近年、「プライベートゾーン」を子どもに伝えることが一般的になってきました。これは非常に望ましい流れですが、その一方で、保護者や保育者、教員からの相談が増えています。
特に多い質問は「子どもにどう話せばよいか」です。
大人が幼い子どもに性教育を始める際、迷いやすい理由は大きく2つあります。一つは子どもの理解度や関心、2つ目は、発達段階の違いと、家庭によって違う性に対する考え方の差です。
この2点が、保護者や指導者が判断に迷う主な要因です。
4歳前後から伝えるのが望ましい理由

私がよく保護者にお伝えしているのは「4歳前後で本人から質問を受けたときに教える」ということです。
3~5歳ごろは性別理解が大きく進む時期で、4~5歳に“性の安定性(成長しても同じ性であること)”の理解が深まるということが、その根拠です。
つまり4歳前後は「自分と周囲の身体的な違い」に気づき、質問が増える時期なのです。
しかし保護者は「どう答えればよいか分からない」「子どもが他人に話してしまうのでは」と戸惑うことが少なくありません。
特に男の子が母親に質問する場合、異性にどう説明したらいいかと相談を受けます。ただし、この3~5歳頃の「子どもが疑問を持ったタイミング」こそ、学びのチャンスです。
子どもからの質問は成長のサイン
・ママのおっぱいはどうして大きいの?
・(陰部に)どうして毛が生えているの?
・男の子だけにおちんちんがあるのはなんで?
などと聞かれたら、まず「違いに気づいたね」と肯定してください。これは成長の証です。
その上で、トイレやお風呂が男女で分かれていること、プライベートゾーンがあることを伝えると理解が深まります。
ただし3〜5歳ぐらいの年齢では「どこで話してよいか」の判断はまだ難しいため、保護者が戸惑う背景には公衆の面前など、「子どもが不適切な場面で大声で話してしまうのでは」という不安があります。
性の話は大人から伝えるもの

ここで重要なのは性の話は責任が伴うため「子ども同士で話すことではなく、正しく教える責任がある大人から子どもに伝えるもの」であることを教えることです。
次の3点がその具体的な理由です。
・理解の個人差~「あなたは分かる時期に来たから話すけれど、お友達はまだかもしれない」と伝える。
・家庭の違い~「お家によって話すタイミングは違う」と説明する。
・話すのは大人から~「性の話は大人から子どもに教えること。だからお友達に教えたり、外では話さない」と伝える。
もし理由を聞かれたら「また次の段階に成長すると分かるから、そのときに話すね」と伝えると納得しやすいでしょう。
異性のトイレ付き添いは多目的トイレを使う

近年は男児も性被害の対象となる事例が報告されており、幼児を一人でトイレに行かせるのは望ましくありません。
しかし、シングル家庭や発達障害・身体的サポートが必要な子どもでは、異性の親が付き添う必要がある場合があります。かといって異性のトイレに一緒に入る、連れて入るのは、よほど切迫した状況でない限り、賛成できません。
その場合、異性トイレではなく多目的トイレを利用することを推奨します。
理由は次の2つです。
・親の言動が一貫しないと子どもが混乱する
・幼児期は「恥ずかしさ」や「状況判断」が未発達で、特に発達障害のある子は理解が難しい
多目的トイレであれば「ここは大人が手伝う特別な場所」と一貫して説明でき、理解を助けます。
性の価値観を伝えることで、子どもが自分の権利を守る意識を育むことに
プライベートゾーンは見せたり、触らせたりしてはいけないし、他人のプライベートゾーンも見たり、触ったりしてはいけない場所。
でも、身体の健康を守るために必要な場合や清潔のために、大人が手伝う場合には見せていい場合もある、ということを一貫性をもって伝えることで、子どもは社会における「身体性別による区別」と「診察、介助が必要な特例」を理解していきます。
子どもに性の価値観を伝えるのは保護者の大切な役目です。幼少期から段階的に準備し、自分の身体の権利を守る意識を育むことが、性被害の予防にもつながります。
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記事監修

保育士、公認心理師。発達障害の女の子の性教育や身だしなみ教育を行う放課後等デイサービスLuce(ルーチェ)を2022年まで運営。現在は障害のあるお子さんと保護者が一緒に通うことができる脱毛サロンLuceを運営(施術中に療育相談に対応可)、子育てや療育相談、事業所での性教育のやり方、職員研修やコンサル、講演等を行う。著書に『発達障害の女の子のお母さんが、早めに知っておきたい「47のルール」』、「発達障害の男の子のお母さんが早めに知っておいてよかった事70」(エッセンシャル出版)、『発達障害の女の子の「自立」のために親としてできること』(PHP研究所)がある。
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