口の中が渇く「口腔乾燥」
日本では季節風などの影響で春~夏は湿度が高く、秋~冬は低くなって空気が乾燥する傾向にありますが、この時期は目や口も乾燥しやすい季節でもあります。
口の中が乾燥する症状が強まると「ドライマウス」と呼ばれますが、その原因は多岐にわたります。唾液の潤いが失われることで口の中が渇くわけですが、その原因をいくつか挙げてみましょう。
唾液分泌低下(加齢による唾液腺の機能低下、ストレス、薬の副作用など)
口を潤す唾液が減ると、口の乾燥につながります。(関連記事はこちら≪)
不正咬合(開咬、上顎前突など)
歯並びや噛み合わせに不正があって隙間ができると、口の中の水分が蒸発して渇きやすくなります。(関連記事はこちら≪)
口唇閉鎖不全
上下の口唇の間に隙間がある“お口ポカン”状態だと、同様に口の中の水分が蒸発しやすくなります。
自己免疫疾患
唾液を作る唾液腺や組織が自己免疫で傷害されると唾液分泌が低下し、口の乾燥につながります。中でも頻度が多いとされるシェーグレン症候群(以下、SS)は2010年に広島大学病院口腔検査センター・ドライマウス外来の研究グループが報告した調査では、108人のドライマウス患者のうち、SSの基準を満たして確定診断された人が12人(約11.1%)になりました。
SSは目などの乾燥も伴い、日常生活への影響度も高い疾患ですので、詳細を解説していきます。
SSとはどのような病態なの?

この症候群は1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが論文で報告したことが名前の由来で、目や口の乾燥を主症状とする病態であり、国により難病指定(指定難病53)されています。
中高年を中心に発症しますが、若年者や子どもでも認められることがあります。男女比は1:14で女性に多く見られ、全身の外分泌腺が系統的に傷害されることが特徴です。
外分泌腺の中でも涙腺と唾液腺の傷害が中心となり、傷害が進行すると、涙液の分泌低下による眼の乾燥、唾液腺の分泌低下による口の乾燥などの症状が表れます。
しかし、必ずしも自覚症状が認められるわけではなく、虫歯の増加や口内炎の多発などからSSが見つかることもあります。
基本的に生命予後への影響はないですが、臓器への傷害が及ぶケースでは余命に影響が出る可能性があります。
口のSSの検査法・診断法として、ガムテストやサクソンテストで唾液分泌量を測定したり、エックス線を用いた唾液腺造影検査で唾液腺の状態を調べたりするほか、1999年に厚生省(現・厚生労働省)がまとめたシェーグレン症候群診断基準などが使用されています。
SSは日常生活に大きな影響を与える
2018年にSS患者100人を対象に実施されたアンケート調査によると、SS患者の95%が口の渇きを自覚し、そのうち61%が「とてもつらい」「ややつらい」とつらさを感じていることが明らかになりました。
また、口の渇きで起こる症状で「とてもつらい」「ややつらい」と回答した割合が最も多かったのが「虫歯が増える」で、次いで「食べにくい」「口臭が気になる」など、様々な悪影響があることも浮き彫りになりました(図1)。

このように日々の生活に直結した不快症状を示し、患者のQOL(生活の質)を著しく低下させるSSですが、大人だけでなく子どもでも発症しますので、詳細を解説します。
小児SSの特徴
子どものSSは小児10万人あたり0.53~0.71人(統計により差がある)の有病率があり、小児の自己免疫疾患ではSLE(全身性エリテマトーデス)などとともに高頻度に認められることで知られています。
男女比は1:4.7で女児に多いものの、成人(1:14)ほど大きな差はありません。発症する年齢は小児全般にわたっていますが、小学校高学年で多くなり、12~14歳で発症するケースが最も多い傾向があることが明らかになりました(図2)。

