なら言えること』(大和書房/2025年5月刊行)、『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)。

取材・文/平丸真梨子

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