五味さん(以下敬称略)「Tom Waitsという才能の塊みたいな男がいて、『Time』という曲が、すごくいいんだよ。適当に歌ってたんだけど、意味がよくわからないところがあって、金原くん訳してくれってお願いしたことがあるんです」
金原さん(以下敬称略)「わかりました、すぐ訳しますとお答えしたんですが、そのままになっていて。そうしたら、10年後に『Timeの歌詞まだ?』とメールが来まして…(笑)実は何度もトライしたんですが、歌詞が本当に難解で…いろんなアメリカ人に聞いても、意見がバラバラなんです」
五味「最初に出てくる『smart money』って、どういう意味?」
金原「えっと…ほっそりしたお金、ですかね?」
五味「何それ(笑) でも。異国の人間は何を考えているのかなということは、やっぱり言葉を辿っていくと面白いじゃないですか」
こんな軽妙なやりとりからトークははじまり、五味さんの絵本『ジャズソングブック』や様々な曲の歌詞について話が進んでいきます。

金原「英語は”I”しかない。日本語は”私”、”僕”、”俺”、”あたし”といろいろある」
五味「”自分”とか言うやつもいるよね。”己”とかね(笑)」
金原「そうなんですよ。たくさんあって。語尾の終助詞も難しくて、”だぜ”とかにするだけで印象が変わりますし。翻訳する時はそういう部分がかなり気になる部分です」
一人称ひとつで、そのキャラクターの人格が決まってしまう日本語。翻訳することで見えてくる、英語と日本語の違い、翻訳する時の解釈や表現について語り合いました。
そして、金原さんが展示にずらりと並ぶ翻訳本を見て感じた面白さとは?

金原「五味さんの絵本の英語版とかもあって、面白かったです。たとえば『きんぎょが にげた』。普通はああいう絵本を描くと、みんな『あの金魚はどこ?』というタイトルにしちゃうんですよ。みんな金魚を探してしまう。五味さんは『きんぎょが にげた』だから英語版も『The Goldfish Got Away』にしているんです。センスがいいなぁと思いました」
五味「それはロバート キャンベルさんが英訳してくれたやつだね。彼は整合性を持って英語にしたいんだと思う。そのことについては、彼自身とこの場で話そうかな。(次次回のギャラリートークのお相手はロバート キャンベルさん) でも、別の英語版には『Where’s the Fish?』というタイトルの本もあるよ。ちょっとしたニュアンスの違いだよね」
同じ絵本でも、翻訳者によってタイトルが変わる。それは単なる言葉の置き換えではなく、その絵本をどう解釈するか、という翻訳者の視点の違いでもあります。
では、正しい日本語とは?

五味「言葉って比較してみると面白いもので、これじゃなきゃいけないなんて言葉はありえないんですよね。だから正しい日本語というものもありえない。ただ、正しい日本語というものをどこかに置いておかないと、日本語の統一性を保ちづらいってだけじゃないかな。今俺たちが話している言葉も全然正しい日本語じゃないわけだよ」
ここから、横書きと縦書きというテーマで話は進み、漫画や絵本の縦書き横書きにおける絵の左右反転について、横書きと縦書きの向き不向きや特徴、海外で絵本を出版する際に感じるその国の文化など、改めて言葉や本について、またその面白さについて深く考えさせられる時間となりました。
そして10年越しの宿題――Tom Waitsの「Time」の歌詞翻訳は、結局この日も完成しなかったのでした。言葉と翻訳をめぐる、笑いと発見に満ちた72分。この対談の全編は配信でご覧いただけます。
配信予告
【五味太郎ギャラリートーク】
坂本美雨さんをお招きしてのスペシャルトーク
開催日時:2026年1月23日(金) 18:00~20:00
ゲスト:坂本 美雨さん (ミュージシャン)
980年、音楽一家に生まれ、東京とニューヨークで育つ。1997年、「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義で歌手デビュー。99年、映画『鉄道員(ぽっぽや)』の主題歌を歌い、注目される。音楽活動に加え、ラジオやテレビの司会、ナレーション、執筆、演劇など、表現の幅を広げている。TOKYO FM/JFN系全国ネットのラジオ番組『坂本美雨のディアフレンズ』パーソナリティ、NHK Eテレ『日曜美術館』司会。著書に、娘との日々を綴ったエッセイ『ただ、一緒に生きている』など。2025年、映画『国宝』の主題歌「Luminance」の作詞を担当、11月には森山開次演出の舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』に出演。動物愛護活動をライフワークとし、“ネコの人”としても知られる。児童虐待を減らすためのプロジェクト『こどものいのちはこどものもの』の発起人の一人でもある。オフィシャルサイト:www.miuskmt.com
イベント終了後、お好きなタイミングでご視聴いただける【アーカイブ配信】のオンライン配信チケットをご購入いただけます。
(配信終了は 2026 年 5 月末日。※アーカイブ配信は、内容を一部カットする場合がございます。)
※本記事は、1 月 16日開催のトークイベントを再構成したものです。
五味太郎 絵本出版年代記展 「ON THE TABLE」

会期|2025年12月12日(金) ~ 2026年2月15日(日)
会場|LURF GALLERY 1・2F
時間|11:00 – 19:00
住所|150-0033 東京都渋谷区猿楽町28-13 Roob1
料金|入場バッジ ¥1,500(会場販売のみ)
※会期中バッジご提示で何回でもご入場可能
※未就学児は入場無料
※1Fの展示は入場無料
人生にモヤモヤしている人にもおすすめ!
『そういうことなんだ』五味太郎著
2026年3月5日発売
予約スタート!
文/柿本真希