また、小児SSの有病率は地域差があることが知られており、小児10万人あたりの有病率が2人を超える県がある一方、20を超える都道府県で0人になっています(図3)。

その理由として、小児リウマチ専門医がいない地域では、ほとんど患者が登録されていないなど、診断できる医師不足などが考えられます。ですから、実際には存在するけれども、確定診断されていない“隠れSS”患者がいる可能性が指摘されています。
SSの診断時に、大人では口の乾燥症状が認められることが多いですが、子どものSSでは乾燥症状の訴えが少なく、発熱や繰り返す耳下腺の腫れ、関節症状、皮疹、全身的な倦怠感などの症状をきっかけにしてSSと診断されるケースが多くなっています。
唾液の分泌量が減少しているにも関わらず、本人がまったく口の乾燥を意識していないケースも少なくありません。
子どものSSの問題点
唾液には食べかすを洗い流す自浄作用や、虫歯菌の増殖を抑える抗菌作用、酸で溶け出したカルシウムを再び歯に沈着させる再石灰化作用など、歯を健康に保つ多くの作用があります。
一般的に小児期は歯の交換(歯の生えかわり)があって歯磨きしにくいだけでなく、永久歯に比べて歯質がやわらかい乳歯や幼若永久歯(生えたばかりの永久歯)があるなど、生涯を通して最も虫歯になりやすい時期です。この時期にSSにかかると、唾液の機能が正常に働かないため、虫歯リスクが高まります。
虫歯になると歯の欠損や痛みなどにより栄養摂取に支障が出て、子どもの発育・成長への悪影響も懸念されます。ですから、小児期の虫歯予防対策はとても大切なのです。
また、唾液が減って言葉の滑舌に悪影響が出ると、話しにくくなって友達や周りの人とのコミュニケーションに支障が出ることもあります。

子どもの耳の下辺りに腫れがあったり、子どもが普段と違って食事を食べにくそうにしていたり、口の臭いが強まったり、虫歯が急に増えたりすれば、SSのサインである可能性も考慮しましょう。
もし、そのような“いつもと異なる”変化に気付いたら、速やかに小児科や内科、歯科などを受診するようにしてください。なお、SSの検査や治療を行っている医療機関は限られていますので、対応しているか否かを受診前にあらかじめ確認しておくことも重要です。
治療法と対応策
SSを根本的に治す方法は、残念ながら現時点では見つかっていません。
そのため治療法は、目の乾きに対しては目薬(人口涙液など)を処方し、口の渇きに対しては人工唾液の定期的な噴霧、保湿剤の塗布、唾液分泌を刺激する内服薬の使用などを行い、食後や就寝前の歯磨きを徹底するよう口腔衛生指導に力を入れて虫歯予防に努めることが大切です。つまり、それぞれの症状を軽減するための対症療法を行うのが基本です。
ただし、対症療法は一時的に症状を緩和することはできても、病気の進行を遅らせることはできません。ですから、SSの影響を最小限に食い止めるには、できるだけ早期に異常に気付くことが重要です。
しかし、子どもは自覚症状が出ないことも少なくないため、発見が遅れがちです。このような特徴を踏まえつつ、SSなどを原因とするドライマウスに向き合うようにしてくださいね。
参考:北川雅恵ほか:ドライマウスの臨床統計的検討-広島大学病院ドライマウス外来の診療-.日本口腔検査学会雑誌2(1),69-73,2010.
:難病情報センター・ホームページ|シェーグレン症候群,2025.
:株式会社Qlife|シェーグレン症候群による「口の乾き」に関する患者実態調査.2018.
:武井修治ほか|小児慢性特定疾患治療研究事業(小慢)のデータベースを利用した稀少膠原病の検討-小児シェーグレン症候群-.平成18年度厚生労働省科学研究費補助金分担研究報告書.20-23,2007.
:横田俊平|若年性関節リウマチの実態調査とQOL向上の医療・行政施策立案.平成12年度厚生科学研究補助金研究報告書.13,2001.
:宮坂信之|厚生省特定疾患自己免疫疾患調査研究班平成7年度研究報告書.1996.
:武井修治|小児シェーグレン症候群SSの病態と臨床像-成人SSとの異同を中心に.Jpn J Clin Immunol 33(1), 8-14, 2010.
:謝花幸祐|小児シェーグレン症候群の特徴と治療.臨床リウマチ30,15-22,2018.
